短編2 | ナノ


▼ 野球部×園芸部

身体中に刺さるように照り付ける太陽は、お昼頃を迎える今は空高く存在し、これでもかという程の熱を発している。

朝から作業をしている僕の身体はもう汗でびょしょびしょで、正直言って気持ち悪い。
だけどそれでも僕は満面の笑顔で空を見上げた。

今年も、暑い夏がやって来た







ピピピと鳴った時計に慌てて鍋の火を止め、素早くザルへと移し、水で洗う。
後は盛り付けて完成という時、玄関の鍵が開く音がした。
顔は無意識に綻び、小走りで玄関へと向かった。

「利久(りく)くん、おかえりなさい」
「ん。ただいま、モモ」
もうそろそろでお昼ご飯できるよ、と告げると利久くんは「ん」とだけ呟き、お風呂場へと直行した。
僕は部屋へと向かい、利久くんの部屋着とバスタオル持って、お風呂場へと置きに行った。
利久くんがお風呂へ行っている間に再び準備を進め、テーブルの上に出来た食べ物を次々に並べた。

丁度最後に冷やしておいたお茶をテーブルに乗せた時、ガチャリと扉が開かれた。
短い利久くんの髪の毛は水を含み、首に巻いたタオルへと滴が染み込んでいく。
いつもながらにカッコいいなと数秒程見惚れていると、徐々に利久くんは僕へと近付き、ギュッと抱き締めてきた。

首元に鼻をぐりぐり擦り寄せてくる利久くんに慌てて
「利久くん、だめ!料理してたから僕、少し汗かいてて臭いよ」と、利久くんの顔を首元から離そうとしたが、手首を掴まれ止められた。
「利久くん」と声をかけても返事をしてくれず、ギュッと目を瞑って我慢していると、やっと首元から顔を離された。

「モモはいつでもいい匂い。俺の好きな香りだ」
その言葉に僕は少しだけムッとした。
僕は知っている。
なんで利久くんは家へ帰ってすぐにお風呂へ入るのかを、
利久くんが直ぐにお風呂へ直行するのは、野球部である利久はたくさん汗をかいて気持ち悪いからでも、スッキリしたいからでもない。
利久くんはたくさん汗をかいた自分は臭いからと、僕に気を使っているからだ。
だから風呂上がってから僕へと抱き付いてくる。
それを知っている僕は利久に言い返したい!
『利久くんはいい匂いだよ。僕の好きな香り』と。

今度部活終わりでたくさん汗をかいている時に利久くんに抱き付いてやると計画しながらも、出来たばかりのお昼ご飯を食べようと利久くんを誘った。

席に着き、サラダうどんに手を付ける利久くんを、僕はお茶を注ぎながら見つめた。
トマトを口に含みゆっくりと咀嚼した利久くんは一言「美味い」とだけ呟いた。
僕はそれに快くし、「今年のトマトもキュウリもいい出来だったんだ」と笑顔を浮かべながら僕も食べ始めた。





昔から僕は食べる事が大好きだった。
お肉にお魚にお野菜に、時期によって味が変わるそれらはどれも美味しく、僕を笑顔にさせた。
動物の命を頂き、そのおかげで僕は今日も元気に生きている。
食べることは人間にとってとても大事なことで、その食べ物を作るのは大変なこと。
僕が食べ物を作る事に興味を持つのは、ある意味自然なことだった。

最初はミニトマトだった。
毎日水をあげて成長していく姿は楽しく、そして花が咲いた時は泣いて喜んだ。
赤く色付いたミニトマトを収穫し、初めて食べた時の美味しさは今でも忘れられない。
それから僕は家庭菜園にハマり、高校に入学してからは園芸部への入部を決めた。

暑い日も寒い日も大事に育て上げた食べ物達は、収穫の時期を迎えると綺麗に色付き『美味しいよ』と主張してくる。
そのせいで僕はいつもついつい食べ過ぎてしまう。
食べる事が大好きで、元々肉付きがよかった身体は高校に入り、園芸部の活動で少しだけ体重は減ったが、それでもやはりまだまだ身体はぽちゃりと肉付きがよく、お爺さんやお婆さん世代には「健康体ねぇー!」と褒めてくれるが、僕は少しだけコンプレックスだった。

けれどそんな見た目でも利久くんは僕を『好きだ』と、『可愛い』と言う。


利久くんは1年生の頃のクラスメイトだった。
他の野球部員とは違って物静かで、口数は少なく、休み時間の間はいつも読書をしている。
そんな運動バカばかりが集まる野球部で利久くんは少し変わった存在だった。

だけどリトルリーグから野球を続けている利久くんの野球の腕はすごいらしく、1年の頃からレギュラー入りをしていた。
運動能力が高く、読書家な利久くんは頭も良い。
その上、見た目まで良いとは同じ男としては何処か複雑な気分。





「モモの野菜は、どれも美味いな」
食べ終わった後ポツリと呟くように言った利久くんの言葉に僕は満面の笑みを浮かべた。

「きっとそれは『美味しくなーれ』ってお願いしながらお水をあげてるからだよ」
あまり動かない利久くんの表情は少しだけ動いた。

「ああ。そうだな…。
モモ…いつもありがとな、ご馳走様」
「たくさん食べてくれて、僕も嬉しいよ。うん、お粗末様でした」



誰が想像出来るだろうか。
そんな完璧人間で、女子からもモテる野球部のエースである向井(むかい)利久くんが、唯一の園芸部員である僕、泉百太朗(いずみももたろう)と、高校1年の夏頃から付き合っているなんて…






補足

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