短編2 | ナノ


▼ 不良×ショタ?

俺の初恋は高校3年の時だった。
高校生にもなってもまだ過保護な親に、学校の口うるせぇ教師共。
何も面白いことのない毎日とつまらない世の中に俺は不満だらけで、それを発散させるかのように俺は朝から晩まで喧嘩ばかりの日々だった。
髪を金に染め、アクセサリーもジャラジャラと至る所に付け、服も着崩し、まさにその姿は不良そのもの。
面倒臭い学校なんて行かず、毎日遊び呆けて、家に1ヶ月丸々帰らないことも多々あった。
昔から顔だけはよく、女にはウザいほどモテるおかげで宿には困らず、高校生ながらに舐め切った生活を送っていた。



ちょうど3週間ほど泊まっていた家主の女と、昼からお盛んに営んでいると『今日からゴムを付けなくていい』と、コンドームの袋を開けようとしていた俺を止めた。
『そろそろ潮時か』と思いながら適当に女をあしらい、行為が終わってからすぐに女の家から出て行った。
特に行く宛てもなく、これから女を引っ掛けるのもめんどくせぇと考えていたが、ふと1ヶ月以上家に帰ってないことを思い出し、もうそろそろ家に帰えるかと重い腰を上げた。


家の門扉を開けようとした瞬間、いつの間にか俺の後ろには人が居たらしく、突然『おかえりなさい』と声をかけられた。
『は?誰だよ』と舌打ちしながら後ろを振り向くと、黒いランドセルを背負った天使がそこにはいた。

「お兄さん、おかえりなさい。お兄さんが淳也(じゅんや)さん?」
「え?…あぁ、おう」
「そっかー!おばさんが『淳也くんはすごくカッコイイのよ』って言ってたけど、本当にすごくカッコイイや!!あっ!僕は稔(みのる)です。小学4年生です。」
ニコニコと笑顔を浮かべながら自己紹介をする稔に俺は固まる。
さっきまでのイラつきは何処かへ行き、俺の空っぽだった心の中にボッと何かが湧き上がってくるのが自分でもわかった。
そして目の前にいる稔に対して俺は『愛おしい』と思った。
初めての感情に戸惑い、どうすればいいのか悩んでいると、さっきまで楽しそうにアレコレ話していた稔は『あっ!』と声を上げた。
「どうした?」
「もうすぐ見たいアニメが始まるから、僕もう帰るね!淳也さん、またね」と言って、俺の家の隣にある家へと稔は入って行った。
何分か惚けたあとハッとし、直ぐさま俺も我が家へと入り、リビングの扉を勢い良く開けた。

「淳也くんおかえりなさい!元気だった?怪我とか病気はして「あの隣の家の奴、いつから引っ越して来たんだよ」…小野坂(おのさか)さん?もう結構前よ?いつだったかしら…確か半年前ぐらい?」
「その小野坂って家の子どもに稔ってやついるよな?そいつについて知ってることがあったら全て教えろ」
「もぉ、ママに対してその口は無いでしょう!稔くんについて知りたいならまず手洗いうがいをして、着替えてから来なさい。そしたらママの知ってる稔くんのこと全部淳也くんに教えてあげるから」
そう言って優雅に紅茶を飲むお袋に文句を言おうとしたが、俺は今直ぐにでも稔について知りたくて、数年振りに大人しく親の言うことを聞いた。



「手は洗った?」
「おう、うがいもした。んで着替えもして来た」
「ふふふ。」
「ほらさっさと教えろ」
「小野坂稔くん。小学4年生の9歳。確か誕生日は………」
お袋の知っている稔情報を1つも聞き漏らさないように集中し、お袋が話し終わると同時に俺は宣言した。
『俺、稔と結婚するから』




母さんに宣言した後、仕事から帰って来た父さんにも稔と結婚することを伝えた。
2人とも『淳也くんの好きにしなさい』と言い、反対することもなく、久しぶりに家族3人で食卓を囲んだ。
あの日からなるべく稔に会えるようにと俺は自宅にいるようになった。
小学校へ行く稔を送り出し、帰ってきた稔と一緒に遊び、少しずつだが確実に愛を育んでいった。

そして俺は、稔が「煙草は身体に悪いんだよ?」と言えば、今まで手放せなかったはずの煙草を直ぐにやめ
「きっと淳也くんは金色より黒の方がカッコイイし僕は好きだな」と言えば、その日のうちに黒染めをした。
それからも「だらんだらんな格好だと、淳也くんのカッコ良さが半減しちゃう」「お耳穴だらけで痛そう…淳也くん痛くない?」
「首も手も重そう?」「淳也くんは学校行かないの?高校ってどんなところ?」と、
稔が言えば俺は今までのこだわりも何もかもを捨て去り、気付けば俺は真面目に学校へ通い始めていた。


「淳也くんおかえりなさい!」
「おう稔、ただいま。今日は学校で何したんだ?」
「えーっとねー、今日は算数のテストが返ってきたんだ。それで僕ね、100点だった!」
「偉いな稔。さすが俺の嫁だ」
へへへと照れ臭そうに笑う稔を自分の膝の上に乗せて、小さい稔の身体を後ろからギュッと抱き締める。
抱き心地の良い身体に、今まで抱いてきた女達の比じゃないなと思わず顔がにやけた。



