短編2 | ナノ


▼ 幼馴染み風紀委員長×腐男子平凡

もうすぐで冬になるという時期。
その日は秋にしてはとても寒く、手を外に出すことすらためらわれるような日、俺は幼なじみの今すぐにでも泣き出しそうな顔を初めて見た。

俺からも世間からもカッコイイと言われる顔に、凛とした佇まい。
あまり口数は多くなく、けれど幼馴染みの俺には自分からたくさん喋りかける、内側に入れればとても人懐っこいやつ。

幼馴染みである有明柊生(ありあけしゅうせい)は、出ている鼻が真っ赤になるほどの寒空の下、泣き出しそうな声で『お前が好きだ』と言った。







「穂高(ほだか)さー、最近機嫌悪いよな…なんかあった?」
ストローをガジガジと齧りながら目の前にいる高瀬(たかせ)に目を向けた。

「あ"?…あぁ。ちょっとな…」
「平凡顔が、今は超悪人面だぞ…。マジで、何があ「「「きゃーー!!!!!」」」…会長か?」
大きな声に、学食の出入り口を見ると、高瀬の予想通り会長はいたが、それだけでなく、他の生徒会の面々や、数週間前に転入してきた転校生もいた。
そいつらを睨みながら俺はズズズーッと残りのオレンジジュースを吸い上げた。

「おいおい…さらにやべぇ顔だな」
「……今までスゲー好きで、この日を昔から俺は夢見てきたんだが、実際は最悪以外の何物でもねぇな…」
「は?意味わかんねーんだけど?」
「あ?…あぁ、すまん。……俺、今日はもう部屋に帰るわ。じゃあな。また明日」
「?おう…また明日」


キッカケは何だったか…あぁ思い出した。
大好きな漫画を買ったつもりが、それは同人誌と言うもので、
しかも俺の当時の憧れだった漫画の主人公が、敵キャラに甘い言葉を言われ、メロメロになっている漫画を間違えて買ってしまったのがキッカケだったな。
それは確か小学生の時の事で、その事がキッカケで俺は『BL』と言うジャンルに興味を持ち、腐れ男子になってしまった。
この学校に入るまでは日々、家族や知り合いにバレないよう気を張りながら生活し、今まで漫画や小説を中心としていた腐活動も、気付けばネットにまでその触手は広がっていた。
そして俺はBLの中でも特に王道というものが好きで、いつかこの目で実際に見てみたいと、そう夢にまで見てきた。
だが全寮制男子校へ入り、二次元だけだと思っていた王道を、俺は実際にこの目で見ることができた。

俺様会長、腹黒副会長、チャラ男会計、ワンコ書記、双子雑務。
そして時期外れの転校生。
完璧すぎる役者に最初は思わず感嘆の声を上げ、俺は喜んだ。
しかしこの学校にやってきた王道は、王道は王道でも、アンチの方の王道だった。







だだっ広い寮部屋で、俺は1人小さく丸くなる。

「暇だ…」
呟きはそのまま空気中で消え、何処か悲しさを覚えた。

もう何日も会っていない。
そのせいで俺はここのところ毎日イライラし、周りにも八つ当たりしてしまう始末。
色々ああだこうだ考えては結局行動に移せずうじうじしている自分に、そろそろ嫌気も差しはじめ、『よし』という掛け声と同時に、俺はやっと立ち上がった。


扉を目の前にして入るか入らぬかで躊躇していると、答えが出る前に、目の前の扉が内側から開かれた。

「あっ、穂高さんこんにちは。委員長なら今中で仕事片付けてますよ」
「おう。ありがとな」
それじゃあと言って出て行く後輩を見送り、扉が開けられたままの部屋へと覚悟を決めて一歩入ると、思っていたより書類は少なく、明るい空気が流れていた。
ゆっくりと中へと進んで行き、奥まで行くと、真剣に机に向かって書類を片付ける、幼馴染みの姿があった。

勉強や本を読む時同様、書類を片付けている時も眼鏡をかけ、正直その姿にカッコイイなとボーッと見惚れてしまう。
しかし幼馴染みがふと顔を上げたことで、俺達の視線は交じり合った。

一瞬驚いた顔をした幼馴染みは直ぐにいつもの涼しい顔をし、かけていた眼鏡を外した。

「久しぶりだな。いつから居たんだ?」
「柊生が顔上げる数十秒前」
来い来いと右手で手招きをする柊生に、俺は大人しく近付いていく。
腰を上げ、両手を広げて俺を待ち構える柊生の胸に抱き着くと、今までのイライラがスーッと抜けて行くのが、自分でもわかった。

「俺がいなくてよっぽど寂しかったみたいだな」
「…」
「俺もお前が近くに居ないだけで、胸が張り裂けるような思いだった。…だけどもう、俺はお前を離さない。いや…離せない……」
バッと柊生の胸から離れ、柊生の顔を見上げた。

何処か誇らしげに俺を見つめる柊生に、徐々に俺の顔は赤くなっていった。

「お前!!!!!俺のBL漫画見たな!!!!!しかもそれ、2日前に買ったばっかの漫画の台詞じゃん!!!」
「昨日一旦部屋に戻った時、テーブルの上に置いてあったから、勉強しておいた」
「勉強しなくていい!ってか見んなよ」
少しぶー垂れた顔をする柊生はポツリと「穂高の好きな物を俺も少しでも知っておきたい」と言い、その言葉に思わずはぁーっとため息をつきたくなった。

「お前が部屋に帰ってきてくれたなら、一目顔を見せてくれるか、置き手紙でもしてくれた方が嬉しかったよ」
柊生は見るからにしょんぼりと、落ち込んだ顔をする。
「だけど…」とそう俺が口にすると、反射的に柊生は顔を上げ、バッチリと目が合った。

「柊生が俺の好きな物を知ろうとしてくれて、すごく嬉しいよ。ありがとう」
途端にさっきまでの表情が嘘のように溶け、柊生は「ああ」と優しい微笑みを浮かべた。







多分風紀副委員長の席だろうイスに座り、書類を片付ける柊生を見つめる。

「仕事終わりそう?」
「いや…多分この調子だと、あと3日はかかる。」
「マジか…」
柊生の言葉に思わずガッカリしていると、「だけど穂高が助言してくれてなきゃ、もっと忙しかっただろうし、多分無理もしてた。本当にありがとう」と感謝された。

「ならよかった。…それより、生徒会はどうすんの?」
「…一応リコール材料は全部揃えた」
「…けど、リコールはしないんだ?」
「ああ」
柊生は昔からそういう奴だった。
優しいというのもそうだが、人を見極めるのが上手かった。
その柊生が見離さないってことは、生徒会の奴等には更生の余地があるということ。

「お前がそれでいいならいいよ」
「迷惑かけて悪いな」
「いいや、迷惑なんてかかってないって。…ただ、あの広い部屋で一人なのは少し寂しいかなと…」
「寂しい思いをさせてすまん。…なるべく早く帰る」
久しぶりに柊生の顔を見れたし、3日は長いように思えたが、先が見えたことで、俺自身にも少し余裕が出てきた。

「じゃあ、もう帰るわ。無理すんなよ。あと、なんかして欲しいことあったら遠慮せずに言えよ?」
「悪いな…。それより今日は何か用事があって此処にきたんじゃないのか?」
「え?いや?ただ柊生の顔を見にきただけだけど?」
そう言うと、途端に柊生は「そうか」と嬉しそうに微笑んだ。






寒空の下、泣き出しそうな声で告白してきた幼馴染みの冷たい頬っぺを俺は触り、『泣くなバカ。俺がお前のそばにずっと居てやるから』と返してやった。







補足

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