短編2 | ナノ


▼ あなたを愛しましょう4

「那央…」
「ダメです」
今日も1日頑張った自分への褒美に、可愛い那央を堪能しようと押し倒したが、身体の前でバッテンマークを作られ、拒否された。

ここ数週間何と無く行為を避けられていると感じていたが、こうもハッキリと拒否されると辛いものがある。
だけど夫婦の決まりであるキスは変わらずしてくれているから、嫌われていないとは思うが、原因がわからないため、正直不安で仕方ない。





「エド」
「?はい」
「母様について変わったことはなかったか?」
「…?んー、あっ!最近母様元気ないです」
「体調でも悪いのか?」
「たぶん」
仕事のせいで最近は寝食の時にしか那央と居れていない。
だから那央と1番一緒にいるエドに那央のことを聞いてみた。
体調が悪いから拒否されたのかと納得はいったが、近くにいたはずなのに、全然那央の体調の変化に気付いてあげられなかったことを悔しくも思う。
俺の前ではいつも元気そうに見えていたから、体調が悪いなんて知らなかった。

念のため、城にいる医者に『那央をよろしく頼む』と伝え、仕事に戻ると、部屋には既に使用人が待っていた。
口うるせー奴がいると、内心げんなりしていたが、「数日後に迫る結婚記念日はどうなさいますか?」と予想と違うことを言われた。

「結婚記念日…?」
「はい。もう来週ですが、毎年のように、食事とワインのご用意だけでよろしいですか?」
「いや…、今年はお前等は何もしなくてもいい。その代わり、1日那央と2人きりにさせてくれ」
俺の言葉を聞いた瞬間、眉間にシワを寄せた使用人に
「大丈夫だ。その日の仕事は、事前に終わらせておく」と文句を言われる前に伝えると、目に見えてホッとした顔をされた。

「それではエド様のために、ケーキだけご用意しておきますね」
「ああよろしく」
部屋から立ち去る使用人を見届けてから、深く椅子にもたれかかった。

そうか。もうあれから7年も経ったのか。


最初からナオのことが嫌いだったわけじゃない。むしろ初めは好印象だった。
ナオはとても美しく、こんな綺麗な人間が実際に存在していたのかと驚いた。

この世界で黒は高貴な存在故に、生まれてこのかた、黒髪黒目の人間なんて見たことがなかった。
だけど遠い大国には黒髪黒目の王子がいると噂では聞いていたが、まさかそいつ自身の見た目も含め、黒という色がここまで美しいとは想像もしていなかった。
大国との和平を組むために政略結婚するなんて、最初はあまり乗り気ではなかったが、ナオを見て、悪くないとまで思っていた。

結婚の儀の間も、初夜も、ずっと口を閉じていたナオは、次の日の朝、初めて声を出した。
だけど発したのは「俺は俺だけが大好きだ。だからあまり俺に関わるな」というものだった。
そして「形だけは夫婦でいてやる」とだけ宣言し、部屋も俺から一番遠いところへと移動した。

ただ呆然とし、『政略結婚だ。愛がないのは当たり前のことだ』と自分を納得させた。

それから数ヶ月後、使用人によってナオが身籠っていたことを伝えられた。
初夜の1回しか致してないはずなのにと驚いたが、逆算した結果、ナオのお腹の中にいるのはどう考えても俺との子どもだった。
一応様子を見にいったが、ナオは俺を睨みつけるだけで、一言も言葉を発さなかった。
子どもが出来れば何か変わるんじゃないかと期待していたが、何も変わらなかったことに、少しだけ俺はガッカリした。

さらに数ヶ月後、とうとう生まれたと聞き、俺は仕事をほっぽり出して駆け付けた。
だけど部屋にはナオしかおらず、子どもはいなかった。
部屋を見回し、「赤ん坊はどこにいるんだ?」とナオに聞くと、「乳母に渡した。俺はあれに触ってないし、触りたくもない」と言われた。
今まではこんなもんかと思っていたが、初めて俺はナオに憎しみを感じた。

公の場では流石にエドと接していたが、それ以外は一切エドを見ることはなかった。
だけどエドの方は母親に嫌われているとわかっていても、それでも果敢にナオへと話しかけた。
エドにとって母親はナオだけで、どんなことをされてもエドは母親のことが大好きだった。
一方俺の方は、ナオのエドへの態度が許せず、いつもナオに突っかかったり、皮肉を言い、睨みつけもした。
ナオもすることは俺と同じだったが、あいつの方が質が悪く、「あんなの生みたくなかった」と言われた時は、さすがにこたえた。