こんな幸せな毎日がこれからもずっと、永遠に続くんだと思っていた。
だけど大学2年の冬、別れは突然訪れた。

いつものように稔の家に遊びに行くと、いつもより表情の暗い稔に出迎えられた。
頭を撫でながらどうしたんだと聞くと、稔は突然泣き出してしまった。
原因がわからずオロオロとしていると、稔の泣き声を聞き、リビングの方から稔の母親がやってきた。
あらあらと泣いている稔を見て困った顔をしながらも稔をあやし始め
「あのね、淳也くん…」
「…だめ。ヒック…うう、僕が淳也くんに言う」
稔の母親は、稔の泣いている理由を知っているらしく、何か言おうとしたがその前に稔がそれを遮った。
稔は一生懸命手で涙を拭い、俺の前に立つと『あのね…』と喋り出した。



「僕、私立の全寮制の中学校に行くことになったの…」



頭をハンマーで殴られたような衝撃が俺を襲った。
「は?どういうことだよ?」
再び泣き出してしまった稔に代わり、今度は稔の母親が話し始めた。
「元々主人の転勤で私達は此処に引っ越して来たの。それで今度は海外の方へ転勤になっちゃって、稔が『海外には行きたくない。淳也くんと離れたくない』って言い出して、それを主人とどうしようかって話し合ってることをポロっと弟に言っちゃったの。
そしたら弟が『俺が面倒みるよ』って直ぐに自分の学校に入れるよう手配してくれたんだけど、その学校って全寮制で、長期休暇ぐらいしか学校の外に出られないのよ」
『日本に居れても淳也くんに会えないなら意味がない』って稔が言うから、何とかならないか弟に掛け合ったんだけど、『身内だからって許したら他の人に示しがつかなくなる』って拒否されたの。
それで淳也くんとはなかなか会えないって知って、稔ってば今日1日ずっとこんな調子なのよ。
でもどうしても淳也くんにはそのことを自分の口から伝えたいって言い出して、今日はずっと淳也くんが家に来るのを玄関で待ってたの。

話を聞き、俺は優しく稔を抱き締めた。
「あの…俺の家で面倒みるってのはダメなんですか?」
「淳也くんのお母さんにはもう先にこの事を伝えたの。そしたら淳也くんと一緒でお母さんも『引き取る』って言ってくれたんだけど、弟が『もう手続きが全部終わったからダメだ』って。」
「くそっ…」
「3年後にはまた日本に帰って来れるから、弟とは稔が中学生の間だけその学校に通わせるって約束なの。だから稔が高校生になったら、またこっちに帰ってくるわ」


何の力も持っていない自分に、久々に悔しくて涙が出た。
愛する人すら俺は守れないのかと、自分の不甲斐なさに落ち込んでいると、さっきまで泣いていた稔が目の前にやって来て、俺の顔に伝う涙を拭った。

「淳也くん。…僕が高校生になるまで待っててくれる?」
「…当たり前だ。お前は俺の嫁だろ?いつまでだって待ってやる」
「ありがとう…嬉しい…。今までみたいに毎日淳也くんと会えないのは寂しいけど、長期休暇になったら必ず淳也くんに会いにくるから。…だから僕を、待っててね」




お別れの日、俺と稔はお互い枯れるほど涙を流した。
とりあえず4ヶ月経てば稔は夏休みを迎え、学校から出て来れる。
だからその時にまた会おうと約束し、俺達は笑顔でしばしの別れを告げた。

けれど稔は4ヶ月経った夏休みを始め、その次の冬休み、そのまた次の春休みにも、どの長期休暇の時も俺の前には現れなかった。
そして結局稔が中学に通っている3年間、俺は1度も稔と会うことはなかった。
俺と会わなくなり現実を見た稔は、男同士なのに初めてあった頃からずっと『結婚しよう』と言い続ける俺を軽蔑して会いに来ないのか、それとも稔の身に何か起きたのか、それすらもわからないまま、俺は半ば諦めながらも稔の卒業を待った。




社会人1年目の春、この年が来れば俺はまた一緒に稔と過ごせると、当時大学2年だった俺はこの年を楽しみにしていた。
だけど稔は春になり、今年からは高校生になったはずだが、相変わらず俺の前には現れてくれなかった……

社会人になり、1人暮らしを始めた俺は、稔との沢山の思い出がある家とは距離を取り、親とはいつも電話で近況を伝え合っていた。
だけど数日前、母親に『もうそろそろ声だけじゃなくて、淳也くんの顔も見たい』と言われ、昔とちっとも変わらない過保護さに呆れながらも、『わかった』と伝えた。
そして今、実家の門扉を開けようとした瞬間、後ろから昔よりも少し低くなったが、だけどどこか懐かしい声で『おかえりなさい、淳也さん』と言われた。
ハッキリと聞こえた声に慌てて後ろを振り返ると、スクールバックを肩にかけた制服姿の天使がそこにはいた。






補足

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