短編2 | ナノ


▼ 会長×親衛隊隊長

生まれた時から、俺は人の上に立つことが決められていた。


日本有数の財閥の御曹司、
良い物だけを口にし、良い物だけを目にする。
小さい頃からたくさんの習い事へと通い、人の上に立つ人間として、帝王学も学ばされてきた。
勉学や運動能力、全てのものに秀で、その上見た目も申し分ない。
そんな完璧人間こそ俺、一ノ宮礼央(いちのみやれお)だった。

未来を担う御曹司達が通う学園でも一切霞むことはなく、生徒会長という立場で、学園の中でも俺は人の上に立っていた。

天上天下唯我独尊、俺様何様礼央様。



…というのが表の俺で、実際の俺はそんな出来た人間ではない。

高級な物は美味いなとは思うが、カップラーメンの方が俺は大好きだし
どんなに高級で美味しい物でも、育ち盛りの男には、質重視の食べ物は量が少なすぎて物足りない。
人間国宝が作った芸術品も、『割ったり汚したらやばいな』と思うぐらいで、ぶっちゃけ全くと言っていいほど興味がない。
習い事も「たくさん習い事をすればするほど、女の子にモテるから」と、両親に騙されて通わされていただけ。

本当の俺は、感覚が庶民派のただのボンボン。
性格は俺様なんかじゃない
どちらかと言えば優柔不断で、少しだけ泣き虫。
年相応に性に興味を持ち、だが今だに経験がない、ヘタレ童貞野郎。


人の上に立つ人間としては全く素質は無く、両親は早くからその事に気付き
『中身はどうあれ、能力を身に付けさせればいいんだ』と、習い事や帝王学を早いうちから騙すように習わせた。
年齢を重ねるうちにだんだんと『周りからどう思われているのか』『どんなイメージを持たれているのか』が俺自身でもわかるようになった。
俺はイメージを崩さないよう、皆がイメージする俺を演じた。
それは至極過ごしやすかったが、本当の自分がバレるのを恐れ、好きな人と付き合えたはいいものの、何も発展しないという重大な問題に突き当たった。



男しか居ない特殊な環境故に、親衛隊というものが存在している。
もちろん俺にも親衛隊がおり、俺の親衛隊隊長はそれはそれは可愛らしい顔立ちの柔らかい男の子だった。
俺の言うことにはなんでも「はい」と答え、俺の体調を気遣い、差し入れをくれる優しさもある。

親衛隊隊長であり恋人でもある玉藤唯斗(たまふじゆいと)に、俺は心底ベタ惚れだった。
数週間前に、1年越しの想いがやっと叶い、付き合うことになった。
だけど唯は経験豊富な俺様生徒会長である表の俺を好きになった訳で、本当の俺を知られたら見限られると、せっかく付き合えたのに、俺達は何1つ恋人らしいことは出来ていなかった。





「なあああがあああたあああ」
「うっせぇへたれ」
風紀委員長の永田(ながた)に泣きつくのはもう何度目か。
出来るなら泣きつきたくはないが、本当の俺を知っているやつが永田しか居ないので、何かある度に無意識に足が永田の元へと向かってしまう。

「本当の俺がバレたらヤバいと思って出来るだけ喋らないようにしてたら、『ごめんなさい。僕の話、つまらないですよね』って唯に謝られたあああああ
つまんないとか思ったことないし、むしろ唯の声を1秒でも長く聞いていたいと思ってるのにいいいいい」
「もうごちゃごちゃ考えるぐらいなら別れちまえばいいだろうが」
「ヤダよ!俺、唯の事大好きだもん」
「はぁ…こんな上玉が目の前にいるのに、あんな女みたいな奴のどこがいいんだか…」

キッカケは永田が俺に告白をしてきた時だった。
逃げられないように壁際に追い詰められ、脅すように告白された。
そんな恐怖体験に、思わず俺は泣きながら「俺は唯が好きなんだよおおお」と叫んでしまった。
天上天下唯我独尊俺様何様礼央様な俺に惚れていた永田は、最初はポカンとした顔をしていたが、数秒後に声をあげて笑い
「面白い、さらに惚れた」と、ふざけたことを抜かした。
それから事あるごとに俺に迫り、俺はその度に突っ返しながらも、本当の俺を知っている永田を頼りにしていた。

「唯の事馬鹿にすんなよ!」
「はいはい。まぁ振られたら来いよ、いつでも慰めてやるから」
「下心見え見えなんだよばーか!」





なんというか、やっちまったなーっと…

何処からか俺と永田が付き合っているという噂が流れてしまった。
俺と唯が付き合っていることは限られた人達しか知らないので、
会う生徒、会う生徒に「風紀委員長様と会長様はとてもお似合いだと思います!」「お幸せに」などという不名誉な事を朝から言われ、気が滅入って仕方ない。

なんであんな奴と付き合ってることになるんだよ!
唯に誤解でもされたらどうしてくれる!

