短編2 | ナノ


▼ イケメン×平凡

「あっ…」
バチリと合った目に驚きの言葉をあげながらも、次の瞬間にはニコリと笑いかけると、相手もニコリと笑い返してくれた。





最近僕は、高確率で同じクラスの南(みなみ)くんと目が合うようになった。
学校で1.2を争うぐらいイケメンの南くんは、いつも皆の注目の的で、色んな人に声をかけられている姿をよく見かける。
だけど南くんはそれにどれも嫌な顔1つせず、なんでも丁寧に答えてくれるその優しさに、さらに南くんのファンを増やしていっているらしい。

そんな南くんに見つめられ、正直僕の心臓はドキドキと激しく活動し、自惚れて『もしかして…』と自分の良いように想像が膨らんでしまう始末。



「高津(たかつ)くん…、どうやら僕は、ホモになってしまったらしいです」
「……突然何を言っているんだい?平良(たいら)くん」
後ろを振り向き、後ろの席に座る高津に告げると、怪訝な目で見つめられた。

あたりを見渡し、南くんがこちらを見ていないのを確認してから、高津にグッと近付き、小声で『実は…』と僕は話出した。

「南くんっているじゃん?最近南くんとよく目が合うんだよ…。っで、こんなにも見つめられて、『もしかして僕、南くんに好かれてるのかな?』って考えているうちに、南くんの事好きになっちゃった」
話が終わり高津を見ると『まじかー』と言いたげな驚いた顔をしていたが、それは直ぐに戻り、「まっ、いいんじゃね?」と軽い口調で言われた。

「だけど目が合っただけで好かれているかもって、自意識過剰も甚だしいな…」
「うるさい。僕だってわかってるけど、こうも目が合うと『もしかして』って思っちゃうんだよ!
…今だって、多分南くんの方を見たら、目が合う自信あるよ?」
高津に向けていた視線を外し、南くんが先ほどいた方へと視線を向けると、案の定バチリと目が合った。
そして毎度お馴染みの笑みを浮かべ、また高津へと視線を戻した。

「な?」
「…確かに見てるな」
ふふんと偉そうに胸を張ると、「だけどまず男とか女とか省いても、平良みたいな平凡を普通、好きになるか?」と聞かれ、痛いところを突かれたとしょんぼりした。

「…それは僕が一番わかってるよ」
「男相手だとしても、俺が南に好かれてるんだったらわかるんだけどな…」
「は?お前イケメンだからって言っていいことと悪いことあるぞ。
そして今のは完全に僕に喧嘩売った!!!許さない」
僕の友達でもあり、頬杖を付いて早々に興味なさ気に僕の話を聞く高津こそが、この学校で南くんと1.2を争うイケメンでもあった。

確かに…確かに高津と南くんなら絵になるだろう。
だけどそういうことではないだろう。
僕は『もしかしたら南くんに好かれてるかも!?ドキッ…そして僕も南くんのことが好き。じゃあこれって両想い?』という相談をしているんであって、高津がイケメンで、その高津の方が南くんに好かれていてもおかしくないとかそういう話は全くしていないし、関係ない。

「イケメンだからって調子乗らないでくれる?僕だって僕の良さがちゃんとあるって自負してるから。
…多分、そこに南くんは気付いてくれて、僕に惚れたんだよ」
「は?なんだそれ…、じゃあその良さってやつ言ってみろよ」
「あ?僕の良さ知っても絶対に惚れないでよ?僕には南くんがいるんだから」
喧嘩腰だった言い合いもいつの間にかじゃれあいへと変わり、最初の目的も忘れ、気が付けばデコピン勝負に発展している僕達の姿を、南くんがずっと見ていたことを、僕達は全く気付いていなかった。









「突然こんなこと言ってごめんね…嫌、だったかな?」
まさかの急展開に僕も驚くしかなかった。


高津とじゃれあっている途中で授業の予鈴が鳴り、「トイレ行ってくるわ」と席から立ち上がった高津を見送ったあと、暇なのでポチポチとケータイを弄っていると、目の前に影ができた。
『もう高津帰ってきたのか…早いな』と顔を上げると、目の前には何故か南くんが立っていた。
『なんで南くんが?』と驚いているうちに、「これ」と言い、小さい紙切れを渡された。
ゆっくりと紙切れを広げ、その内容を見てみると、『放課後教室に残っていて』とだけ書かれており、驚いて顔を上げると、もう既にそこには南くんは居なかった。




トイレから帰ってきた高津に「どうしたんだよ」と聞かれるぐらい僕は挙動不審で、再び怪訝な目で高津に見られた。
だけどそこは「なんでもないよ…あっ、今日は先帰っていいから」となんでもない振りをして誤魔化し、今日は一緒に帰れない事を高津に告げた。

放課後になり、早々に帰る高津を窓から見送って、徐々に人が減るたび僕はドキドキと胸を高鳴らせた。
『とうとう僕は人生で初めて告白されるのか。やっぱり南くんは僕の事を…』とこのあとの展開に、少し期待に胸を膨らませた。

そしてガラガラと開く扉の音にそちらへと振り向くと、南くんが緊張した面持ちで教室に入ってきた。

「わざわざ残ってくれて、ありがとう。その、平良くんに話したい…いや、聞きたいことがあるんだ」
「なっ、何かな?(告白だ…絶対告白だ)」
知らない振りをしながらも、僕は何処か緊張した面持ちで喋る南くんに、告白されることを確信した。

教室に入ってからずっと伏し目がちだった南くんの目は僕に向き、覚悟を決めたのか、南くんは少し大きな声で喋り始めた。



「平良くんって、高津くんと付き合ってるの?その…付き合ってるなら是非、少しだけでもいいから話を聞かせてくれないかな?」
「……え?」
「突然こんなこと言ってごめんね…嫌、だったかな?」
てっきり告白されるんだと身構えていた分、予想とは違う答えに、思わずズッコケそうになった。
そして聞き間違いでなければ、僕と高津が付き合っているかどうか聞かれた?南くんに?何故?
ってか告白じゃないの?

「いや、謝ることじゃないよ。…あの、僕と高津が付き合ってるかどうかって今、南くんは聞いたよね?」
「うん。僕その…腐男子ってやつで、男同士の恋愛が大好きなんだ。
その中でも特にイケメン×平凡が大好きで、平良くんと高津くんは本当に僕の理想通りのイケメン×平凡なんだ。
それでいつも君達2人を見ているうちに、2人が付き合ってるって事に、気付いちゃったんだ」
南くんのいうイケメン×平凡?ってやつのイケメンは、きっと高津のことなんだろう。
ってことは平凡って僕の事?
た、確かに僕は平凡だけど…

「興奮している南くんには申し訳ないんだけど、僕と高津は付き合ってないよ。」
「え……」
一気に悲しそうな表情をする南くんに、こちらは何も悪いことをしていないのに、何か悪いことをした気分になる。

「いやでも…今日だってあんなに仲良く…」
「友達同士だし、あんぐらい普通じゃない?」
まさに『絶望』と見てわかるような落ち込んだ顔に、とっさに「で、でも僕の好きな人は男で、しかもイケメンだよ」と告げると、南くんの顔は一気にパァーッと明るくなった。

「誰かな?その…よかったら教えてくれない?僕、平良くんの事全力で応援するよ!!!!」
爽やかな嬉しそうな微笑みに『僕の好きな人はあなたです』と言ってもいいのかと迷う。
ここで僕が告白して成功する確率がどう考えても低く、ついさっきまで『南くんと付き合えるかも!!!!』と期待していた僕の自信は、今は底辺へと達した。

「えーっとそのー…」
「誰?誰?」
期待しているキラキラした目に、南くんに惚れている僕は敵わず、『腐男子?らしい南くんが少しでも喜んでくれればいいな…』と覚悟を決めた。
はぁと深いため息をつき、『聞いて後悔しないでね』と言ってから、南くんの耳に手を当て、小声で僕の好きな人を告げた。


「南くん…君です…」
バッと目を見開いてこちらを見る南くんに、さっきまで底辺だった自信がまた少し湧いてきた。

驚いた顔をする南くんの顔は、夕陽とは関係なく、確かに真っ赤に染まっていた。








補足

prev / next

[ back to top ]



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -