短編2 | ナノ


▼ 年下×年上

突然ですが、自称僕の恋人である吉野雅己(よしのまさみ)くんが、子どもになってしまいました。

「…吉野くん?」
「??」
不思議そうに大きな目を真ん丸くし、ジッと僕を見つめる吉野くん。
僕の頭の中は、一瞬で戸惑いや疑問でいっぱいになった。





1つ年下の吉野くんはまるで嵐のような人だった。
突然僕の前に現れ、『お前の事をずっと探した』と言い、何故かその日から僕は、吉野くんの恋人になっていた。
まず僕は吉野くんに告白をされていないし、それを了承した覚えもない。
だけど勝手に進んでいる関係に僕は流されるまま、吉野くんとの日々を過ごしていた。

だが久しぶりのデート?の日、いつも僕より先に待ち合わせ場所にいる吉野くんが、その場にはいなかった。
時間になってもなかなか吉野くんは現れず、不思議に思った僕は何度かメールや電話をしてみたが、どちらも返事は返って来なかった。
もしかしたら吉野くんの身に何かあったんじゃないかと僕は心配になり、記憶を頼りに、前に1度だけ行ったことのある吉野くんの家へと行ってみると、吉野くんの家から出てきたのは、3歳か4歳ぐらいの男の子だった。

『吉野くんの弟かな?』と一瞬頭によぎったが、吉野くんは上にお姉ちゃんが2人いる末っ子だという事を思い出し、それは無いなとその予想を否定した。
『それじゃあ一体?』と思いつつ、男の子に吉野くんが居ないかを聞いてみると、「ぼくが、よしのだよ」と返された。

「えーっと、雅己くんはいるかな?」
「??まさみは、ぼくだよ?」
「…えっ?!」
言われて見れば、こちらを不思議そうに見つめる男の子は何処と無く吉野くんの面影があり、その男の子の言うことを信じざるを得なかった。






僕を不審者だと思っているのか、不安そうにこちらを見つめる雅己くんに
「初めまして。僕は木笠恭介(きかさきょうすけ)って言います。」と自己紹介をすると、

「ぼくは、よしのまさみです!3さいです!!!」とパーッと笑顔になり、元気良く、そして何故か2本しか立てられていない指付きで自己紹介してくれた。

僕は思わず両手を口元に当て、悶え苦しんだ。

な、なんて可愛い生き物なんだ…!!
名前を教えた途端警戒心がなくなり見せてくれた純粋な笑顔。子ども独特の舌足らずな言葉遣い。
そして何も疑うことも無く僕に見せ付けた2本の指。
いつも嫌味しか言わない生意気な吉野くんとは違い、雅己くんは全てが僕の心を擽るぐらいとても可愛かった。

口を開けば『遅い』『のろま』『グズ』と僕の方が年上なのに罵られ、
僕も反射的に、吉野くんの方が年下なのに思わず敬語を使ってしまっている。
けれど目の前にいる雅己くんは、本当にあの吉野くんの子ども時代なのかと疑うほど、素直で可愛くてたまらない。

思考を遠くの方へと飛ばしていると、服の裾をクイックイッ引っ張られ、視線を落としてみると、雅己くんは眉毛をハの字にして、僕を見上げていた。

「どうしたの?」
「あのね、いまね、ねぇねもね、ママもね、いないからね、ひとりでね、あそんでたの。」と寂しそうな声で語る雅己くんに僕は胸を打たれ、
「じゃあみんなが帰ってくるまで、僕と遊ぼうか」と返すと、その瞬間嬉しそうに『ほんとぉ?やったー』と言って、僕の服の裾を引っ張り、家の中へと招き入れた。
一応『失礼します』と言い、お家の中へ入ると、雅己くんはリビングへ行き、僕をソファーへと座らせた。
そして僕に背中を向け、ちょこんと僕の膝の上に雅己くんが座った。

「雅己くん?」
「なぁに?きょーすけ」
膝の上に座ったまま顔だけを上に向け、僕を見つめる雅己くんの仕草に、ズキュンと僕の胸に矢が刺さった。
思わず膝の上に乗っている雅己くんの身体を囲うようにギュッと抱き締めると『きゃはは』と楽しそうに、無邪気に雅己くんは笑い出した。
温かい子どもの体温に、僕の顔は、無意識に緩んだ。





どうして吉野くんが突然小さくなってしまったのか、それは僕にもわからないが、テーブルの上に『今日は皆帰って来れません』という置き手紙で、今日1日雅己くんが家に1人きりだという事を知った。
これなら吉野くんが突然小さくなってしまったことはバレないで済むが、まだ小さい雅己くんを誰もいない家に1人きりに出来るわけもなく、家族に『友達の家に泊まる』と連絡をし、今日は吉野くんの家に泊まることにした。


「雅己くんは食べ物、何が好き?」
一緒にお絵描きや戦隊ごっこなどして遊び、お昼ご飯は勝手に吉野くんの家にあったパスタで適当に作らせてもらったが、流石に晩御飯の材料までいただくのは失礼かなと思い、雅己くんを連れて、スーパーへと食材を買いに来た。

「オムライス!!!」
『はーい』と手を上げながら声を張り上げる雅己くんの頭を撫で、離れ離れにならないよう手を繋ぎながらお肉や卵など、オムライスに必要な材料を探してカゴの中へと入れる。
材料も一通り揃い、レジへと向かおうとしていると、雅己くんがピタリと足を止めた。

「どうしたの?」
「きょーすけ…」
雅己くんは視線だけはこちらに向け、人差し指はあるコーナーを指していた。
その指を追った先を見た僕は内心『ふふふ』と笑い、雅己くんと視線を合わせるためしゃがんだ。

「2個までならいいよ」
僕がそう言うとニコッと笑った雅己くんはトコトコとお菓子コーナーへと走って行った。

『うーんうーん』と真剣に悩む雅己くんを見て、ずっとこのままだったらいいのになとそんな事を考えてしまった。
吉野くんは、顔はカッコいいが、性格に色々と問題がある。
けれど今の純粋で可愛い雅己くんを僕がちゃんと育てられれば、きっと将来はカッコ良く、性格も良い完璧な大人になるだろう。

『これにする!!!』と言って持ってきたお菓子をカゴに入れ、会計を済ませ、吉野くんの家へと僕達は戻った。



食事を作ってる時も、食べてる時も、雅己くんとお風呂に入ってる時も、寝かしつける時も、何故か僕の頭の片隅には吉野くんがいた。

僕より年下なのに少し生意気で、怖いなとよく思うが、正直僕は吉野くんの事は嫌いではなかった。
むしろ結構好きだと思う。
最初の出だしは変だったし、いつも僕を罵ったりもするが、なんだかんだで吉野くんは割と優しい人だった。
待ち合わせ場所には15分程早く来るし、『遅い』『のろま』と僕を罵りながらも、僕の歩調に合わせてくれる。
そういうところは意外と好きだなと、最近の僕は思うようになっていた。

眠っている雅己くんの柔らかい髪の毛を撫でながら、吉野くんに会いたいなと僕はそう思った。







「…っい!…ろ……でお……が!?」
大きな声にゆっくりと目を開けると、僕を見て、どこか慌てている吉野くんがいた。

「なんでお前が俺のベッドで一緒に寝てんだよ?」
ボーッとした頭で昨日のことを少しずつ思い出し、ハッとする。
周りをキョロキョロと見渡してみたが、雅己くんはおらず、吉野くんしかそこにはいない。
少しがっかりはしたが、吉野くんに戻っていて嬉しい自分もいた。


「昨日、待ち合わせ時間になってもなかなか吉野くんが来なかったんで、心配して、家まで来ちゃいました」
僕がそう言うと慌ててケータイを取り出し、日付と時間を確認した吉野くんは
「マジかよ!!!??」と大きな声を上げた。
『久しぶりの恭介との時間が…』と本気でガッカリする姿に僕は目を丸くした。

「吉野くんって、僕の事好きだったんですね」
そう呟いた僕を吉野くんは驚いた顔をして見たが、すぐに表情は戻り、少し拗ねたような顔をした。

「当たり前だろ…。お前が初恋で、ちいせぇ頃からお前だけが好きだったんだからな」
初めての吉野くんからの告白らしい告白に、『そうだったんだ…』と純粋に僕は驚いた。

ガシガシと頭を掻き「もしかして過去の俺とあったのか?」という質問にゆっくりと頷くと、
少しだけ吉野くんは昔話をしてくれた。


『ちいせぇ頃。1日だけ、知らない大学生が、俺の家に泊まったことがあった。
何故かその日は親も姉貴も家には居なくて、『寂しいな』って思ってた時に、大学生がきた。
大学生はまだ小さい俺の遊び相手になってくれたり、ご飯も作ってくれた。
それが嬉しくて楽しくて、寝るのがもったいねぇなとまで感じてた。
だけど次の日の朝、俺はいつもの自分のベッドの上で目が覚めて、隣にはもうその大学生は居なかった。
親や姉貴に大学生の事を聞いても知らないと言われ、あの日の事はずっと夢なのかと思ってた。
だけど何日経っても大学生との1日を俺は忘れられず、そのうち俺はその大学生の事が好きなんだって自覚した。
だから俺にはあの人以上に好きな人は今まで出来なくて、ずっとあの人を俺は探してた。
そして大学に入学して何日か経った日、あの時の大学生…恭介を、俺はやっと見付けた。』








補足

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