短編2 | ナノ


▼ ショタ×高校生

夏休みが終わりかけている8月24日。
その日僕の夢には、いっくんが出てきた。




元々僕は関東の方に住んでいて、ここにはお父さんの仕事の事情で引っ越してきた。
当時5歳だった僕は、両親以外はほとんど知らない人達ばかりのこの場所がとても怖く、なかなか外に出ることが出来なかった。
外へ行くのは家から保育園の行き来だけで、友達がいなかった僕は、いつも家の中に引きこもるのが日常だった。

だけどそんなある日、僕の前にいっくんが現れた。

隣の家のお婆ちゃんと一緒にやってきたいっくんは、扉から少しだけ顔を出し、僕を見た瞬間、
「はじめまして!おれ、一輝(いつき)って言うんだ!おまえは?」とニッコリと満面の笑顔で自己紹介をされた。
見たことない子にビクビクしながらも、唯一顔見知りでもある隣の家のお婆ちゃんに目を向けると、優しい笑顔を浮かべ、
「私の孫で、これから私達と一緒に住むのよ。」と教えてくれた。
お婆ちゃんの孫だと知り、少しだけ警戒心が解けた僕は
「…和也(かずや)、です」とおずおずと答えると、会ってまだ数分だったのに、
「おう!和也な!これからよろしく」と早速名前で呼ばれた。

その当時僕はまだ保育園に入園したばかりで、友達はおろか、話す相手すらいなかった。
だからここに来て初めて『和也』と呼び捨てにされ、その上同年代の子と会話するのも初めてで、 驚きと同時に嬉しくてたまらなかった。

最初は緊張して何も喋られず、いっくんが話していることに頷くだけだったが、いっくんが帰る頃には、僕も少しずつだがいっくんと話せるようになっていた。

会った時からずっと笑顔で、その上優しいいっくんのことを好きになるのは一瞬だった。


いっくんと会ってから数日もしないうちに、いっくんは僕が通っている保育園に入園してきた。
持ち前の明るさから直ぐにいっくんは園の皆と仲良くなり、楽しく談笑をしていた。
誰とでも直ぐに仲良くなれるいっくんをすごいなぁと尊敬しつつ、『僕の方が先にいっくんと仲良くなったのにな…』と皆に囲まれているいっくんを見て、モヤっとした。

だけど直ぐに遠くの方で1人ポツンとしている僕に気付いたいっくんは、皆に何か言った後、足早に僕の方へと近付いてきた。
そして「和也おいで」と僕の手を引き、いっくんを待っていた輪の中へと僕を入れた。
顔は知っていても、ほとんど知らないも同然な園の皆は、僕にとってまだ怖い人達で、ギュッといっくんの腕を掴み、いっくんの背中に出来るだけ身体を小さくして隠れた。
いっくんは背中に隠れる僕へと振り返り、「和也を自慢していいか?」と笑った。
何のことだかわからなかったが、いっくんを信用しきってる僕は小さく頷くと、いっくんは突然僕を前に出し、
「和也はな!すごく手先が器用で、おりがみが上手なんだぜ。おれな、この前カブトムシをおってもらったんだ!それからな…」
と僕の良い所を次々に言い始めた。
それを聞いたみんなは「へー、すげぇな」「和也くん、わたしにも何かおって」と声をかけられた。
皆に好意的に話しかけられ、嬉しくて俯きながら「あ、ありがとう…。うん、何がいい?」と言うと、いっくんはブスッとしながら「先に和也の良さに気づいたのはおれだぞ!和也を取るな」と前に出していた僕を今度は背中へと戻し、皆の目から隠した。
だけどみんなが「わたしたちだって和也くんの良いところたくさん知ってるよ」「和也くんって、字上手だよね」「逆上がりできるよな!」という声に、「そうなのか!和也!おれしらなかったぞ!」とさっきまで少し怒り気味だった声が驚いた声に変わった。
僕もまさか皆が僕のことを知ってくれているとは思っていなかったので驚いた。

この事がキッカケで、僕には少しずつだが友達ができた。
いっくんのおかげだと、いっくんにお礼を言うと「おれはただ和也を自慢しただけだ」と優しい笑顔でそう言ってくれた。


自然と友達は増えていったが、いっくんは僕にとっていつも1番で、小学生になってもそれは変わらず、いつも一緒にいた。

小学生になってからの初めての夏休みは山へ行ったり、川へ行ったりと色んな場所へと、いっくんと2人で遊びに行った。
そして10年前の8月24日。
その日も僕はいっくんと一緒に山へと遊びに行き、二人でかくれんぼをした。
いっくんが鬼で、僕は隠れる役。

僕は大きな木の下に身を隠した。
100まで数え終わったいっくんが「和也行くぞー」「どこだー」という声を聞き、いっくんが見付けてくれるのを待った。
だけどいくら待ってもいっくんは見つけてくれず、さっきまで聞こえていたはずの僕を探す声も聞こえなくなっていた。
いきなり不安になり、僕は立ち上がって「いっくーーーん!!」と叫んだが、それでもいっくんからの返事は返ってこなかった。
大きな木の下から出て、いっくんを見つけるため、僕は走り回った。
だけどどれだけ大きな声で呼んでもいっくんの返事は聞こえてこず、どこを探してもいっくんの姿は見つからなかった。

探すのに夢中で足元を見ていなかった僕は木の幹に躓いて転けてしまった。
痛みといっくんが見つからない不安の全てが合わさり、気付けば泣いていた。

「いっくん…いっくんどこ……いっくん」



いっくんがいなくなったことは新聞になった。
誘拐され、もしかしたら既に殺されているかもしれないという話は幼い僕には意味がわからなかった。

いっくんがいなくなったことで僕は体調を崩し、何日間も熱が出た。
辛くて苦しくて、いつもは居てくれるいっくんも居なくて、熱は延々に引かないと思っていた。
だけどいっくんのお婆ちゃんがお見舞いに来てくれた時に、
「和くんは一輝と仲良くしてくれたから悲しんでくれてるけど、きっと一輝は大丈夫よ。お婆ちゃんだからわかるんだ」と言ってくれた。
それから僕はみるみるうちに熱が引き、体調も良くなった。

いっくんが居なくなったことをしっかり受け止めた僕は、いっくんが居なくても頑張らなくちゃと、いっくんといた時よりも頑張って友達付き合いをし、良い子にもなった。
良い子で居ればまたきっと、いっくんと会えるとそう信じていたから。



あれから10年が経った。
今でも僕の夢の中にはあの頃のままのいっくんが出てきて、
『和也おいで』と言って僕の手を引いてくれる。
優しい笑顔で、僕はいっくんのあの笑顔がとても大好きだった。


いっくんとの夢を見た時は必ず、いっくんが居なくなった森へと足を運び、いっくんのことを思い出した。

いっくんと歩いた道。いっくんと遊んだ川。いっくんと作った秘密基地。
昔とちっとも変わらない場所を懐かしく思いながら歩いていると、小さな声が聞こえてきた。
誰かを呼んでるような声に耳を澄ませた。

「…ーい、…だぁ?……ぁー…」
どんどん近付いてくる声に胸が騒ぎ始め、そしてハッキリ聞こえた言葉に、僕は全力で声の聞こえる方へと走り出した。


「おーい、どこだぁ?和也ぁー」
「はぁはぁ…いっくん?やっぱり…いっくんだ!……でも、なんで?」
「……お前もしかして和也か?なんでデッカくなってんだよ?」
「…違うよ、いっくん。いっくんがちいさいままなんだよ」
「はぁ?なんだそりゃ」
驚いた顔をしながらも途端に笑い出したいっくんに、僕も釣られるように笑った。

いっくんが、
あの頃のままのいっくんが、
やっと帰ってきた。






補足

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