短編2 | ナノ


▼ 可愛い→イケメン×健気

「たっくん、かえろー」
「うん!」
仲良く手を繋いで家に帰るのが僕達の日常で、小さい頃からずっと僕はたっくん…拓馬(たくま)と一緒にいた。
家が隣同士で、その上同い年。
仲良くならない訳がなく、物心着いた頃には既に、隣にはニコニコと笑う拓馬がいた。

小さい頃には拓馬と『おとなになっても、ずっといっしょにいようね』と約束した。
けれど母さんからは『頑張れば一緒にいられるけど、大人は忙しいから、時間を合わせたりするのは結構難しいのよ』と言われ、
『じゃあたっくんとけっこんする!それならたっくんとずっといっしょにいられる!!!』と言って、母さんや拓馬のお母さんに笑われた。
だけど拓馬だけは『それならずっといっしょにいられるね』と喜んでくれた。

あの時の約束を拓馬は覚えているかわからないが、それでも僕達は年を重ねてもずっと一緒にいた。






「花井(はない)くん、…ずっと前から好きでした。その…付き合ってください!!!」
声を絞り出して頭を下げる女の子に、僕は一言「ごめん」と告げた。

歳を重ねた僕はさらに拓馬を好きなってしまった。
どこがと言われると困るが、それでも昔の約束をいまだに覚えているほど、僕は拓馬のことが好きで好きでたまらなかった。

校門に寄りかかり僕を待つ拓馬に近づき、「お待たせ」と言うと、「おう」と言って拓馬は歩き始めた。
隣で歩く拓馬の横顔をバレないようにチラッとうかがい、僕は少し顔を綻ばせた。


自分で言うのあれだが、僕の顔は男にしては可愛いらしく、よく告白をされる。
基本的には女の子からの告白が多いが、たまに男に告白されることもあった。
だけど僕は昔から拓馬の事が好きで、拓馬以外の誰かと付き合おうという気持ちにはなれず、どの告白も断りの言葉を告げた。
けれどそんな僕とは反対に、僕以上にモテる拓馬は、告白してきた人にはいつもokを出していた。
『勇気を出して告白をしてくれたのに、断れるわけない』
そう言って誰彼構わず付き合いだす。

流石に誰かと付き合っている間に告白された時は付き合わないが、それでも振った子には『好きになってくれてありがとう。』と言っているらしい。
真面目な拓馬のその優しさに僕はいつもイライラさせられ、告白する勇気すら僕には無いのに、素直に拓馬に想いを告げれる子達に僕は嫉妬してしまう。

僕としては嬉しいことだが、拓馬はどんな子と付き合っても、2週間しか保たなかった。
拓馬は優しいが消極的で、小さい頃から僕がいつも拓馬の手を引っ張ってきた。
そんな消極的な拓馬に、付き合った女の子達は『つまらない』と言って別れてしまう。

誰かと付き合ってもすぐに別れ、再び拓馬の隣を僕が歩けるなら、僕の想いを一生拓馬に告げなくてもいいかなと、そんな甘い考えを僕は持っていた。






別のクラスである拓馬から昼頃に「先帰ってて」という連絡をもらった僕は
『また告白か…。確か今は付き合っている人いないし、多分その人と付き合うんだろな…』と少し感傷的になりながらも、そのあとの授業を受け、トボトボといつもの帰り道を1人で歩いて帰った。


外が暗くなり始めた頃、母さんに「煮物作り過ぎて余っちゃったから、拓馬くんの家に届けに行ってちょうだい」と言われ、いつもなら喜んで行く僕だったが、告白されただろう今はあまり行きたくなかった。
けれど母さんは僕の事情なんて何のそので、煮物が入った皿を無理矢理持たせ、家から追い出した。
思わずため息をつきながらも隣の家へ向かい、いつものようにインターホンも押さずに中へ入ると、パタパタとスリッパの音をたてながら、拓馬のお母さんがやってきた。
僕を見た瞬間ニッコリと笑い、「どうしたの?」と聞いてきた拓馬のお母さんに、手に持っていた煮物を渡すと、「助かるわ」と言って、とても喜んでくれた。

