短編2 | ナノ


▼ 別れ話

「別れる…もう、無理だよ…」
「は?…どういう事だよ?意味わかんねぇんだけど」




寮部屋に戻ると部屋は真っ暗で、同室者でもあり、恋人でもある数馬(かずま)はもう寝てしまったのかと部屋の電気を付けると、ポツンとソファーに座る数馬がいた。

「っ?!…心臓止まるかと思った…電気付けないでどうしたんだよ?」
ゆっくりとこちらを振り向き、俺と目を合わせた数馬は徐々に顔を歪め、そして言われたのが『別れる』という言葉だった。

「孝治(こうじ)さ…浮気してんだろ?」
「…してねぇよ」
数馬の言葉に思わず俺はため息をつきたくなった。
俺達が通う学校は男しか居ないという特殊な環境故に、恋愛対象は男に向かってしまう。
かく言う俺もその1人で、高校に入って初めての友達だった数馬に惹かれ、好きにしまった。
1年間は友達を続けていたが、俺は好きを諦められず、とうとう想いを数馬へと伝えてしまった。
『これでもう友達でもいられなくなるな』と悲観的に思っていたが、俺の予想とは反対に、数馬は目を大きく見開き、そして顔を赤くしたまま俺から少し視線を逸らし「俺もずっと孝治の事が好きだった。俺でよければ、その…お願いします」と言われた。
一瞬自分に都合がいい幻聴でも聞こえたのかと耳を疑ったが、数馬の様子に幻聴じゃないんだと気付き、興奮した俺は数馬を連れて部屋へ向かい、欲望のままに数馬を抱いた。

ピロートークの中で数馬はニヤニヤ顔で「俺と付き合うんだからセフレとは全員切れよ」と言われた。
それに俺はハハハと笑った。
俺には何故か『会長様はセフレがたくさんいて、生徒会室や空き教室でヤリまくっている』という噂があった。
いつからか出回り始めたデマにいつも一緒に行動している数馬は「なんだよその噂。ウケるわー」と笑い、俺も数馬に誤解されないならいいやとそれ程気にしていなかった。
そのネタをピロートークに持ち出してくる数馬のムードの無さに、笑い「まずは親衛隊の奴等に数馬と付き合えたって言っとくわ」と伝えた。

「会長様と付き合えるなんて、一気に俺有名人になるな」
「元々お前はこの学校で目立つぐらい綺麗な顔してるし、今更だろ」
そう笑い合い、次の日の朝には全校生徒が俺と数馬が付き合っていると知った。
数馬と付き合い始めて、今まで『会長様はセフレがたくさんいて、生徒会室や空き教室でヤリまくっている』という噂が、『会長様は恋人公認で浮気している』へと変わった。
俺自身浮気なんてして無いし、数馬も気にしている様子がないので、まぁ大丈夫かと今回も気にしないでいた。

だけどその噂を数馬が気にしていたとは…

「ほら、前の噂みたいに勝手に周りが言ってるだけで、浮気なんてしてねぇよ」
「…信じられない」
今度こそ「はぁ」とため息をつくと、キッと数馬はこちらを睨み付け、「浮気してないって言うなら、昨日夜何してたんだよ?」と聞かれた。

「昨日の夜は生徒会の仕事で生徒会室に残ってた。…お前も知ってんだろ?生徒会の仕事で俺が忙しいって」
「誰かそれを証明してくれる人っているの?」
頭を掻きながら「居ねぇよ。最後に帰ったの俺だし。」と伝えると、『やっぱり』という顔をして食い気味に「『昨日は会長様に抱いてもらった』って多分お前の親衛隊に言われたんだよ!昨日そいつとヤッてたから帰るの遅かったんだろ?!」と叫ばれた。

「仕事してたよ」
「…信じられねぇ…だって今回のが初めてって訳じゃねぇんだ!今までも何回も何回も何回も…、色んな奴に「会長様に気持ち良くしてもらった」「会長様が僕の部屋に来てくれた」「優しく抱いてくれた」とか言われてきて、その度にお前はそんな事しないって自分に言い聞かせてたけど、もう限界なんだよ…お前の事が信じられねぇ……」
それだけじゃねぇ…「いつ別れるんだ?」「お前はもう飽きられてるんだよ」とか言われるし、俺はもう……

そう言って涙を零す数馬に「浮気なんてしてねぇ」「数馬、俺はお前の事を愛してる」「俺を見ろ」と語りかけるが全く聞く耳を持ってくれず、ソファーから立ち上がった数馬は
「お前とはもうやってけねぇ…別れる」と言って自室へと走って行ってしまった。

「待てよ!お前は誤解してる。俺は今まで浮気なんてしてねぇし、そもそも生徒会の仕事が忙しくてお前ともヤッてねぇだろ」
ドンドンと鍵のかかっている部屋の扉を叩きながら数馬に呼びかけるが返事が来ない。

「なんで別れなきゃなんねぇんだよ」
何を言っても数馬から返事はなく、終いにはゴンッと何かを扉へと投げつけられた。
落ち着いた頃を見計らってまた数馬に声を掛けるかと一旦その場から離れ、叫んだせいで乾いた喉を潤すためにキッチンへと行くと、床には割れたグラスや食器が散乱していた。
しかもどれも数馬とお揃いで俺が買ったもので、いつも数馬は大事そうにそれを使ってくれていたのに、今はその食器達は見るも無残な姿になっていた。
その光景に俺の頭の中はスッと冷え、再び数馬の部屋の前まで戻った。


「あの食器どういうことだよ…」
「……お前からもらった物は壊した。写真も全部消去した。俺は本気でお前と別れるつもりだから…」
部屋に篭ってから初めて数馬が声を出した。

「なぁ…、今俺がどんな気持ちかわかるか?数馬」
「っ!?俺は、ずっとお前を信じてたんだ。…いつかは浮気をやめてくれるだろうって、なのにお前は全然やめてくんねぇ…。お前こそ、俺がずっとどんな気持ちだったかわかんのかよ!!!!…」
「お前の気持ちなんて、俺にはわかる訳ねぇんだよ浮気野郎!!!」
数馬の声はもう遠くに聞こえ、今までの楽しかった記憶がフラッシュバックする。
そして最後に割れた食器や、先ほど言われた言葉が頭に浮かんだ。


「………俺ももうお前とはやっていける気がしねぇ…別れよう」
そう扉の前で静かに呟いて、俺は部屋から飛び出し、外へと出た。








浮気なんてしてないのに、それを恋人に信じてもらえなかったから別れることになるなんて
そう頭に浮かぶが、今まで俺は数馬もわかっているだろうと勝手に思い込み、噂の誤解を解こうともしていなかった事を思い出し、乾いた笑いが出る。
こうなったのも俺にも責任があるよな。

無意識に零れる涙を拭い、鼻を啜っていると
「会長様?こんな時間にどうしたんすか?」と声を掛けられた。
顔を上げると、マスクに眼鏡とあまり顔をわからない男が、俺に向かってハンカチを出していた。








補足


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