短編2 | ナノ


▼ 可愛い×平凡

「ちあきちゃんは大きくなったら何になりたいの?」
「うーんとね…、ちあきはけんくんのお嫁さんになりたい!!」
「ホント?!じゃあずっと一緒にいようね、約束」
小指と小指を絡ませ、お互い顔を見合わせながら笑い合った。

幼稚園の年長の頃に好きな人と交わした結婚の約束。
けれど2ヶ月後には、俺の中では無いものとなった。




フリフリのピンクのスカート。
長い髪を二つに結った髪型。
小柄な体型。
これだけを見れば皆、誰でも女の子と想像するだろう。
だがそんな格好をしていた俺、柳田千明(やなだちあき)は男だった。

当時まだ幼稚園の年長だった俺は自分の事を女の子だと思っていた。
可愛い服を着て、周りからも『可愛い』と言われ、周りの子達の姿と見比べ、格好が似ている女の子の方だと自分は思い込んでいた。
それ故友達は女の子ばかりで、恋愛対象もその時期だけは男の子だった。

その当時の俺は同じヒツジ組に所属する西脇謙(にしわきけん)くんという男の子の事が好きで、謙くんは俺の初恋の相手でもあった。
謙くんは皆に優しく、他の男の子達よりも身長は高く、凄く頼りになるカッコイイ男の子だった。
勿論そんな謙くんは女の子達にモテモテで、謙くんの事が好きな俺は仲の良い女の子達と一緒に、謙くんへの想いを膨らませていた。

そんなある日、その日は行事の遠足で、俺は謙くんとパートナーになった。
パートナーとはその日1日中一緒で、バスの席は隣、移動の時は手を繋ぐ相手。
俺は謙くんと手を繋げることが嬉しくて他の女の子達に『いいなー』と羨ましがられながらも、謙くんとの楽しい1日を過ごした。

その日から謙くんと俺は急速に仲良くなり、他の女の子達も誘って皆で遊んだり、謙くんと2人で遊んだりもした。
そして遠足の日から、謙くんは俺と会うたびに「今日も千明ちゃんは凄く可愛いね」とよく褒めてくれるようになった。




あと数ヶ月後には幼稚園を卒業し、その後は小学校へ通うため、両親と母方の祖父母でランドセルを買いに行った日、ようやくそこで自分の性別が男だったことに俺は気付いた。

ランドセルがたくさん並ぶお店の中で、俺のランドセルを何色にするかで母さんは、「絶対赤よ!可愛いじゃない」と言い、
父さんは、「千明は可愛いから何色でも似合うもんなー」と迷っていた。
しかし一緒に来ていた婆ちゃんと爺ちゃんは
「可愛いけど、そろそろ黒とかそれらしいやつも買ってあげなさいよ」
「カッコイイのも、千明なら似合うと思うぞ」と言った。
それを聞いた俺は首を傾げ、「ちあき、可愛い色がいい。黒って男の子っぽくていやー」と言うと、その場にいた両親も祖父母も目を丸くした。

「男の子っぽいも何も千明は男の子じゃない。でも千明は可愛いし、なんでも似合うわー。千明は何色が良い?」と母さんは言い、今度は俺が目を丸くした。
『男の子?ちあきが?』と思考が真っ白になったが、ふと『そういえばちあきの身体、ママよりパパとの方が似てる』と思い出した。
自覚を持った瞬間、男の自分が女の子みたいな格好をしていることが恥ずかしくなり、消えてなくなりたくなった。


可愛い色のランドセルを望んでいた両親の反対を押し切り、ランドセルは黒を買い、その日のうちに髪をバッサリと切り、今まで着ていた可愛い服も全て捨て、新しく男物の服を買ってもらった。
けれど今までずっと女の子の格好で幼稚園に通っていたため、これからどうやって過ごそうかと幼いながらも考えていると、丁度よく父親の転勤が決まった。

ランドセルを買いに行ったのは冬休みの時期で、冬休みが明けた頃にはもう地元にさよならを告げ、俺達一家は引っ越しをした。
引っ越し先では俺は普通に男として生活し、それなりに友達も出来た。
だけどふと頭にかすめるのは、初恋の相手でもあり、結婚の約束までした謙くんの存在。
何も言わずに引っ越し、結果的には謙くんを騙していたことが、年を重ねても忘れられず、ずっと俺の中で引っかかっていた。




高校生間近の時、父さんの本社への転勤が決まり、俺達は昔住んでいた場所へまた戻ってきた。
昔と変わらない懐かしい風景に、謙くんは今頃どうしているだろうと、幼稚園の頃の友達である謙くんを思い出した。
でもきっと今会ても謙くんが謙くんだって俺はわかんないだろうなと考え、いつかまた会えたらいいなと俺はそう思った。



鏡の前に映るのは黒髪に制服を着た、どこからどう見ても男の自分。
昔は子ども特有の愛らしさや可愛さはあったが、成長した今は、ただの男で、可愛らしさのカケラもなくなった。
だけど今だに両親や祖父母は俺の事を『可愛い、可愛い』と言い続け、重度の溺愛具合にこっちが恥ずかしくてたまらない。





「昨日のドラマ超展開すぎて、俺着いていけなかったわ」
「俺も俺も」
「だよな。突然嫌われていたと思ってたやつに実は好かれてたなんて……」
友達等の会話に耳を傾けながらボーッと携帯を見ていると、教室の扉が開かれる音と同時に、突然教室が騒がしくなった。
俺の視線も自然と携帯の画面から離れ、教室の扉へと移った。

「謙くんおはよぉ」
「おはよー」
「はよう、謙。昨日の宿題やった?」
「え?出てたっけ?…やっべ、やってないや」
友達等の会話も一旦止まったが、次の瞬間には

「今日も西脇可愛いな」
「まるで天使だ。美少年ってあーいう奴のことを言うんだろうな」と昨日のドラマの話から謙くんの話へと話題が変わった。


俺は再び謙くんと出会えた。
昔から顔立ちが整っていた謙くんは、今じゃ成長し、ムサさとは無縁な、可愛い整った顔立ちの美少年へと変身していた。
昔は俺よりも断然大きかった身長も、今は170cmいってるかどうかで、たぶん俺より5cm以上は謙くんの方が小さい。

入学式で謙くんを見た瞬間、俺は謙くんがあの謙くんだと気付いた。
昔の謙くんがそのまま成長し、面影もだいぶ残っていたので直ぐにわかってしまった。
だけど俺はというと、昔は女の子の格好をしていて、今とは全く違う。
せっかく謙くんと同じクラスなのに謙くんに話しかけられないし、多分謙くんの方も俺が幼稚園の時の『千明ちゃん』だとわかっていないはず。
わかったとしても、変態女装野郎だと謙くんに思われでもしたら、傷付くってもんじゃない。
なのでこのままずっとバレない事を祈っている。



ボーッと教室に入ってきた謙くんを俺は見つめる。
宿題をやり忘れた謙くんは友達にからかわれつつ、標準より低い位置にある謙くんの頭を撫でられていた。
その姿を見ていた他の生徒達は口々に「可愛いー」と囁き、謙くんの頭を撫でている友達を羨ましがった。

皆は口を揃えて謙くんの事を可愛いと言う。
確かに謙くんは可愛いが、やはり昔と同じで、今でも謙くんはカッコイイなとも俺は思う。
女の子が重い物を持っていたら率先して手伝うし、皆が嫌だなと思うことには自分から立候補するし、勉強はあんまりだけど運動神経抜群だし、謙くんはカッコイイ。


俺は再び携帯の画面へと視線を戻し、新しくインストールしたアプリゲームの続きをした。

皆も謙くんの可愛さだけじゃなく、カッコ良さにも気付けばいいのに。
…ああでも、可愛い謙くんのカッコ良さを、俺だけしか知らないというのは、少し優越感だな。







補足

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