短編2 | ナノ


▼ 僕は透明人間

僕には幼馴染がいる。
僕と同い年で、斜向かいの家に住む、観月(みづき)という男の子。
観月は明るい性格で、いつも彼の周りにはたくさんの人で溢れていた。
少し強引なところはあるが、愛嬌のある観月に周りは決して嫌な顔はせず、むしろ観月は色んな人から好かれていた。

そんな観月と幼馴染の僕は、昔からよく一緒に遊んでいた。といってもインドアの僕を無理矢理観月が外へ連れ出していただけの話。
僕自身、できれば家の中で遊びたいのに『穂果(ほのか)!外へ遊びに行こう』と腕を力いっぱい引っ張られるので、渋々ながら僕は観月について行くほかない。
そして公園で会った学校の友達も入れて、みんなでかくれんぼや鬼ごっこをして遊ぶ。
だけど僕はかくれんぼも鬼ごっこも捕まることはなかった。
周りから仲間外れにされているというわけではなく、ただ単に僕のオーラや存在感は人より薄く、忘れられることがほとんどだった。
誘った本人の観月ですら、僕の存在を忘れて何処かへ行ってしまう。
けれど僕はそれを『嫌だ。寂しい』なんて思ったことはなく、むしろこれ幸いに帰り、本を読んだりゲームをして遊んだ。

僕と観月はどう考えてもタイプが違う。
だから幼いながらもぼんやりと『もう少し大きくなったら、僕はきっと観月と一緒に居なくなくなるだろうな』と、そう思っていた。
だけどどういうことか、同じ地域に住む僕達が中学まで一緒なのは当たり前だが、次の段階である高校までも、またしても僕は観月と共に過ごしていた。






僕達が通うことになった高校は、『ここは本当に日本なのか』と思うほど豪華な造りで、もはや学校とは言えない校舎や敷地内に、正直口をあんぐりと開けてしまった。
しかしそれは最初だけで、驚きイベント多発により、徐々に感覚は鈍り始め、1週間も経てば、それがさも当たり前のように感じ始めた。
そして観月はというと、持ち前の強引さや明るさを高校でも存分に披露し、全寮制男子校という男しか居ない特殊な環境や、元々可愛い顔立ちをしていたのもあって、観月はそれはもう、とてつもなく男にモテた。
けれど観月本人は、自分がモテていることに気付いていない。
そして高校でも相変わらず僕を強引に外へ連れ出しては、僕のオーラや存在感の薄さに途中で僕のことを忘れる日々は続いていた。

現在も無理矢理晩御飯を食べに寮内にある学食へと観月に連れて来られたが、観月に惚れている学園の人気者達を見つけた瞬間、観月はそいつらを自分のテーブルへと招いた。
同じクラスの爽やか君や男前君、生徒会の面々、風紀委員長などなど、学園の人気者達を観月は無意識に1箇所にギュッと集めているので、学食にいる生徒達のほとんどの視線が彼等に注がれている。

そして最初は観月と向かい合わせに座っていた僕は、3つ隣のテーブルへとさりげなく移り、さぬきうどんを食べていた。



『食べ終わって部屋に帰ったら何しようか』とそんなことを考え、思考を数十分後へ飛ばしていると、
「仕事ほっぽり出して何処へ行ったかと思えば、揃いも揃ってこんな所に居たんですか!」という声が聞こえてきた。

チラッと声のする方を見てみると、仁王立ちした、眼鏡をかけたイケメンがそこにはいた。

イケメンさんの登場に人気者達は動揺を露わにし、次々に言い訳を口にするが、イケメンさんは怒っているらしく、若干顔が怖い。
そして静かだった観月は、周りの状況を読み
「まぁまぁ兄ちゃん、みんなも明日やるって言ってるし、大目に見てよ」とイケメンさんを宥めた。
その瞬間突如現れたイケメンさんに注がれていた視線は全て観月へと戻り、大絶叫が学食に響き渡った。

「え?兄ちゃん?え?え?」と皆が驚く中、
「あれ?俺言わなかったけ?兄ちゃんがこの学校に居るって」
「言いましたよね?私の弟がこの学校に入ると」

眼鏡イケメンさんもとい、観月の兄である陽介(ようすけ)さんは人気者達の顔を一通り見回した後、深いため息をつき
「明日は朝から来てください。それなら今日はもう仕事は終わりでいいです」と言って、観月や人気者達に背を向けた。

通りすぎる陽介さんを温かいお茶を飲みながら見ていると、僕の目の前で足をピタリと止め、さっきまでのが嘘のように「穂果くん、久しぶりですね」と陽介さんは笑った。
今まで誰にも話しかけられなかった身として少しビックリしつつも、この学校に来て、僕は初めて笑った。

「見つかっちゃいましたね」
「見つけちゃいました」



僕には幼馴染がいる。
僕より2つ年上で、斜向かいの家に住む、陽介さんという男の人。
陽介さんは真面目な性格で、読書好きな彼の周りには、たくさんの本で溢れている。
人を気遣える優しい人。
そんな陽介さんは、オーラや存在感の薄い僕を必ず見つけ、一緒に遊んでくれた。







補足

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