短編2 | ナノ


▼ 弟×兄3

リクエスト


期待してなかったと言ったら嘘になるが、まさか裕司からお返しが来て、しかもそのお返しが飴だとは想像もしていなかった。
驚いて友人にそのことを直ぐさま電話で伝えると、『良かったな』と言われた。

「良かったなって……」
『バレンタインデーのお返しが飴だったんだろ?ってことは、相手もお前のことが好きってことじゃねぇか』
「本当にそうなのかな?たまたま飴にしたのかもしれないし……」
ホワイトデーのお返しに渡すものにはそれぞれ意味がある。
マシュマロは『あなたが嫌いです』。
クッキーは『友達でいてください』。
そして飴は『あなたが好きです』。
もしかしたら裕司はお菓子に意味があることを知らずに、適当に選んだのかもしれない。
きっとそうだと自分に言い聞かせ、落ち着こうとするが、『ひょっとしたら、裕司は僕のことが好きなのかもしれない』という思いがあって、どうやっても気持ちがソワソワしてしまう。

『いっそのこと本人にどういう意図でこれをくれたのか聞いてみればいいだろ』
「そ、そんなこと聞けるわけない「ピンポーン」……ごめん、誰か来たみたい。また後で連絡するよ」
『おう、じゃあな』
突然のインターホンの音に友人との電話を終了させ、玄関へと小走りで向かった。
ついさっき裕司からの荷物を届けに管理人さんが来てくれたが、その時に何か言い忘れたことでもあったのか?と思いながら扉を開けると、何故かそこには僕の気持ちをソワソワさせている張本人である、裕司の姿があった。

『俺が送った宅急便届いた?』
『ホワイトデーのお返しは、飴にしたんだ』と驚いている僕に構わず、ニッコリ笑いながら裕司はそう言い放ち、僕はさらに混乱した。
あえて飴にしたのなら、その意味を裕司はわかっていて贈ったのかもしれない。

何か喋りたいが、飴のことや突然の裕司の訪問に驚いて、何も言葉が出て来ず、パクパクの口を開閉させることしかできない。
そうこうしているうちに裕司は「お邪魔します」と言って部屋へと入り、荷物を部屋の端に置いた。

「さて兄貴、俺はなんでずっと兄貴に避けられてたわけ?」
「……」
裕司の言葉にパクパクと開閉していた口を、僕はギュッと閉じた。

言える訳がない。
裕司に甘く優しく抱かれる夢を見て、自分が弟である裕司を好きだと自覚をし、罪悪感と背徳感から裕司と顔を合わせるのが気まずいなんて。

何も言わない僕を裕司は壁へと追いやり、逃げ場をなくした僕に身体を密着させ、至近距離で「兄貴?なんで避けてたの?」と聞いてくる。
必死で逃げようとするが、自分よりも体格のいい裕司を退かせられるはずもなく、この状態から脱するために妥協案として「他のことだったら何でも1つ言うこと聞くから」と言ってしまった。
すると裕司は僕の前から退き、少し考えたのち「じゃあ一緒にお風呂に入ろう」と。









1年しか経っていないのに、久し振りに見た裕司は1年前よりもさらにカッコ良くなっていた。
それだけでもうドキドキしまくっているというのに、お風呂で裕司の引き締まった身体を見てしまったり、裕司の足の間に入って頭を洗ってもらったり、破裂するほど始終胸がドキドキと高鳴って仕方がなかった。

風呂から上がった頃にはのぼせきってしまい、動くのも億劫になった。
さすがに裕司が服を着せてくれようとしたのは断って自分で着たが、濡れた髪の毛を乾かす作業は裕司に頼んだ。



「これだけは聞いておきたいんだけど、兄貴は俺のことが嫌いなわけじゃないんだよね?」
髪の毛が乾かし終わったのかドライヤーを切り、真面目な声色で聞いてきた裕司の質問に全力で首を縦に振った。

「嫌いなわけないよ!」
むしろ大好きなんだよ!
その言葉は心の中でだけで言い、口には出さないよう引き結んだ。

「ならよかった。嫌いじゃないって聞けて安心した」
安心したような声に思わず後ろを振り向くと、裕司と目が合った。
真剣な目でジッと見つめてくる裕司の目に、吸い込まれそうになる。

「嫌われてるのかと思ってたから、兄貴からバレンタインデーにチョコもらえて本当に嬉しかった。
……ねぇ、兄貴はお返しに飴をあげる意味、知ってる?」
裕司の手が僕の頬を撫でる。
その手が少し冷たく思えるのは、きっと僕の顔が火照っているからだと思う。
気持ちのいい裕司の手に自分から擦り寄ってしまう。

「……『あなたが好きです』」
「うん、それが俺の気持ち。兄貴のあのチョコはどういう意味だったの?」
「それは……」
これは誘導尋問だ。
きっとバレンタインデーにパウンドケーキを贈ったことで裕司は僕の気持ちに気付いてしまったんだ。
そして気付いた上で、僕にその言葉を言わせようとしている。

「僕も、……裕司と同じ。裕司が好きです」
「よく言えました」
とろけるような優しい笑みを裕司は浮かべ、僕の頭を撫でてくれた。
嬉しい、嬉しい、嬉しい……
ひょっとしたらひょっとしてしまったことが嬉しくて、思わず口からポロリと出てしまった。

「毎日僕の夢には裕司が出てきて、よく裕司に犯される」
「うん」
「裕司に甘い言葉を耳元で囁かれて、ゆっくりと僕の身体へと指を這して、最終的に抱かれる。
こういう風にされたいって僕が望んでいたからきっとそれが夢に出てきたんだと思うと、罪悪感から裕司を見ることができなくなった」
言ってからハッとした。
僕は言わなくてもいいことをペラペラと言ってしまった。
両手で口を押さえるが今更遅く、裕司の顔を見れない。
けれど頬を触れていた裕司の手が僕の顔を持ち上げさせたことで、嫌でも顔が上に向いてしまう。

「嬉しい……嬉しいよ、兄貴。そんで可愛すぎて、兄貴を何回も抱いてる夢の中の俺に嫉妬する」
喜びが抑えきれない、といった顔をしてはにかむ裕司に思わず笑ってしまった。

「ねぇ、兄貴。キスしていい?」
「……嫌だって言ったら?」
「無理矢理する」
「ばか」
チュッと触れるだけのキスをされ、お互い顔を見合わせて笑った。
恥ずかしさと嬉しさで今すぐにでも叫び出したい気分だが、それよりも裕司の嬉しそうな顔にもっとしたいという思いが出てくる。
もう一度口付けようと裕司の顔に近付くと、ガチャッと扉の鍵を開ける音が聞こえ、慌てて裕司から身体を離した。


「ただいまー。って、お客さん?めっちゃイケメンじゃん」
「笹塚(ささづか)!あっ、えっと…」
「初めまして、瀬川馨の弟の裕司です。今年から兄と同じ学校に入学したので挨拶に来ました」
同室者の笹塚の登場に慌てて言葉が出ない僕に代わって、裕司が挨拶をしてくれた。
さっきまでの緩みきった顔は何処へ行ったのかと思う程、今は外用の顔になっている。

「弟!?マジで?」
僕と裕司を見比べて驚く笹塚に、少しだけ鼻が高くなる。

「僕と違ってイケメンでしょ?」
昔から自分のことではないのに、他の人から裕司を褒められると僕は嬉しくなった。
笹塚に「裕司はな、中学時代とかめちゃめちゃモテてたんだよ」と自慢していると、裕司に止められた。

「そういうことはあんま言うなって。あとそろそろ自分の部屋に戻るわ。
笹塚さん、これからも兄と仲良くしてやってください」
「もう帰っちまうのか。おー、またな」
その場で笹塚は裕司に手を振り、僕は玄関へ向かう裕司を追い掛けていった。


「部屋戻ったら連絡する」
「うん、待ってる」

久し振りだったし、もう少し一緒に居たい気持ちはあったが、これからは直ぐに会えるので我慢した。

靴を履き終え、出ていく裕司に手を振っていると、「あっ」と言い、裕司は振り返って僕の耳元に唇を寄せた。

「兄貴は俺と違って可愛いよ」
チュッという音と頬の感触に、直ぐに頬を手で押さえた。

僕もブラコンだが、裕司も大概ブラコンだな。






補足

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