短編2 | ナノ


▼ 可愛い×平凡3

リクエスト


最初から『可愛い子だなー』とよく目で追いかけていた。

フリフリの可愛い服に、長い髪を二つに結った髪型。
そして人を笑顔にさせるような明るい笑顔。
そんな同じヒツジ組の千明ちゃんを、俺はいつも遠くから見ているだけだった。
ずっと千明ちゃんに話し掛けてみたかったけど、千明ちゃんの周りにはたくさんの女の子達がいて、話しかけ辛かったし、
可愛い千明ちゃんを目の前にすると、俺は一気に緊張して、なかなか千明ちゃんに話し掛けられなかった。


だけどそんな勇気ない俺に、神様は味方してくれた。

遠足の日、俺がパートナーになるはずだった女の子と、千明ちゃんのパートナーの子が体調不良でお休みになり、急遽余った俺と千明ちゃんがパートナーになった。
遠足の間はずっと千明ちゃんと隣同士で、チャンスとばかりに、俺は勇気を振り絞って千明ちゃんに話し掛けた。
最初は話題が浮かばず、言葉に詰まったり、無言が続いたりしたが、どんな話でも千明ちゃんは笑顔で相槌を打ち、そして最後には「ちあきね、ずっとけんくんとお話ししてみたかったの」と言われ、もう俺は千明ちゃんの可愛さにメロメロだった。

遠足の日から俺達はグンッと仲良くなり、千明ちゃんと2人きりで遊ぶ日もあれば、千明ちゃんのお友達も入れて、みんなで遊んだりもした。
本音を言えば千明ちゃんと2人きりが良かったが、楽しそうに笑う千明ちゃんを見たら、俺の気持ちなんてどうでもよくなった。

ニコニコ笑う千明ちゃんの笑顔が俺まで笑顔にし、毎日千明ちゃんを見るたびに「可愛い」という俺の心の声が漏れ出た。


両親には、千明ちゃんと仲良くなる前からずっと
「仲良くなりたい子がいるんだけど、なかなか話しかけれない」と伝えていた。
だから遠足から帰った日、両親に千明ちゃんと仲良くなれた事を伝えると、とても喜んでくれた。

遠足から数日後、千明ちゃん親子と一緒に帰った日、家に帰りついた母さんは少し複雑そうな顔をしていた。
母さんにどうしたのかと聞いてみると、
「千明ちゃんは女の子じゃなくて、男の子なんですって」と言われた。
それを聞いた俺は固まった。

「…おかあさん、ちあきちゃんは僕と同じ男の子ってことなんだよね?
…すごいね!男の子なのに、ちあきちゃんが1番かわいいよ」
母さんは驚いた顔をした後、ふふふとおかしそうに笑った。

「そうね。千明ちゃん、すごく可愛いわね」
「うん、かわいい!!!」







毎日「今日もちあきちゃん可愛かった」「ちあきちゃんとけっこんの約束した」と千明ちゃんについて話していた俺に、母さんは教えてくれた。
小学校に通い始めたら、千明ちゃんと俺は登校班が一緒で、毎日一緒に登下校ができる。と
その日から小学校に入るのが楽しみで、とても待ち遠しかった。
春からはもっと千明ちゃんと一緒に居れる。
それが嬉しくて嬉しくて、クリスマスやお正月のビックイベントよりも、俺はずっと春を楽しみにしていた。
だけど冬休み明け、幼稚園に千明ちゃんはいなくなっていた。

千明ちゃんは冬休み中に遠くへ引越ししたらしく、母さんは冬休みの途中から知っていたが、春をすごく楽しみにしていた俺に言いづらかったようで、
「ずっと楽しみにしていたから、なかなか言い出せなかったの…。ごめんなさい」と後から言われた。

毎日毎日俺は泣いた。
千明ちゃんに会いたいのに、千明ちゃんはどこにもいなくて、あれほど楽しみにしていた小学校も、千明ちゃんが居ないんじゃ、何も楽しくなかった。
そんな俺に両親は
「あのね、引越し前に千明ちゃんのお母さんから聞いたの。
いつになるかはわからないけど、またいつかはこっちに帰ってくるんですって。
だからいつでも千明ちゃんが帰ってきてもいいように、シャキッとしてなきゃ、大好きな千明ちゃんに『けんくんカッコ悪い』って嫌われちゃうわよ」と言った。

その言葉に今まで暗かった気持ちが一気に明るくなり、千明ちゃんに嫌われたくない俺は、いつ千明ちゃんが帰ってきてもいいように、カッコ良くいようと決めた。
誰にでも優しく、気遣える、千明ちゃんに『けんくん大好き』と思ってもらえるような、そんな男になろうと、俺は決意した。







毎年、春になるたびに端から端まで名簿を見て、千明ちゃんの名前がないか確かめた。
気付けばそれも9回目になり、今年から高校生になった俺は、半ば諦めていた。
名簿も自分の名前を見付けて直ぐに見るのをやめ、その場から立ち去ろうした。
だけど『自分のクラスだけ』と、諦めきれず下まで見た名簿には『柳田千明』と、今までずっと探し続けていた名前を見付けた。


昔と違ってフリフリの可愛い服や、長い髪を二つに結った髪型でもなかったが、人を笑顔にさせるような明るい笑顔は昔と全く変わっていなかった。

教室で千明ちゃんを見付けた俺は、両手で顔を覆い、「千明ちゃんはやっぱり可愛なぁ」と少し涙を流しながら笑った。




千明ちゃんと再び会えた上に、同じクラスで、幸せな毎日だったが、俺は千明ちゃんに話し掛けられなかった。
昔は幼稚園で1番高かった身長は面影をなくし、四捨五入して168cm。
千明ちゃんよりも小さく、周りからは「可愛い」とからかわれている。
カッコイイとは無縁な俺が『謙くん』だと、多分千明ちゃんはわからないだろうと。
わかったとしても、こんな俺に幻滅して、嫌われるかもしれないと怖くて話し掛けられなかった。

だから遠くから見つめるだけにして、たまに千明ちゃんと一緒にいれる友達を、羨ましさや嫉妬で睨みつけた。







今までの体育祭なら、適当に1個だけ出てあとはサボる。
だけど今年の体育祭はこれまでとは違う。
今年は千明ちゃんがいる。

唯一得意だと言ってもいい運動で千明ちゃんにカッコイイと思われたくて、調子に乗って何個も競技に立候補した。
補欠も率先して引き受け、みんなが出たがらない色別対抗リレーにも立候補すると「出過ぎだろ」「大丈夫か?」とみんなから心配された。
俺は千明ちゃんにカッコイイと思って欲しいという不純な動機で立候補したから、あまり大それた事も言えず「いーのいーの」としか返せなかった。






千明ちゃんにカッコイイ所を見せたいという一心で走り、全て1位を獲得した。
周りに「スゲーな」「よくやった謙!」と褒められても、俺が1番に褒めてほしいのは千明ちゃんな訳で、少し複雑ながらも返事をした。

午後からは千明ちゃんが出る競技。
ゆっくり千明ちゃんを見ようと思っていたが、借り物競争に出る予定だった吉川がお休みで、急遽補欠だった俺が出ることになった。


ピストルの音と同時に走り出した千明ちゃんは、あまり運動が得意じゃないのか、5番目ぐらいにボックスへと入っていった。
応援席でケータイ片手に千明ちゃんをたくさん撮るつもりだったのに、と悔しく思いながらも、千明ちゃんが出てくるのを待った。

ボックスへ入った奴等が次々に出てきたが、その姿はチャイナ服、ナース服、バニーと、似合わない格好に俺は爆笑した。
おかしさに涙が出るほど腹を抱えて笑っていたが、ボックスから出てきた千明ちゃんに俺は硬直した。

千明ちゃんはメイド服で、ボブのウィッグを被っていた。
可愛すぎるだろうと叫びたい程似合っており、他の男が千明ちゃんに惚れてしまったらと不安が募った。
長めのスカートだからスカートを少し持ち上げて走る姿はとても可愛く、鼻血が出るんじゃないかと、俺は鼻に手を当てた。

なんで俺は今ケータイを持っていないのかと心底絶望し、千明ちゃんのメイド服姿から目を離さず、目に焼き付けるように、ゴールしてからもずっと見続けた。

そろそろ自分の番という時、こちらを向いた千明ちゃんとバチリと目があってしまった。
慌ててそらし、心を落ち着かせた。

ヤバイ…ずっと見てたのバレたかもしれない…



千明ちゃんの可愛い姿や、一瞬だけだが目が合ったことに絶好調だった。
だけど自分の順番になり、ピストルの音で走り出し、ボックスの中へ入った俺は、ハンガーに掛けられたセーラー服を見て言葉を無くした。

セーラー服は俺なんかより千明ちゃんに着て欲しいし、
こんなカッコ悪い姿千明ちゃんに見られたくない。
と抵抗感から、着るのにとても時間がかかった。
俯きながらボックスから出て、借り物が書かれている紙を拾って見た俺は、再び困った。
『好きな物(人)』

頭の中にはパッと千明ちゃんの姿が浮かび、ゆっくりと視線を上げると、千明ちゃんとバチリと目が合った。
心の中で『これは千明ちゃんしか居ない』と決意し、気合を入れ、千明ちゃんへ向かって俺は走った。







千明ちゃんの腕を掴んだ手の平を見つめながら退場すると、クラスメート達に囲まれた。
皆、俺の容姿について色々言っていたが、千明ちゃんの姿が遠くに見えた事で俺は俯いた。
だけど皆は俺の事情など知らず「可愛い」と言うので、
思わず、千明ちゃんが聞いてるのに!!!と思い、
「可愛いのは千明ちゃんだよ!!!!」と叫んでしまった。

そこからはもう無我夢中で、気付いたら千明ちゃんに腕を掴まれ走っていた。







さっきまで千明ちゃんと話しをしていた教室から出て行き、最初はゆっくりと歩いていたが、気付けば全力で走っていた。

告白紛いをしてしまったのは急すぎたし、こんな俺に告白されても迷惑だっただろうなと不安になった。
だけどそれよりも、千明ちゃんが俺を覚えていて、俺だとわかっていたことがすごく嬉しくて、天にも昇るような気分だった。


そして決意した。
色別対抗リレーで、もし1番になれたら、その時は千明ちゃんをデートに誘おう。
まずは、友達から。
俺はもっと千明ちゃんと話したい。







補足

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