短編2 | ナノ


▼ 大学生×サラリーマン

1枚扉を隔てているというのに漏れ聞こえてくる女性の喘ぎ声。
扉の前に立ち尽くしたまま、目からはポロポロと音もなく涙が零れ落ちた。



「ねぇ、お兄さん今暇?お茶でもしない?」と、20代前半ぐらいの男の子にナンパされた。
男である僕に何言ってるんだと笑い、「君面白いね。でもごめん、仕事中だから」とその場を離れようとしたが、歩き出す前に腕を掴まれ止められた。
「1時間だけでいいから。ね?」

強引に手を引かれ、突然のことに驚いたが、何故か僕は気持ちが高揚していた。


宗佑(そうすけ)くんと付き合うようになってから、初めて自分が同性愛者だったことに気付いた。
今まで自分は何故女性を好きになれないのかと悩んでいたが、宗佑くんと付き合い始めて、『ああ僕って男の人が好きだったんだ』と腑に落ちた。

今年で30歳になったおっさんの僕と、22歳の宗佑くんとではプライベートの過ごし方は違い、いつも宗佑くんに、僕の知らないことを教えてもらったり、知らない場所へと連れてってもらった。

若い宗佑くんと一緒にいるだけで楽しく、なんだか自分も若くなったような気がして、時間ができると直ぐに宗佑くんに会いに行った。
そのため付き合い始めてから1ヶ月程経った頃から宗佑くんの口癖は「お金がない」になった。
お互い男同士だからと割り勘で遊んでいたが、社会人の僕とは違い、宗佑くんはまだ学生。
最初は遠慮する宗佑くんを押し切り、「社会人になったら忙しくなるし、今のうちにたくさん遊んでおきな」とデート代や宗佑くんの欲しいものも全て僕が払うようになった。

時間があえば毎日宗佑くんと会い、宗佑くんの欲しかったものをプレゼントし、そうしているうちにとうとう僕の貯金は底を尽いた。
けれど宗佑くんが不自由しないよう友人や家族に借金をし、宗佑くんの欲しがっていたものをプレゼントした。
『宗佑くんが喜んでくれればそれでいい、もし何かあればサラ金にでもお金を貸してもらえばいいや』と、知り合いにお金を借り続けているうち、とうとう親友に「いい加減にしろ。お前一体俺にいくら借りたと思う?100万だぞ!お前そんな金額返せるのか!?」と、縁を切るとまで言われた。
親友からの言葉に少し頭が冷え、もう宗佑くんにカッコつけるのはやめようと、お金が無いことを正直に伝えるため、宗佑くんが1人暮らしをしている家へと向かった。
宗佑くんの家に着き、渡されていた合鍵で扉を開けると、玄関には女性ものの靴が置かれていた。
ゆっくりと部屋の中へと近付くにつれ、女性の喘ぎ声が聞こえてきた。
ただ呆然とし、気付けば目から涙が零れ落ちていた。

手持ちの宗佑くんに関連するものを玄関に置き、音を立てないよう外へ出た。
自分の家へ向かううち混乱していた頭もようやく正常に動くようになり、やっと意味を理解した。
けれど理解した途端我慢出来なくなり、僕はその場に崩れ落ち、声を出して泣いた。
30過ぎたいい大人が路上で泣くなんてと頭の片隅で思ったが、自分の意思ではもう涙を止めることができなかった。

周りも気にせず声を出して泣いていると、そっと背中を撫でられた。
驚いて顔を上げると、呆れた顔をした男の子が隣にしゃがんでいた。

「ほんと、拓弥(たくや)さんってバカだよね。なんであんなんに騙されるわけ?少し考えればすぐに分かるじゃん。あと、拓弥さんがホモだって俺聞いてないんだけど」
初めて会ったはずなのに何故か僕の名前を呼び、さらに『バカ』と言われ驚いていると、

「…もしかして俺のことわかんない?久木歩(ひさぎあゆむ)だよ。」
「…あゆ、くん?いつの間にこんなおっきくなったの?」
あゆくんだと名乗った男の子は深いため息をつき、「あんたの弟と同い年なんですけど。どんだけ弟とあってないわけ?」
10歳下の弟の親友であるあゆくんは、僕が1人暮らしする前の、9歳の時の姿のままで止まっている。
男の子をよく見てみれば、小さい頃のあゆくんの面影が顕著に残っていた。

「泣き止んだなら行くよ」とあゆくんに手を引っ張られた。
あんなに小さかったあゆくんがこんなに大きくなっていたことや、なんでこんなところにあゆくんがいるのかと驚いていた僕は、あゆくんの家へと連れてかれ、『あの男は俺の大学の先輩で、拓弥さんのことをずっと金ヅルって呼んでたし、そもそもあの男は罰ゲームで適当なサラリーマンを引っ掛けただけのノーマルだから』と伝えられた。

ただの浮気だと思っていた僕は子どものように泣き、あゆくんに慰められた。

「あの男とは今すぐにでも別れろ。そんで拓弥さんはバカだから、これからはずっと俺が一緒にいてあげるから。」
「…あゆぐん、生意気などご…全然変わっでないぃぃぃ」
「いい大人が泣きながら喋るなバカ」






補足

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