日々のナオへの不満が募っていたので、ナオが足を滑らせて頭をぶつけたと聞いた時、正直『ざまぁみろ』と思った。
だけど意識が戻らず、罪悪感を感じて泣き続けるエドを見て、やはりエドにとって母親は大切な存在なんだと痛感した。
父親である俺だけじゃエドには足りないんだと、どうしようもない虚しさと怒りが湧いた。

だから、目を覚ましたナオがナオじゃなくなり、そしてエドを愛したいと言われ、やっとエドが報われるのかと嬉しかった。
ナオが那央になり、最初はエドが幸せになるならそれでいいと思っていたが、那央を知れば知るほど、俺も那央を好きになってしまった。
ナオと同じ見た目のままで、あんなにナオを忌み嫌っていたというのに、俺は那央を愛おしいと思った。




「最初から那央だったらよかったのにな…」
「ナオさんのした行いは許せないと思いますが、きっとナオさんはナオさんで、たくさん悩みがあったんだと思います」
結婚記念日という名目で那央と2人きりで城外へと出た。
露店を見て回ったり、エドへのお土産を買ったり、那央にプレゼントを渡したりもした。
一通りしたいことはし終わったが、まだ帰るには早い時間だったので、那央が聞きたいと言った、ナオとの過去の話を少しだけした。

「今ではナオさんの本当の気持ちはわからないですが、知らない土地に1人きりでやってきて、すごく心細かったんだと思います。
だから自分の殻に閉じこもっている方が安全で、人に頼らず、ずっと1人で色んなものと戦ってたんじゃないですかね?」
俺も何と無くですけど、ナオさんの気持ちわかります。
ナオさんはきっとすごくプライドが高かったから、誰も頼れなかったんでしょうね。
たまにナオさんは可哀想な人だったんじゃないかなと、心が痛くなります。


那央に言われてみて、初めて気付いた。
もしかしたら那央の言うとおりだったのかもしれない。
あいつは俺よりも年下のくせに、いつも生意気で自己中だったが、たまにすごく寂しそうだった。
そのことに気付いてやれば何か変わったのかもしれないが、今更どうしようもできない。

「あと話聞いてて思ったんですけど、アゼルさんもナオさんに愛されたいと思ってたんじゃないですか?」
「…そうなのか?」
「はい。どういう感情なのかは俺にはわかりませんが、多分ナオさんのこと好きだったんですよ。」
「あいつをか?うげぇ」
「ふふ。でも今は、俺がアゼルさんを愛してますよ。エド同様、目一杯俺にアゼルさんを愛させてください」
「…那央、お前はホントすごいやつだな」
俺もエドと同じく那央に愛されていたのかと胸がジンワリと熱くなり、やっぱり俺は那央をどうやっても手放せないと実感した。



「よし!たくさん遊んだし帰るか。エドもきっと寂しがっているだろう」
「…あの、アゼルさん。」
「ん?なんだ那央」
「実はその…」
「?どうしたんだ」
何か言い渋る那央を疑問に思い、待っていると、突然手を掴まれ、その手を那央の腹に持っていかれた。

「デキちゃいました…赤ちゃん」
「…え?」
「最近具合が悪くて、城にいるお医者さんに診てもらったら、その…オメデタだって。お医者さん曰く、『男同士ではなかなかデキにくいんですが、2人は相当相性がいいんですね』って」
「那央…那央!那央!那央!…ありがとう。ありがとう。大好きだ愛してる。」
嬉しさのあまり思わずガバッと抱き着くと、優しく抱き返された。
「ええ俺も好きです。愛してますよ。」

那央に今は体調が大丈夫かと伺い、『あっ!』と俺は思い出した。
「だから最近は行為を拒否してたのか」
「はい…、ごめんなさい」
「俺こそ気遣ってやれなくてすまん。それじゃあしばらくお休みだな」
「いや…そのことなんですけど…もう少し安定してからなら大丈夫だってお医者さんが言っていたので…その…」
「っ!?」
やはり俺の妻は可愛すぎる。






補足

prev / next

[ back to top ]



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -