短編2 | ナノ


▼ 社長×大学生

2代前に立ち上げた会社は、赤字こそ出てないが、鳴かず飛ばずだった。
それが父さんの代でようやく少しずつ名が知れ渡るようになり、兄である椋(りょう)兄の代に変わってからは、見事事業に成功し、会社は一躍有名企業へと変貌した。

だからと言って急に俺達の生活水準がガラッと変わるという訳もなく、表面上はただの一般家庭と同じだった。
他と違うことと言えば、
長男の椋兄、長女の友香(ゆか)姉、次女の麻実(あさみ)姉、三女の真紀(まき)姉、次男である俺、そして三男の大貴(だいき)の三男三女の6人兄弟ということと、俺以外は皆、顔が整っている美形家族ということだけ。


社会人になり、1人暮らしをしている麻実姉から上とは違い、今だ実家暮らしの大学である俺の生活は、それはもう悠々自適だった。
学校もバイトも無い日はグータラと家の中で過ごし、中学校から帰って来た大貴と対戦ゲームをする日々。
そんな中、突然1人暮らしをしているはずの3人が一挙に帰って来た。
訳を聞くと「椋兄に呼ばれた」と。
そして姉達を実家に呼び、リビングに兄弟達を集めた椋兄は「お前達にお願いがある」と切り出した。


「小野江(おのえ)を垂らしこんでほしい」
椋兄は語った。
『小野江は知ってるだろ?世界屈指の大企業で、日本のトップと言われている小野江グループ。
これからの我が社の発展も考えて、どうしても小野江と契約を結びたいんだが、残念なことに向こうは一切その気がないんだ。
何回か話しをしてみたんだが、笑顔で拒否され、最近じゃ社長にすら合わせてもらえない。
だからそこでお前達に小野江を垂らしこんで、取り引きに応じてくれるよう持ちかけて欲しい。
勿論成功報酬は惜しまない。高級バッグでもコートでも、欲しいものがあれば何だって買ってやる。
お前達は俺の自慢の妹や弟で、贔屓目抜きにしても可愛いし美人だ。
だからこれからの我が社のためにも、どうか頑張ってほしい』
興味なさそうに聞いていた姉達は高級バッグという言葉で目の色を変え、椋兄の話が終わると「私達頑張るわ、お兄ちゃん!!!」と身体を前へ乗り出した。

俺と大貴はというと、『え?俺達も垂らしこむの?』と唖然とした。





「どのバック買ってもらおっかなー?」
「ルビー…いや、真珠も捨てがたい…」
「ねぇねぇ高級エステでもいい?」
「兄ちゃんが出来ることならなんだって叶えてやるぞ。ただし成功したらだけどな。」
ドレスに化粧と、いつも以上に綺麗に着飾る姉達に思わず見惚れる。
今年で31歳を迎える椋兄も大人の色気をムンムンに放出し、カッコ良くスーツを着こなしている。
そんな兄姉達とは違い、俺はというと…

「…無理だと思う。いや絶対ダメだと思う。お金持ちの集まるパーティーなんだよね?不審者だと思われて、会場に入れないって!!!」
「すごく可愛いぞ真人(まさと)」
姉達に化粧を施してもらい、何故か俺は女装をしていた。

ちなみに昨日から大貴は部活の遠征へ行き、羨ましいことに不参加だ。










物心がつく前から既に自分は特別な存在なんだと自覚していた。
小野江という大企業の御曹司というだけでも人は群がるが、その上俺の顔は良すぎた。
顔が良いことで得したこともあるが、その分嫌な思いもしてきた。
俺の肩書や顔で近付いてくる奴、誘拐しようとする奴、恋人の座を射止めようと迫ってくる奴
昔からそんな人間や、親父に媚びへつらう大人共を見てきたせいで、今ではもう立派な人間嫌いになってしまった。
だけどその分人を見極める力は誰よりも備わった。





「若いのにスゴイなぁ。これからも我が社共々よろしく頼むよ」
「はい。今日は来ていただきありがとうございます」
机に向かって仕事をしている時が1番楽だ。
誰とも顔を合わせず、黙々と仕事に集中できる。
逆に今日のようなワイワイと人が賑わうパーティーは好きではない。
だからと言って主催者が出ないわけにもいかず、表面上は笑顔で取り繕いながらも、内心では一刻も早く帰る方法を思案していた。


「小野江さん、お久しぶりです」
「…あぁ、藤宮(ふじみや)さん。こんばんは」
「こんばんは。いやぁパーティー会場が高級ホテルの最上階だなんて、やはり小野江グループの力はすごいですね」
「ははは、それはありがとうございます」
今まで中層あたりにいた会社が、新しい代になってから急成長した。
その現社長が藤宮椋という男だが、最近何度も会社に足を運び、契約を結ばないかと持ちかけてくる。
会社の事業自体は面白く、興味はあるが、如何せんここ数年で成長した会社なので、いつ落ちるかわからない。
契約を結んだところでこちらの利益は少なく、リスクを負ってまで契約したいとは思えず、最近は門前払いをしていたが、ここまで来るとは。
適当に笑顔で藤宮さんの話を流し、キリの良い所で早々にその場を立ち去った。



「身体を壊さぬよう気を付けてください。それではまた…」
「ありがとうございます。そちらもどうかお身体にはお気を付けてください。」
見えなくなるまで見送り、重い足取りで会場へと戻ると、直ぐに「あの…小野江さんですよね?初めまして」と声を掛けられた。
声を掛けてきた相手を見ると、これでもかという程、胸を強調したドレスを着ていた。
近くにいる客共は皆、この女に見惚れているが、下心丸わかりすぎる風貌に俺は心底呆れた。

後から秘書にあの女の事を聞くと、藤宮の長女だと聞かされ、呆れてものも言えなかった。
それからも次女三女と藤宮の妹達が続いて俺の前に現れたが、興味無いことを示すと、早々に離れて行くのは潔く、好感をもてた。




パーティーが開始されてから既に数時間が経ち、そろそろ帰るかと考えていた時、白いドレスを着た女性が目に入った。
キョロキョロと落ち着かない様子で周りを見渡し、不安そうな顔を浮かべて立つその姿は、まるで母猫を探す子猫のようだった。
自然と足はその女性へと近付き、いつもならあり得ないが、俺の方からその女性へと声をかけた。

「こんばんは、楽しまれてますか?」
「え?…あっ、小野江さん?こんばんは。はい、どの料理もとても美味しいです」
「それはよかったです。あの、お名前をお伺いしてもよろしいですか?」
「はい。藤宮真…子です」
藤宮…秘書に目配りをすると首を傾げられた。
藤宮攻撃に疲れ、秘書に藤宮の家族構成を聞いたが、三男三女の6人兄弟でもう女はいない。
ならば何故?と考え、ハッとした。

「椋さんの妹さんですか?スゴく可愛らしくて、思わず声をかけてしまいました」
「いやいや、そんなはずないです」
多分この子は次男の真人なんだろう。
真っ白いドレスで身を包み、まるで天使のように柔らかく素朴な可愛さをもつ彼に一気に興味がわいた。
男だとわかっていながらも何故か可愛く思えてしまい、俺の顔は無意識に笑顔になっていた。
もっと真人くんと喋りたいと声を掛けようとしたが、その前にいつもお世話になっている取引先の社長に声を掛けられ、渋々真人くんから離れざるを得なくなった。
真人くんは俺が離れて行くと、親猫を見付けたのか、小走りにテラスの方へと向かって行った。
そこには先ほどの藤宮三姉妹が並んで立っていた。



「美形な上に金持ちとか出来るなら手に入れたいけど、全く向こうにその気がないのよねぇ」
「顔良いしテンション上がったけど、これは無理だわ…。あーあ、ダイヤは諦めるしかないのか」
「でも真人はいい感じだったよねぇ。むこうから話しかけてきたし」
「ん。もっと感じ悪い人なのかと思ったけど、カッコいいし優しいし、男の俺でも惚れちゃいそう…」
会話を聞き漏らさないよう耳を傾けていると、真人くんからのまさかの発言に顔が綻ぶ。
ああやばい。可愛い。

「真人イケんじゃない?」
「頑張ったら真人の好きなプリン買ってあげる」
「だから成功したら椋兄に『お姉ちゃん達も頑張ったから欲しいもの買ってあげてー』って言ってねぇ」
真人くんの好物はプリンなのかと、しっかり頭に刻みつけた。





キリのいいところで話を終わらせ真人くんを探していると、真人くんの方から声をかけてくれた。
さっきよりも大胆に胸元を開け、ウィッグだろう髪は上げられていた。
綺麗に見えているうなじは思わず吸い付きたくなる程美味しそうで、そこから目が離せなくなる。
ボーッとうなじを見ていると、何か姉達に言われたのか、突如真人くんは腕を絡ませてきた。
ふにっと柔らかい感触が腕にあたり、驚いて真人くんを見ると、恥ずかしいのか、顔を赤くしながらも上目遣いで見つめられた。
真人くんの可愛さにとうとう我慢が出来ず、俺の顔はニヤけ始めた。

「どこか…2人きりになれる所へ行きませんか?」



パーティ会場であるホテルの1室は、人疲れした時に使おうと思っていたが、まさかここに他の人を連れ込むとは、自分でも想像していなかった。
部屋の中に入るとさらに真人くんは積極的になり、指を絡ませてきた。
上目遣いをし、可愛い顔で色気を振りまく小悪魔にデレっとだらしなく俺の顔は緩む。

「小野江さんにお願いがあるんです」
「真子ちゃんのお願いならなんでも聞いてあげる」
「藤宮と契約してほしいんです」
「藤宮かー、最近急成長したよねー」
真人くんの顎を持ち上げ顔を近付けると、受け入れるようにゆっくりと真人くんは目を瞑った。
調子に乗り、数回目になるキスは舌を入れようとしたところで身体を離された。

「これ以上は藤宮と契約してくれると言ってくれないとダメです」
「いいよ。小野江グループは藤宮と契約を結ぶよ」
真人くんがボイスレコーダーを回してるのに気付いていたのでハッキリと告げてあげた。

言質を取った!と言わんばかりにボイスレコーダーを取り出し、何か喋ろうとした真人くんの口を俺のもので塞ぐと、キスの合間、途切れ途切れに
「待っ…お、れ…んっ、はぁ……お、とこ!」と自分が男であることを伝えてきた。

「契約するから、ちゃんとご褒美は貰わなきゃね?真人くん」
驚いたように目を見開く真人くんを、俺は優しくベッドに押し倒した。








姉達に言われて小野江さんを誘惑し、言質を取ったところで男だとバラした。
上手くいったし、成功した。
だけど何故か男だとバラしても小野江さんは引くことはなく、『真人』と告げていないはずの俺の名を呼び、俺の事を抱いた。
『男同士では後ろを使うのか』『凄く気持ちよかったな』などと、知らなくてもいい事を知ってしまった。

朝になり、目を覚まし隣を見てみると、そこには小野江さんの姿はなかった。
大人に弄ばれた。
得たものは大きいが、失ったものも大きい。

行為中に言われていたことは全部嘘だったのかと泣きそうになっていると、ガチャリと扉が開かれる音がした。
ホテルマンかと思い、慌ててシーツで身体を隠し、音のしたを方を見てみると、カッコいい顔を惜しみなく笑顔にさせた小野江さんが立っていた。

「無理させちゃったけど大丈夫?痛いところあったら言ってね。あっ…朝食はもう頼んであるからいつでも食べられるよ」
唖然とし、声が出ない。

「さっきお兄さんに電話して、契約のことは伝えたから。お姉さん達もすごく喜んでたよ。
まぁリスクはある会社だけど元々事業自体には興味はあったし、真人くんのためにも出資は惜しまないよ」
「な…んで?」
「ん?」
「なんで、そこまでしてくれるんですか?」
「んー?それはね、俺が真人くんのことが好きだからだよ」
小野江さんは爽やかに笑う。

「なので真人くんも俺に惚れてください。」

状況について行けず、戸惑う俺に気にせず、
「ここのホテルのプリン、凄く美味しいんらしいんだけど食べる?」と小野江さんに聞かれた。
プリンという言葉に、俺は早々に考えることを放棄し、勢い良く首を縦に振った。







補足

prev / next

[ back to top ]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -