短編2 | ナノ


▼ お金持ち×庶民

キッカケは単純なものだった。

そろそろどこの大学へ行くかを決めなきゃいけない頃、書店に置いてある赤本をパラ読みした。
上から下まで様々なランクの過去問が掲載されてる中、ある大学のある学部の入試問題に目が止まった。

「…リスニングが1つもない…」

ただでさえ英語が不得意で、その中でも特にリスニングが苦手な俺にとって、入試問題にリスニングがないというのは、志望校にするには十分すぎるほどの理由だった。




リスニングがなかったおかげか、不得意だった英語もなんとか点を取ることができ、無事合格した。
最初は慣れない環境に不安や戸惑いもあったが、1年も経てば、嫌でも周りを見渡せるほどの余裕が持てるようになった。
そして周りを見渡せるようになって初めて気付いたが、俺の受けた経営学部には金持ちばかりがいた。

ベンチャー企業の令嬢、電機メーカーの御曹司など、名の知れた大企業の次期社長や幹部候補などがゴロゴロとその辺に転がっていた。
かく言う俺の友人等も金持ちが多く、1人暮らしなのに2LDKに住んでいる奴や、一戸建てに住んでいる奴もいる。
仕送りは毎月40万もらってると聞いた時は開いた口が塞がらなかった。

1度、友人の1人に『自分で稼ごうとは思わないのか?』と聞いてみると、
『バイトは1度もしたことがないしなぁ。そもそもバイトなんかしなくても毎週親から小遣いもらえるし、欲しいものがあったら全部親が買ってくれるから、自分で稼ぐ必要ない』と。

お金持ちではなく、実家暮らしの平均的な庶民派である俺には、彼等の常識は俺の非常識だった。





「今日は俺のおごりだから皆じゃんじゃん食べていーよー」
「「「「あざーっす」」」」
「元をただせばこいつの親の金だから、お礼言うならこいつの親にだぞ」とすかさず言うと、「ばか!それは言うなよ」と友人が人差し指を口にあてた『シーッ』というポーズしたことでドッと笑いがおこった。

別に自分が働いてお金を稼ぐことが偉いと言いたい訳ではない。
何か理由があってバイトが出来ない奴も、中にはいると思う。
だけど親からお金をもらうのが当然だとあぐらをかき、時間があるのに労働をせず、親からもらったお金で遊び呆けているのはあまりよろしくない。
仕事が出来ても性格がそうでは、将来苦労するのはそいつ等自身。
そう思っているからこそ、俺は親しい友人には『金持ちだからって特別扱いしないからな』『調子乗るんじゃねぇ』と、キツイ言葉を差し上げている。
幸いなことに友人等は可愛いクズばかりなので、1回言えば「そういうものなのか」と納得する。
なので最初は傲慢自己中野郎だったが、今はそれも少しずつだが直ってきた。



「ん〜…」
「お前飲み過ぎだよ」
「だってぇ…」
「はいはい酔っ払い、タクシー来たから早く乗れ。じゃあな」
「ありがとな〜。また明日ぁ」
友人を見送り、駅に向かって歩き出すと、反対方向から見るからにガラの悪そうな奴等がこちらへ向かって歩いてきた。
嫌な予感がしつつ、素早く通り過ぎようとしたが、案の定絡まれた。

「お兄さん大学生?俺ら今ちょっとお金ないから貸してくんない?」
「ほんの5万ぐらいでいいからさー」
「出さないとどうなるかわかってるよねぇ?」
ギャハハと笑いながら脅してくる彼等をどうやって対処しようかと考えていると、「やめないか!」と言う声が後ろから聞こえてきた。

後ろを振り向くと長身の男が立っており、俺の前を通り過ぎるとガラの悪そうな奴等に近付いていった。
「なんだ?オラァ」「お前が金貸してくれんのか?」とガラの悪そうな奴等はニヤニヤと笑っていたが、不意打ちに、1人が長身の男に殴りかかった。
けれど長身の男はそれをかわし、相手の鳩尾を突いて気絶させた。
そこからはあっという間で、気付けばガラの悪そうな奴等を長身の男が1人で倒し終えていた。

突然のことに呆然としたままの俺の前まで長身の男は来ると、跪き、俺の目を見たまま手を取り、その手の甲へとキスを落とした。

「危険な目に合わせてしまいすみませんでした。僕がもっと早く来ていれば怖い思いをせずに済んだというのに…」
「…ありがとう?…あの…確か、鳴瀬(なるせ)くんだよね?どうしてここに?」
友人が入っているサークル…天文研究会の一員である鳴瀬くんは、存在と名前は知っていたが、サークルに入っていない俺とはほぼ初めましての状態故に、何から何まで驚きが隠せない。
お店からはだいぶ歩いてきたし、ガラの悪そうな奴等を蹴散らしてくれたのは有難いけど、突然手の甲にキスされるし、意味がわからない。

「僕は壮太(そうた)くんのナイトだから、壮太くんのピンチに駆けつけるのは当たり前ですよ」
「はぁ…ありがとう?」



結局その日は何故か鳴瀬くんに家まで送ってもらった。
俺は1度も自分の家までの道順を告げていないのに、迷わず俺の家へと辿り着いた。


「世の中はとても物騒なので、直ぐに壮太くんを守れるよう、これからは近くで壮太くんの護衛しますね」
「……ん?」






補足

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