短編2 | ナノ


▼ オネェ×溺愛2

リクエスト


「高岡くんのファーストキス奪っちゃった責任は取るわ」
「さ、紗倉さんのもの……?僕が?」
驚いて見上げ、真剣な眼差しの紗倉さんとしばし見つめあっているとふふっ、と紗倉さんは吹き出し、次の瞬間には「冗談よ、冗談」と笑った。

「冗談……?」
「そう、冗談。でも8割は本気よ?」

紗倉さんは楽しそうに笑い、「ほら、エレベーター来たわよ」と僕の手を引き、ギュウギュウ詰めのエレベーターへと乗り込んだ。



4階でエレベーターから降りても、まだ頭がついて行けず、僕は固まったままでいた。

ようやく紗倉さんに言われた意味を理解すると、その瞬間何とも言い難い胸の疼きを感じた。
『紗倉さんのもの』
からかわれたのだろうが、その言葉は僕にとってすごく嬉しかった。

昨日からずっと舞い上がったままの自分を落ち着かせるため、大きく息を吸い込み、ゆっくりと吐いた。

いつも憧れていた人の名前を知ることができた。
優しい口調は何処か紗倉さんに似合っていて、素敵だなと感じた。
恋愛対象は女性だと聞き、自分は範囲外なんだとガッカリした。
キスされたことを全く嫌だと思わなかった。
紗倉さんは冗談だと言ったが、僕は『紗倉さんのもの』になりたいと強く思った。

1つ1つ紗倉さんに関することを思い出し、その時の僕の感情を考えれば直ぐに答えは出た。

多分僕は、紗倉さんが好きなんだ。






毎朝エレベーター前で紗倉さんと会う。
自分の想いに気付いてからは、紗倉さんを見るとボーッとしてしまい、よく「高岡くん、大丈夫?どこか体調悪い?」と心配されるようになった。
『ただ紗倉さんのカッコ良さに見惚れているだけなんです』なんて言えるわけがなく、両手を必死に振って「大丈夫です」と伝えると、安心したように紗倉さんは笑う。
その姿にさらに僕は紗倉さんを好きになってしまう。



「これ、よろしくー。そういえば前髪切った?似合ってるわよ」
「本当?ありがとう、さくちゃん」

「高岡くん?さっきからボーッとしてどうしたの」
「……え?あ、何でもないです」
総務部によく紗倉さんが来るようになった。
たまたまだろうけど嬉しく、来るたびに目は勝手に紗倉さんを追い掛けてしまう。
けれど毎回総務部の人と仲良く話していたり、誰かと一緒に来ているので、なかなか紗倉さんに話しかけられない。

「あれ?紗倉ちゃんまた来てんの?最近よく来てるわね。総務部に狙ってる子でもいるのかしら」
そう言う塩見先輩と共にジーッと紗倉さんを見ていると、こちらを振り向いた紗倉さんと偶然目が合った。

「あっ、高岡くん!朝ぶりねぇ」
「、こんにちは!」
突然のことに驚いたがなんとか返事をすることができた。
だけど少し遠めにいた僕に紗倉さんが気付いてくれたことが嬉しくて、きっと今の僕の顔は火照っていると思う。

「また女の子口説いてたの?」
「ただ楽しくお話ししてただけよ、塩みんってば高岡くんがいる前でそういうこと言うのやめてよー!」
何故か僕に聞かれたくないと言う紗倉さんに、火照った顔を両手で冷やしながら何故だろうと少しだけ首を傾げた。

「それより高岡くん、今日の夜空いてるかしら?」
「夜ですか……?空いてますよ」
金曜日の夜だというのに予定が無いのは毎週のことで、休日である明日も特に予定はない。
何かあるのかと聞こうとしたが、その前に紗倉さんが喋り始めた。

「それなら一緒にディナーでもしましょう?仕事が終わったら迎えに来るから」
そう言って僕の返事を聞く前に去ってしまった紗倉さんの背中を見ていると、塩見先輩が「あらら」と声を出した。

「紗倉ちゃんってあんな見た目だから女の子にモテるじゃない?だからノンケだって勘違いしてる子多いけど、実はノンケよりのバイだから男もイケるのよね。これは高岡くん狙われてるから気を付けなさいよ。ほいほいホテルには行っちゃダメよ」
そう塩見先輩が忠告してくるが、僕の頭には何も入ってこなかった。