一応帰る前に拓馬に挨拶しておこうと上へと上がると、ベッドの上でボーッとしている拓馬がいた。

「?拓馬?何してんの?」
「え?あっ…愛斗(まなと)?いつからいたの?」
「数十秒前から」
「そうなんだ」
見るからに様子がおかしい拓馬に首を傾げ、「何があったんだよ」と聞くと、拓馬は僕と視線を合わせ、ゆっくりと喋り始めた。

「今日さ、放課後告白されたんだ。だけどその告白してきた相手が、その…男…でさ。…付き合うことにはしたけど、どうすればいいのかなって…」
目の前が真っ暗になり、拓馬の言葉が上手く耳に入ってこない。
だけど何か言わなくてはと、必死に僕は声を絞り出した。

「…冗談だよな?だって男って…」
「男から告白されるのなんて初めてだったし、初めは何かの間違いかと思ったんだけど、…告白してる時、今にも泣きそうで、すごい震えてたんだよね。だから本気なんだなって…」
「…はぁ?なんだそれ?」
その時の光景を思い出すかのように喋る拓馬に、僕は言いようもないイライラを感じた。

「…ふーん、まぁ拓馬が良いなら良いんじゃない?それに男と付き合うのなんて、友達と遊ぶ時と同じ様に接してればいいと思うし」
投げやりの僕の言葉に、拓馬は顔をパーッと明るくさせ「そうだよな」と笑顔になった。
このままここにいると、僕は拓馬に何か酷いことを言ってしまいそうで、早くここから去ろうと「じゃあ」と言うと、
「おう、ありがとな。…だけど、もし男と付き合うなら愛斗とがよかったかも」という拓馬の言葉に、少しテンポを遅らせながらも「バーカ」と返して部屋から去った。

嬉しようで切ないその言葉に、僕は家に帰ってから泣いた。
僕が自分の気持ちを正直に伝えていたら、優しい拓馬は、今回みたいに嫌悪せず、ただただ男と付き合う上でどうすればいいのかと、真剣に悩んでくれたのかもしれない。
そう思うと自分の勇気の無さに、いつまで経っても涙は止まってくれなかった。






おかしい…拓馬がいつも通りすぎる…

拓馬から『男と付き合いだした』と聞いてから既に2週間は経ったが、拓馬から何も話を聞かない上に、毎日僕は拓馬と行き帰りを共にし、休みの日も一緒に遊んでいる。
前の恋人達と付き合っている間は行き帰りは1人で、休みの日も拓馬が恋人とデートに行ってしまうので、僕は1人で過ごしていたというのに…
本当に拓馬は今誰かと付き合っているのかと疑問に思うほど、全く恋人の影が無い。

「ねぇ、拓馬。最近恋人とどう?」
漫画に落としていた視線を上げ、拓馬は僕に目を向けた。

「うーん?普通?」
「何それ?」
「学校では毎日会ってるし、メールも少しはしてるけど…?」
「それって付き合ってるって言うの?2人で出掛けたり、行き帰りも一緒に行ったりとか、前の恋人とはそういうことしてたじゃん」
「だなぁ……。ってか、それが恋人とすることなら、愛斗は恋人の条件にハマってるな。いつの間に俺達は恋人同士になった訳?」
「…茶化すなよ」
僕にとって嬉しすぎる茶化しに心の中ではモヤっとしたが、その気持ちを肘鉄に込めると、拓馬はおかしそうに笑い、僕も少しだけ、つられて笑ってしまった。

「まぁ明日休みだし、遊びにでも誘ってみたら?」
「おう、そうしてみる」
視線を漫画に戻す拓馬に、僕達の会話は自然と終了した。





今思えば最初の時点で狂ってたんだなと今更僕は気付いた。

男と付き合うということを抜かしても、あの拓馬が恋人と2週間も保つなんて…

僕が気分を良くして言った助言に、拓馬はさっそく休みの日に恋人と遊びに行った。
そしてその日から拓馬は、目に見えて変わってしまった。

初めは僕と一緒に帰るペースが徐々に減り、2週間経った今では僕と一緒に帰ることがなくなった。
恋人が出来てからも休みの日は一緒に過ごしていたが、全て恋人とのデートで出掛けてしまうようになった。
そして一番変わってしまったのが…
『聡(さとる)ってば、すごい可愛いんだ』と惚気るようになった。

拓馬は初めて、人を好きになってしまっていた…






補足

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