短編2 | ナノ


▼ 僕は透明人間2

リクエスト


「おはよー…あれ?穂果どっか出掛けんの?」
「うん、多分帰りは遅くなるから」
遅起きな観月が部屋から出てきた頃には大体の準備は整い、玄関で靴を履いている僕に、観月はトコトコと足早にこちらへと近付いてきた。

「俺を置いてー、どーこー行ーくーんーだーよー」
ガッシリと片腕を掴まれ、その上前後に腕を振り回された。
靴を履き終え、ブンブンと腕を振ってくる観月を見ると、目をウルウルさせながら、寂しそうな顔でこちらを見ていた。

「観月…ダルい」
「ひどっ!いつもインドアなのに、今日はどうしちゃったんだよ。」
「デート」
「またまたー、そんな相手いない癖にー。俺がダルいからって適当なあしらい方するなよなー」
「はいはい。じゃあ僕はもう行くから」
ようやく腕を離してくれた観月に『バイバーイ。いってらっしゃーい』と見送られながら、僕は部屋から出ていった。






陽介さんにこの学園へ来たことに気付かれてからは、少しでも時間があれば陽介さんの所へ行くようになった。
それに『部屋に戻ると穂果くんがいるというのは、すごく幸せなものですね』と陽介さんに言われちゃ、もっと陽介さんに喜んでもらいたくて、得意でもない料理にも挑戦してしまっている。
美味しそうにすら見えない料理に陽介さんは
「美味しいです。ありがとうございます穂果くん。」と少し目元を緩め、笑ってくれる。
それが嬉しくて、さらに僕は調子に乗ってしまう。


陽介さんが全寮制の高校に通い始めてから2年間は、ほぼメールや電話だけで、なかなか会うことはできなかった。
だけど今は数分で会える距離。
そのことが僕には嬉しくてたまらない。

いつも通り、生徒会の仕事で少し遅めに帰ってきた陽介さんと晩御飯を食べ、部屋でゆっくりしていた。
2人でのんびりテレビを見ていると、激しいBGMと共に画面には『映像化不可能だと言われていたあの作品が、ついに映画化!』と流れた。
最後に出てきたタイトルは何度か見たことがあるもので、陽介さんを見ると何か考え込んでいた。

「これって確か、陽介さんが好きな作家さんの作品ですよね?」
「…え?あぁ、はい。そうですよ」
「映画気になります?」
「まぁ少しは…」
「そうですか。…じゃあこれ、2人で今度の土曜日見に行きましょうか」
もうそろそろ書類片付くって言ってましたし、どうですかね?と陽介さんに尋ねると目を丸くしたあと、「ありがとうございます」と言って、僕の頭を撫でてくれた。






学園内で待ち合わせはやめとこうとお互い一致し、学園の最寄り駅で待ち合わせをした。
時間を確認するとまだ待ち合わせよりも10分早く、そわそわした気持ちで待ち合わせ場所に陽介さんが居ないか確認すると、少し離れたベンチに既に陽介さんはいた。
真剣な顔付きで本を読み、自分の世界に入っている陽介さんの光景に、懐かしいなと感じた。
待ち合わせした日はいつもこうやって時間より少し早めに来て、陽介さんは本を読んでいる。

ゆっくりと陽介さんに近付き、ベンチの隣に座る。
ジーッと本を読む陽介さんを見つめていると、視線を感じたのか、本に向けていた視線は僕へと移り、僕を見た瞬間真剣だった顔が崩れ、優しく微笑まれた。

「おはようございます。いつもより早いですね」
「おはようございます。久しぶりの陽介さんとのデートなので、少し張り切っちゃったんです」
パタンと本を閉じた陽介さんは「穂果くんにそんな可愛いこと言われると、ここが公衆の面前だって事も忘れて、ギュッと抱きしめたくなります」と言って、片手を出された。
その片手に手を置くとギュッと軽く握られた。

「でもこれで我慢しときます。さて、行きましょうか」







「きのことベーコンの和風パスタ、ナスとトマトの田舎風パスタ、食後にコーヒーと紅茶でお間違えは無いですか?」
「はい、大丈夫です」
店員さんが行ったのを見届けてから目の前にいる陽介さんを見つめた。

「映画どうでした?」
「すごくよかったと思います。私自身あの話は物語だから出来る事だと思っていたので、実写でああも再現出来るとは驚きでした。
大迫力で、鬼気迫る演技もとても素晴らしかったです。
CMで見た時は、原作を忠実に再現できるのかと不安な気持ちの方が大きかったんですが、実際に見にきてよかったです。」
「そうですか。僕も面白くて、原作も読んでみようかなって気になりました。」
楽しそうに映画について語る陽介さんは、自分の好きな本について語っている時と同じで、とても楽しそうにキラキラしながら僕に語ってくれた。
陽介さんがベタ褒めするぐらい、確かにキャストから脚本まで全てが良かった。


料理が来てからもいつもは聞き役の陽介さんは喋り続け、反対に今日は僕が聞き役に徹した。
機嫌の良い陽介さんに、味見と称してアーンしちゃったし、僕も僕なりにとても楽しめた。
食後の紅茶を飲んでると、ピタリと陽介さんの声が聞こえなくなり、顔を上げると、申し訳なさそうな顔をしていた。

「どうしたんですか?」
「いや…私ばかり楽しんでて、今更ながら穂果くんはちゃんと楽しんでいるのかなと…」
「すごく楽しいですよ。いつも陽介さんが聞き役に徹してくれているんで、今日はたくさん陽介さんのお話を聞けて、新しい陽介さんを知れて、さらに好きになっちゃいましたし」
目をパチクリさせ、僕を見つめる陽介さんに笑顔で返すと、「ふふっ」と笑われた。

「穂果くん。今日はもう帰りましょうか」
「え?はい、いいですよ。」
まだ時間は3時を過ぎた頃で、帰るには早い時間だなと寂しく思っていたが、陽介さんの言葉を聞いてそんなこと吹っ飛んでしまった。

「外だと穂果くんに触れられないのが、とても辛いです。」
切なげにそう告げられ、自分の顔が真っ赤になっていくのが嫌でもわかった。
火照る僕の頬に陽介さんは軽く触れ
「さっ、行きましょうか」と声をかけられた。








補足

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