慌てて永田を呼び出し、2人きりになれるよう、空き教室まで連れて来た。
途中廊下ですれ違った生徒達が「会長様なら勝てないや」と呟いていたのは、聞かないふりをした。


「噂!唯に誤解されたらどうしよう!俺別れたくない」
「誤解されてもいいじゃねぇか。いっそ噂通り俺達が付き合おうぜ」
「いーやーだーーー!!!」
どうどうと落ち着かせようとしてくる永田を軽く殴っていると、大きな音をたてて扉が開かれた。

「会長様!ご無事ですか?!?!」
「唯?!」
「永田に連れていかれたと聞いて、慌てて来たんですが、貞操は無事ですか?」
「チッ…良いとこで邪魔すんなよ玉藤!せっかく礼央と付き合えそうだったのに」
良いとこだったのかと首を傾げていると、「さっさと別れろよ。お前が憧れて大好きなこいつは、本当のこいつじゃねぇんだよ。別れてこいつを俺にくれよ」と言った。
慌てて永田の口を押さえるが時すでに遅し、唯はポカンとしていた。
永田を信頼しきっていたせいで、まさか唯にバラされるとは思っていなかった。
やっちまったなぁー…

俺の手を外した永田は、「じゃあな、俺はいつでも待ってるから」と言い、空き教室から去って行った。


「…どういうことですか?会長様」
唯の可愛い顔が少し怒り気味に歪み、若干震えあがりながらも、逃げ場はないと悟り、ポツリポツリと俺は話し始めた。

「俺は…お前が想像してる俺じゃないんだよ…」



聞き終えた唯は一言
「幻滅しました」と言った。
もうダメだ、唯と別れるしかないのか…

「唯、俺はお前と別れたくない!」
「僕は堂々と人の上に立ち、いつでもみんなの手本になる会長様が好きです…」
「嫌だ!俺は別れないからな!」
「会長様!!!!今僕が話しているので、ちゃんと最後まで聞いてください!!!!」


「確かに自分が想像していた会長様と違い、幻滅しました。
そして僕に嫌われるだろうと思われていたのは悲しかったです。
僕はどんな会長様でも尊敬し、憧れています。
僕も会長様と別れたくなんてありません。僕も会長様が好きですから」
どんなことがあろうとも泣きながら唯の足にすがりつこうと思っていたが、
思いもよらない唯の発言に目が点になった。

「あと恋人である僕より、永田の方が先に本当の会長様を知っていたのは結構ムカつきます」
「それは…永田から告白されて、そのあと襲われそうになったからで…」
一気に唯の目が据わり、『一発殴ってきますね』と言い始めた唯を、俺は慌てて止めた。

「全部未遂だから!俺は平気だから!」
「しかしこの先の為も考えてやはり一発は殴っておきましょう。
あいつは言って直るような奴ではありません。殴ってでももう会長様を襲わないように誓わせましょう!」
可愛くて優しくて、そして顔に似合わず男前な唯に、俺はもうこれ以上ない程ベタ惚れだ。
唯を信じて、もっと早めに自分をさらけ出せばよかったなと、本当の自分がバレたら唯に嫌われるんじゃないかと悩み続けていた自分が馬鹿らしくなった。

永田の元へと殴り込もうとする唯を止め、少しだけお互いの話をした。







おまけ
「会長様は童貞処女という事で間違いありませんね?」
「…はい」
「それでは1ヶ月ほど時間をください。その間に開発しますので」
「開発?」
「アナルです。お互い初めて同士なので、念入りに行う必要があります」
「っ!?」
「入れられる側の方が負担は大きいと聞いたので、会長様は入れる側でいいですか?それとも入れられたいですか?」
「いや…あの…入れたい……です」
「会長様のモノを入れられるよう精一杯努めさせてもらいます」
「(俺も手伝いたいって言ったら怒られるかな…?)」






補足

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