短編2 | ナノ


▼ 園芸部不良×カリスマ会長

「俺、お前になりたい」
「はっ?何言ってんだよ」
ジトッとした目でトマトに水をあげる久志(ひさし)を見つつ、俺はため息をついた。

「自分で言っちゃうけどさー、俺ってば完璧じゃん?」
俺の発言を聞き、久志は俺の事をチラッと見たあと
はははと笑い『そうだな…んで?』と続きを急かした。

「だからいつもどこ行っても注目の的な訳よ。それがぶっちゃけ俺としては嫌でさー、見られてるとヘタな事は出来ないし、俺は久志になって自分の好きなことだけをしていたい」
「ふーん」
興味なさそうに久志は返事をし、カラになったジョウロに水を入れるため、水道があるこちらへと歩いてきた。
近付いてくる久志に、先ほどもらったキュウリを食べつつ『このキュウリ、美味い』と言うと『どーも』とだけ返された。

「まぁな、お前の言いたいことはなんとなくだけど俺にもわかる。
だけどお前が生徒会長をしてるのも、成績が良いのも、お前が努力した結果だろ?
見た目とか運動神経は元々備わってるもんだから何も言えねぇけど、みんなそんなお前を尊敬してるから見てるんだろ?そんぐらい、いいじゃねぇか。それに…」
ニヤッと久志は笑い、泥の付いた軍手で俺の顔に触った。

「ちょっ!やめろ!!泥が付いた!!!」
「別にカッコ悪くても何だっても、お前はお前だろ?『俺になりたい』んじゃなくて、『俺みたいに』お前も好きなことをすればいいじゃねぇか。
泥が付いてても超絶カッコいいぜ?カリスマ生徒会長様」
久志のカッコ良すぎるセリフに、思わず俺の顔がふにゃっと綻んだ。







部長会議の時にいつも部長が来ない部活があった。それが『園芸部』。
本来なら3年である部長が来るはずの会議には、いつも素朴な顔をしたジャージ姿の2年生である野口(のぐち)が会議にはやってくる。
野口に『部長は?』と何度か聞いたが、その度に野口は『先輩は忙しい人なんです』と目線を彷徨わせ、オロオロとしながらも答える。
呆れながらも『…どんなに忙しくても、次からはちゃんと部長が来いよ。今回は特別だからな』と言い、最初は許したが、その後の部長会議でも園芸部の部長は来なかった。

本来なら放課後は部活があるはずの部長達がこうして時間を割いて来てくれている訳で、たかが1つの部活の部長が来ないからと言って進行を遅らせる訳もいかず、仕方なく、野口を園芸部の代表として会議を行っていた。
だが毎回毎回何度言っても2年である野口が部長会議に出席するので、今だに見たことのない園芸部部長に俺は腹を立て、とうとう俺は園芸部に乗り込むことを決めた。


「ここが園芸部… 」
驚いた…。
部員数は2人だけで、廃部寸前の部活だと聞いていたから、さそがし酷い有様だろうと予想していたが、俺の予想は見事に裏切られ、そこにあったのはたくさんの花々と、生き生きとした野菜達だった。

こんなに広くて、たくさんの作物があるここを2人だけで育てている?
そんな訳ない。あり得ない…と驚いていると、後ろの方から声が聞こえ、近付いてくる声にサッと俺は物陰に身を隠した。

「野口テメェ、昨日水やり忘れたろ?」
「えー!?昨日は先輩の代わりに僕が部長会議に出るから、水やりは先輩に任せたじゃないですか!!」
「あっ?…あぁ、そういえばそうだったな…わりぃ。」
ちらっと物陰から会話をする2人を見て、俺は目を丸くした。
そこにはジョウロを持った野口と、その野口の隣には、何故か両肩に肥料を担いだ山本久志がいた。

山本はこの学園ではとても有名な生徒だった。…ガラの悪い、先生達でも手が付けられないという不良生徒として。
そんな奴が何故ここにいるのか…
山本はいつもの着崩した格好ではなく、ツナギ、長靴、軍手、首元にはタオルという格好に俺の頭は1つの答えを導き出した。

「え?は?もしかして山本が園芸部の部長なのか?」
突然物陰から現れた俺に、山本と野口が驚き会話をやめた。
「なんでお前が……え?」
驚く俺に山本は気まずそうに頭をかき、はぁとため息をついたかと思うと、ゆっくりと俺の所へと近付いてきた。

「お前、ここの会長様だよな?…お前の言うとおり、俺が園芸部の部長だよ。
今回のお前みたいに、俺が園芸部だって知ると、驚かれたり、部員が入って来ねぇからワザと隠してんだよ。」
赤髪の不良として有名な山本のギャップに俺は思わず噴き出してしまった。

「会長…そんなに笑ったら…」
野口の言葉にチラッと山本を見ると、その瞬間身体に衝撃が走った。
「っ…!ってぇ」
モロに山本の拳が腹に入り、痛みに腹を押さえる。
「人の趣味を笑うなクソが」
「そうですよ!!どんなに園芸が似合わないからって、笑うのはダメですよ!こう見えて先輩、すごく繊細なんですから」
『お前も何言ってんだバカ』と野口を小突く山本に、俺はまた笑った。

「テメェ、学習しねぇな…また殴られてぇのか?」
「違う!違う!今度はそういう意味で笑ったんじゃねぇから」
両手を前に出し、今にも殴りかかりそうな山本に俺は待ったをかけた。

「お前の事ずっと、先生の話も聞かねぇワガママの構ってちゃんだと思ってたからさ、本物のお前は俺の予想を良い意味で裏切ってばっかでスゲー楽しくって」
そう言って笑う俺に、山本は構えていた拳を下げた。

「俺がこういうことしてんの似合わないって、自分でも十分わかってっけど、……好きなんだよ…こーいうの…」
笑いたきゃ笑えよ。まぁ笑ったら殴るけど…と言う山本に俺は顔を引き締め、向き直る。

「いいんじゃねぇの?似合ってるとか似合ってないとかなんて…。自分の好きな事して何が悪いんだよ。
他人がどんだけ笑ったって自分の好きな事は変わんねぇだろ?じゃあ自信持て。
そりゃあ俺も最初は驚いたけど、好きな事があって、それを一生懸命頑張ってるのって、超絶カッコイイぜ」
俺の台詞に山本は唖然とした顔を浮かべたが、直ぐに今度は山本が噴き出した。

腹を抱えて大笑いをし、『そんなに笑うんじゃねぇよ。なんだよ』と聞くと、『んな事初めて言われた。確かにな…お前の言う通りだと思うわ。誰がなんと言おうが俺は俺で、この趣味を辞めようなんて思わないからな』
笑う山本の姿はどこか輝いており、俺までつられてまた笑ってしまった。




元々山本とは波長が似ていたのか、話しているうちに意気投合し、気付けば俺達はお互いを名前で呼び合う仲にまでなっていた。
くだらないことで笑い、ふざけ合う。
なんで今まで俺は野口と話したことがなかったんだろうと疑問に思っていると、水をあげていた野口が『そういえば』と言って喋り出した。

「会長はなんで今日、園芸部なんかに来たんですか?」
「…あっ………」
野口の言葉に、俺が何故今日園芸部に来たのかという本来の目的を思い出した。

「いっつもいっつも部長会議を野口に任せる部長に、俺から直接ガツンと言って、今度からはちゃんと部長が来るよう本人に言おうと思ってきたんだった」
…んで、部長である久志が今度からちゃんと部長会議には出てくれるよな?と聞くと、仕方ないなぁという顔をした後『まぁいい機会だし、園芸部の部長は俺だって言ってみるか。そしたら普通の奴は絶対入んねぇけど、いつも『舎弟にしてください』って言ってくる奴等が入ってくれるかもな』
その言葉にすかさず野口が『えー!それじゃあ僕の居場所がなくなっちゃいます。』と挟むと
『大丈夫だ野口。強く生きろ』とニヤッと笑う久志は楽しそうで、園芸部の2人が羨ましく、俺も仲間に入れて欲しかった。





結局久志は俺のしつこい押しに負け、部長会議には出てくれるようになった。
そして今では、久志が部長をしている園芸部を知らない人間は1人もいなくなった。







補足

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