これはもしかしたら紗倉さんとデートと言っても過言ではないのかもしれない。
嬉しくて気持ちが高揚してきた。





紗倉さんに連れて来られた場所はホテルの最上階にあるレストランだった。
広く、そして綺麗で、自分が場違いなことには気付いていたが、紗倉さんと2人きりの食事ということに舞い上がり、そんなことを気にしている余裕はなかった。

「どれもすごく美味しいです」
「それなら良かったわ。この場所お気に入りなの」
酒の力も借りて紗倉さんを前にしても普段通り喋ることができる。
だけど完全に理性が失っているわけではないので、雰囲気のいいレストランに少しだけムッとしてしまう。

「こういうところにいつも好きな女性を連れてきてるんですか?」
一瞬驚いた顔をした紗倉さんだったが、直ぐに楽しそうにニッコリと笑った。

「そうねぇ。たまにしてたかな?でもこんなに楽しいのは初めてよ」
『初めて』なんて相手を喜ばせるために誰にでも言ってるんだろうが、単純な僕は嬉しくて直ぐに胸が高鳴ってしまう。
きっと狙っている人をみんなここに連れてきて、いい雰囲気にさせてるんだろうなと嫉妬したが、こんなにカッコ良いんだからそりゃ遊び慣れてるよなと思い直した。

「……僕をさらに紗倉さんのことを好きにさせようとしてるんですか?」
毎日会っている僕や周りが気付かなかった同僚の前髪の変化に気付くほど、紗倉さんの観察眼は鋭い。
きっと僕が紗倉さんが好きだということも気付かれている。
自分でも思うが、紗倉さんが好きだということを僕は全然隠しきれず、本人にバレバレなんだと思う。
だからそんな僕を哀れんで、紗倉さんは今日僕を食事に誘ってくれたんだろう。

「もっと高岡くんに私を好きになってほしいの。いつも熱っぽい目で見つめられるのもいいけど、やっぱり見つめ合う方がいいわね。私ももっと高岡くんを好きになっちゃうわ」
紗倉さんは人を喜ばせる言葉を心得ていて、僕はそれにまんまと乗せられてしまう。

美味しい食事に、酔いや雰囲気で火照った身体、目の前には好きな人。
口からは自然と、「今日……帰りたくないです」という言葉が出た。

「ここのホテルの1室手配してるけど、一緒に行く?」
紗倉さんからの魅惑のお誘いに断る訳もなく、ゆっくりと頷いた。





目を覚ますと見たことのない景色に、ここが何処なのかわからず、一瞬焦った。
けれど徐々に思い出される記憶に『そうだ紗倉さんに抱かれたんだ』と思わず僕は口元を綻ばせた。
事故でもいいから記憶がある時にキスしてもらえないかなと思っていたが、キスどころか、紗倉さんに抱いてもらってしまった。

いつも優しい口調な紗倉さんだが、行為中は少し荒っぽく、思いの外激しい行為にさらに好きになってしまった。


部屋を見回すと紗倉さんの気配が感じず、ベッドから起き上がると、ベッド横のテーブルに置き手紙があった。

『ごめんなさい。突然漫画家さんに呼ばれたので、先に行きます。
私の連絡先を一応書いておくわね。』
紗倉さんの電話番号とメアドが書かれている紙を見つめ、大事に大事にその紙を折り曲げた。

1度抱かれれば諦めがつくだろうと思っていたが、そんなことはなく、僕は前よりもさらに紗倉さんを好きになってしまったと思う。

紗倉さんが気が向いた時にでもいいから、また抱いてもらえたらいいな。








突然の呼び出しにキレたい気持ちを抑え、ベッドから起き上がった。
やっと手に入れ、恋人にもなれたのに、朝からイチャイチャできないなんて……
できるだけ不機嫌を出さないようにはしたいが、今の私にはそれを抑えられる自信はない。

本当は行きたくないが、そんなことを言える訳もなく、部屋を出る直前にまだグッスリと眠っている高岡くんのオデコに軽いキスをして、無理矢理やる気を出した。

「行ってくるわね」
返事をするように「んー…」と言って寝返りを打つ高岡くんの元を去るのは名残惜しかったが、置き手紙を置いて、部屋から出て行った。







補足

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