短編2 | ナノ


▼ あなたを愛しましょう2

リクエスト


ナオが那央になってから、俺の生活は前よりも楽しいものになった。

「アゼルさん、朝ですよ。アゼルさん」
俺の名を呼ぶ那央の声で起こされ、ゆっくり目を開くと、ニコリと綺麗な笑みを浮かべる那央がいた。
ナオと同じ顔なのに、こうも性格や表情が違うだけで、あんなに嫌いだったナオをこんなに可愛いと感じ、愛しく思える日が来るなんて、俺自身予想もしていなかった。

来い来いと手招きをすると、少し恥ずかしそうに、那央はベッドに体重を乗せ、徐々に俺へと顔を近づけた。
そしてチュッと一瞬だけ、柔らかい感触が唇に触れ、俺の心は満たされた。




冷酷非道だが仮にも母親であるナオに愛されたいと願っていたエドを、那央が愛してくれると言った日、俺は那央に迫った。
『エドの母親になるということは俺の妻でもあるよな?それじゃあ俺は、那央の事を奥さんとして接する』
キョトンとする那央に軽くキスをするとようやく意味がわかったのか、目を大きく見開き、困ったように視線を彷徨わせた。
俺はジーッと次の那央の反応を見つめていると、那央は軽く俯きながらも、ゆっくりと頷いてくれた。

那央の同意も得て、俺達は簡単な夫婦の決まりを作った。
朝起きた時、出掛ける時、帰って来た時、夜寝る時は必ずキスをする、と

それを那央は律儀に守り、毎日恥ずかしがりながらも実行してくれる。
その姿はとても可愛く、俺の妻はなんて可愛いんだと全ての民に大声で伝えたい程だ。


今日の朝の事を思い出し、思わず頬が緩んだが、
「王様、手が止まってますよ」という声に現実へ戻された。

「少しぐらい休憩していてもいいだろう」
「いえ、今の王様に時間などありません。最近は那央様やエド様を構い、全然仕事をなさっていなかったじゃありませんか。
そのせいでどれだけ仕事が溜まっているか、わかっているんですか?!」
那央とエドで城下町へ行ったり、ピクニックへ行ったり、遊んでいた自覚はあった。
そして今日、那央に起こされ、着替えてから朝食を食べに行くと、使用人にいつもと違う部屋へと誘導された。
そこにはたくさんの書類と簡単な食事だけが置かれていた。

「今日はこの溜まりに溜まった書類が終わるまで寝かせません」
それから7時間、俺はぶっ通しで書類と格闘している。
那央とエドに会いたすぎて、そろそろ俺は死んでしまいそうだ。





「なぁ、那央とエドは今何をしているんだ?」
「お2人は今、お昼寝をなさっていますよ」
その言葉に俺はガタリと椅子から立ち上がり、足早に2人の元へと向かった。
後ろから俺を呼ぶ声が聞こえたが、それを無視し、疲れた心に癒しを求め、無我夢中で2人の元へと走った。


来る途中に会った使用人に那央とエドの場所を聞き、教えてもらった部屋の扉をゆっくり開けるとスーッスーッという寝息が聞こえ、足音を立てないように近付くと、天使2人が気持ち良さそうに寝ていた。

俺の妻と息子はなんて可愛いんだと悶え苦しみ
この光景を目に焼き付けようと見ていると、「んっ…父様ぁ?」とエドが起きてしまった。
起きたエドに「シー」と口に人差し指を付けて言うと、ハッとした表情で両手で口を塞いだ。
その姿もとても可愛く、エドを抱き上げて、那央を起こさないように部屋から出た。



「今日は那央と何してたんだ?」
膝に乗るエドはニコニコ笑い、「あのねー」と言って今日あったことを楽しそうに身振り手振りで教えてくれた。

「それでね、母様のご本聞いているうちに僕寝ちゃったんです。」
そう悲しそうに言うエドの頭を撫でて、「じゃあ母様が起きたら「続きよんで」って言えば、母様は優しいからきっと読んでくれる」
そう言うと途端に笑顔になって頷いた。

「父様はまだ仕事があるからもう行くな。」
「はい。父様行ってらっしゃい」
我が子の笑顔にやる気が湧き、口うるさい使用人がいる部屋へと戻って、俺は仕事を再開させた。








両手を上げ、伸びをすると、凝り固まった身体が徐々に伸びていくのを感じた。

「んー…終わったぁ」
使用人はいつの間にか居なくなり、時間を確認するとそろそろ日付を跨ぐ頃だった。
晩御飯も手軽なものを食べたのでお腹は空いていないが、いつもは那央とエドと3人で食事をしていたので、久しぶりの1人の食事は寂しくてたまらなかった。
今度からは仕事を溜め込まないようにしようと心に決め、寝室へと向かった。




気持ち良さそうに寝ている那央を起こさないように布団に入り、軽く那央の頬を撫でると那央の目が開いてしまった。

「アゼル、さん?」
「悪い那央。起こしてしまったか」
「いえ大丈夫です。それより今までお仕事を?…お疲れ様です」
「ああ」
那央が起きてしまったので、もう遠慮せずに那央を触ると、くすぐったかったのか、その手を掴まれた。

「今日はエドに本を読み聞かせたんだって?『母様ね、すごくご本読むの上手だったんです』ってエドが言っていたぞ」
「…元の世界で、隣の家の子を預かることが多くて、よく本も読んであげてたんです」
元の世界。
俺はそれが嫌いだった。
那央の本意はわからないが、本当は元の世界に帰りたいと思っているんじゃないかと思い、そういう話はあまりしてこなかった。
もし那央が帰ってしまったら、俺もエドも生きていけない。
そのことが怖くて、元の世界の話は避けていたが、昔を懐かしみながら語る那央に俺は口を挟めなかった。



「…ねぇ、アゼルさん。今、アゼルさんが何を考えているか、なんとなくですが想像できます。
その上で言いますが、俺は元の世界には帰る気はないですよ」
突然の那央の言葉に顔を上げると屈託無い笑顔を浮かべていた。

「なんで…わかったんだ?」
「エドくんもたまに言うんです。
『母様何処にもいかないで』って。
だからエドくんと同じようにアゼルさんもそう思ってくれているなら嬉しいなぁ、と」
那央の勘の良さに俺はハハッと笑い、身体を起こして、那央に覆いかぶさった。


「…なぁ、那央。エドに弟か妹を作ってやらないか?一人っ子は寂しいと思う。現に俺は寂しかったからな」
俺の行動の意味がわかった那央は顔を真っ赤にさせ、両手で顔を隠してしまった。
赤くなっている那央の耳に顔を近付け、
「那央似の女の子が俺は欲しいな」というと少しだけ手をずらした。

「俺は…アゼルさんに似た女の子がいいです。きっとお人形さんみたいで、すごく可愛い子だと思います」
「いや、那央似の方がいい」
顔を隠してる両手を取り去り、覆いかぶさりながらキスをすると、答えるようにして那央も俺の首に腕を回した。







補足

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