短編2 | ナノ


▼ 弟×兄2

リクエスト


ここ数年、ずっと俺はイライラしっぱなしだった。

突然俺を避けるようになった兄貴。
俺の知らないうちに進学先を決め、しかもその進学先は県外の全寮制学校だった。
兄貴は少しずつ自分の荷物を学校へと送り、俺が友達と遊びに行き、家に居ない日を狙って、家から出て行ってしまった。

長期休みの間も兄貴は家に帰って来ることはなく、さりげなく兄貴の事を両親に聞いてみると、両親の元には小まめに連絡が来ているらしい。

そんなに俺の事が嫌いか
そんなに俺と一緒に居たくないのか
そんなに俺と会いたくないのか

イライラする
俺が兄貴に何をしたっていうんだ




兄貴が俺を避けるようになってから、俺のイライラが治まった事はなかった。
全てにムカつき、言いようのないこのどうしようもない気持ちを、喧嘩や女遊びで無理矢理発散させた。
だけどそれでもやはり俺のイライラが治まり、気持ちがスッキリすることはなかった。

そんな俺を見兼ねた両親が、
「本当に裕司はお兄ちゃんの事が好きなんだから」と言って、兄貴の進学先を教えてくれた。
今まで何回聞いても、「お兄ちゃんに教えないでって口止めされたから」と渋って教えてくれてなかったが、イライラしながらも全然帰って来ない兄貴に落ち込む俺を見て、とうとう両親が折れた。

両親から兄貴の進学先を聞き、行こうと思っていた志望校をやめ、俺は兄貴の通っている学校を志望校にした。
元々あまり勉強は得意じゃなく、授業もサボりっぱなしだったが、朝から晩まで机に向かい、俺は勉強をした。
今まで迷惑をかけていた担任にはさらに迷惑をかけ、遅くまで勉強に付き合ってもらった。
目標が決まった俺は、喧嘩も女遊びもやめ、懸命に、ただただ兄貴と同じ学校へ行くためだけに頑張った。


試験の日、両親や担任に背中を押され、今まで頑張って来たことを全て出し切った。
けれどやはり不安なものは不安で、結果が出るまで、俺の頭は悪い予想しか浮かばなかった。
『もし落ちたら、俺はもう兄貴と一生会えないかもしれない』
そんな事まで思うようになっていた。

合格発表の日、俺は泣いた。
兄貴のいる学校に俺は受かった。
春から、俺は兄貴と同じ学校に通える。
そのことが嬉しくてたまらなかった。


受かったことで気持ちに余裕もでき、久しぶりに友達と遊んだ。
友達には「よくお前があんな頭良いところ受かったよな。奇跡だ」と何度も言われた。
俺自身、兄貴の通う進学校に合格できたのは奇跡だと思う。
兄貴に会いたい一心で俺はここまで頑張ってこれた。





合格発表から1週間と数日、今年もこの時期が来たなーと思っていた。
案の定下駄箱や机の上、机の中にもチョコが入った紙袋が入れられ、直接手渡しでもチョコをもらった。

もうそろそろ卒業だからか、何人かに告白もされた。
それにどれも丁重にお断りし、来た時には軽かった鞄が、帰る時にはとても重く、少し憂鬱になりながらも家に帰ってきた。
リビングにもらった紙袋を置き、部屋着に着替えてから再びリビングへと戻ると、母さんが
「お兄ちゃんから裕司宛に宅急便届いているわよ。冷蔵庫に入っているから」とテレビを見ながら言われた。
その言葉に一瞬理解できず、ポカンとしたが、俺は目を大きく開き、急いで冷蔵庫へと走った。

冷蔵庫の中には小さな箱があり、箱を開くとその中にはパウンドケーキが入っていた。
興奮気味にそれを1口食べてみるとチョコ味で、俺はその場にしゃがみ込み、俺の目からは涙が落ちた。

兄貴から送られてきたチョコ味のバウンドケーキは今まで食べた何よりも美味しく、もう1口食べようと箱を見ると、端に紙がはいっていた。

『ごめんね、裕司』



慌てて箱を持って部屋へと戻り、兄貴へメールを作成し、直さま送った。

覚悟してろよ、兄貴
逃げ癖のある兄貴をもう俺は逃がさない
兄貴を捕まえて全て吐かせてやる

なんで俺を避けていたのか
なんで今日という日に、チョコ味のバウンドケーキを送ってきたのかを








俺は今日をどれだけ楽しみにし、ずっと待ちわびていたか


もう俺のイライラは無くなった。
言いようのないイライラはいつの間にかなくなり、今の俺の心には期待と興奮でいっぱいだった。


「おはようございます。今日からここでお世話になる、瀬川(せがわ)裕司です。…あの、兄の瀬川馨(かおる)の部屋って何号室ですか?」
「馨くんの弟かい?何度か話は聞いたことあるよ。馨くんは4階の角部屋だよ」
寮の管理人さんに頭を下げ、4階へと急いだ。
管理人さんの言っていた部屋の前に着き、1度大きく息を吸った後、ゆっくりと息を吐き、ドアの近くにあったインターホンを押した。

時間はかかったが、がちゃりと鍵が開いた音がして、そのあとゆっくりと扉が開かれた。
開かれた扉にはいつかぶりの兄貴が驚いたように目を見開いて立っていた。


「俺が送った宅急便届いた?」
ポカンとしている兄貴に俺はニコリと笑った。

「ホワイトデーのお返しは、飴にしたんだ」
この学校に来る前の日、俺は透明瓶の中に色鮮やか飴をたくさん入れ、兄貴へと送った。


何年かぶりに兄貴と目が合い、俺の気分は最高潮になった。







補足

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