短編2 | ナノ


▼ 弟×兄

「お前、好きな奴いねぇの?」
友人から聞かれたその言葉にビクッと肩を揺らした。

「……居る。けど、叶わぬ恋というやつでして、正直諦めてる」
「へー、なんで?」
答えようか考えた結果、少しでも自分の気持ちが楽になればいいなという思いで『居る』と答えたが、更に突っ込まれた質問に、今度こそ答えることが出来ず、言葉を濁した。




恋に自覚したのは中学2年の頃だった。
朝起きた時、僕のズボンとパンツは濡れていた。
男ならよくありがちな夢精という現象で、その事自体はそれ程驚かなかったが、その時に見ていた夢が僕にとっては問題だった。
その時僕は、実の弟に抱かれている夢を見た。


年子の弟である裕司(ゆうじ)は僕よりも身長は高く、顔も身内の贔屓目無しにカッコイイ。
その証拠に中学校では女の子達にモテモテで、兄である僕は、クラスの女子達に弟を紹介するように迫られる程。
2人きりの兄弟ということや、年子というのもあって、周りの兄弟がいる友達と比べれば、兄弟仲は良い方だと思う。

そんな裕司に甘い言葉を耳元で囁かれ、ゆっくり僕の身体へと指を這わせ、最終的に抱かれる夢を僕は見てしまった。

起きた瞬間はぁはぁと荒い息を上げ、頬を伝う汗、湿っぽい下半身、そして先程まで見ていた夢に、僕の頭の中はぐちゃぐちゃになった。
だけどそんな中浮かんだのは『深層心理』という言葉だった。
『夢は自分の願望を見せる』と、何かで見たことがある。
だとすると、僕は無意識に裕司に抱かれたいと思っていたということになる。
そう思った瞬間バッと顔が熱くなっていくのが自分でもわかった。

「あっ…あぁ。うぁあ!!」




駄目だった。
その日から僕はもう、裕司を見ることが出来なくなった。

夢の中だとしても裕司に抱かれたという罪悪感や、男なのに…弟なのに…という背徳感。
どうやって今まで裕司と接していたのかも忘れ、僕は裕司を避けるようになった。
なるべく裕司と顔を合わせないようにし、今までは何もなくても裕司の部屋へ行っていたのもパッタリとやめた。
だけど学校では遠くから裕司を見つめ、裕司を見れた日は心の中でガッツポーズをし、その日1日は幸せでたまらなかった。

何度か突然避けるようになった僕を不審がった裕司に捕まったが、その度に自分の気持ちがバレたら終わると思い、ギュッと目を閉じ、必死に裕司を見ないようにしたり、逃げたことで、裕司も僕を避けるようになった。
自分が先に裕司にしたことだったが、やっぱり少し悲しかった。
だけど自分の気持ちが裕司にバレるよりはマシだと思い、学校で裕司を見つめるだけにした。


学年が上がり、進路をそろそろ考えなきゃいけない時期。
裕司が居ない時を見計らって、僕は両親にある学校のパンフレットを渡した。
そこは他県の寮付きのエスカレーター高校。
両親は困ったように顔を見合わせ、「お金の事は気にしなくてもいいけど、あなたはどうしてもここがいいの?他県の、しかも全寮制なんて…」と聞いてきた。
それに僕は深く頷き、少し俯きながら「下手な事がなければ、そのまま付属の大学に進めるんだ。就職率も良いし、将来を見越した上でこの高校がいいんだ」と言うと、両親は顔を少し緩ませ「あなたが決めたなら私達は反対しないわ」と言って背中を押してくれた。

確かに将来を見越してというのは嘘ではないが、1番の目的は裕司と離れることだった。
最近また裕司に抱かれる夢を見るようになり、このままじゃヤバイと思った。
僕の気持ちが爆発する前に裕司の前から去ろうと、逃げようと決めた。

裕司には最後まで進学先は黙っておき、両親にも僕の進学先を裕司に言わないように釘をさした。

少しずつ荷物をまとめ、裕司が遊びに行った日に両親に別れを告げ、僕は全寮制高校へと向かった。
それから長期休みは『裕司と会ったら…』という思いから、家には帰らなかった。
両親とは小まめに連絡をとっていたので、それらしい理由を言えば、帰ってくるように催促されることもなく、寮でのんびり過ごしたり、友達と遊びに行ったりしていた。





あの日、友人に好きな人を聞かれた時、『いる』とは言ったが誰かとは言えなかった。
その数日後、無理矢理友人に部屋へ連れてかれ、制服を脱がされた。
「えっ?えっ?」と突然のことに驚いていると、「やるぞ」と言われ、キッチンへと連れてかれた。




「お前の事情はわからないが、叶わなくても『義理』とか言えば許されるだろ?」
「…ありがとう」

キッチンへ連れてかれた僕は友人にエプロンを渡され、何故か一緒にチョコ味のパウンドケーキを作らされた。
作っている間、「自分の気持ちを押さえ付けすぎると良くないぞ?」
「たまには正直になれ」と言い、
「出来上がったら好きな人へ送れよ」と友人はニッコリ笑った。

その日は2月13日、バレンタインの前日だった。





友人に言われるまま、友人の監視の元、直ぐに出来上がったチョコ味のパウンドケーキをクール便で裕司へと送った。
到着日は2月14日の午後。
久しぶりにドキドキし、心臓が口から出そうになった。

ケータイで時間を見てみると既に14日の午後6時を過ぎていた。
はぁとため息をつき、『なんで送っちゃったんだろう。何か連絡来たらどうやって返事すればいいかわからないよ』と若干弱気になっていると、ケータイがブブブと震え、メールが来たことを知らせた。
震える手で操作し、差出人を見てみるとそれは裕司からだった。
一旦息を大きく吸い、そのあとゆっくりと息を吐いた。
ようやく覚悟も決まり、裕司からのメールを開いた。



――――――
From裕司
Sub(non title)
覚悟してろよ、兄貴
――――――


スクロールは下の方まで続き、下へと行くと『そうだ。俺も春から兄貴と同じ高校に通うことになったから』と書いてあった。

文の意味や、春から裕司が同じ高校に通うこと、
混乱から声にならない声で僕は叫んだ。






補足

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