短編2 | ナノ


▼ ヘタレ×シスコン

「悠人(ゆうと)さぁ…何かあったでしょ?」
「……なんで姉ちゃんは俺の事、なんでもわかんの?」
「まぁそりゃ私、悠人のお姉ちゃんだから」
チラッとこちらを見てくる姉ちゃんに、俺はぶくぶくぶくと湯船に浸かっている身体を頭まで沈ませた。
俺はこれから一体どうすればいいんだろうか。






俺の姉ちゃんは、弟の俺が言うのもなんだが、とても美人な非の打ち所がない完璧な女性だ。
俺が生まれた時からいつも姉ちゃんは俺の前を歩き、俺の手を引っ張ってくれた。
だからか俺は昔から両親よりも、姉ちゃんの事が大好きで大好きでたまらなかった。

姉ちゃんがナンパされてるところを見れば、『あ"?テメェなんだよオラァ』と相手を牽制し、
姉ちゃんの帰りが遅くなると知れば、どんなに寒くても暑くても遅くても、駅の改札口でひたすら姉ちゃんを待ち、
そして姉ちゃんに彼氏が出来れば、2ヶ月という長い期間を俺、姉ちゃん、姉ちゃんの彼氏の3人で過ごし、この人なら大丈夫だと俺が判断したら、2人きりになるのを許している。

自分が重度のシスコンだという自覚は十分にあるが、俺の人生はいつだって、姉ちゃんを中心に回っていた。
だからそれを今更変えないし、変えようとも思わない。

俺は姉ちゃんを守るために腕っぷしを強くし、姉ちゃんが好きだという格好し、姉ちゃんが通っていた学校だからと姉ちゃんと同じ高校に受験した。
どんな誰よりも、俺は姉ちゃんが大好きだと胸を張って公言出来る。
それほどまでに俺は姉ちゃんの事が大好きで、自慢の出来る魅力的な女性でもあった。


日常生活でも朝起きてから寝るまでのほとんどの時間を、俺は姉ちゃんと過ごしている。
姉ちゃんに朝起こしてもらい、母さんが準備してくれた朝ご飯を食べ、一緒に駅まで行く。
学校から帰ってきたら姉ちゃんより先に姉ちゃんの部屋へ行き、携帯を弄りながら姉ちゃんの帰りを待つ。
姉ちゃんの気配を感じたら走って玄関まで行き、姉ちゃんを家へ迎え入れる。
そして一緒にお風呂に入り、姉ちゃんに付き合って風呂上がりのストレッチやボディークリームでのマッサージもする。
そして晩御飯を食べ、寝るギリギリまで姉ちゃんの部屋で姉ちゃんと過ごす。
これが俺の日常で、たまに遊びにくる湊(みなと)くんが来ることで、ほんの少しだけ変わる事があるが、ほとんど変わらない。

そして俺を今悩ませてる相手こそ、その湊くんだった。

湊くんは姉ちゃんの前の前の前の彼氏、いわゆる元彼。
姉ちゃんは昔からモテていたが、俺の2ヶ月間の監視付きに、告白を断念する人も多かった。
だけどそれでも『付き合いたい』と告白してきた中で姉ちゃんが選び、そして俺が『この人なら大丈夫』と思ったのは、今の彼氏さんと湊くんだけだった。
湊くんは姉ちゃんの同級生で、中学2年の夏から冬の終わり頃までの期間、付き合っていた。
湊くんは俺の2ヶ月間の監視の間、嫌がる他の元彼達と違って、凄く好意的に、俺に接してくれた。
まるで俺がいるのが当たり前という態度に俺は甘えに甘えまくり、2ヶ月間の監視どころか、3倍の6ヶ月間も姉ちゃんと湊くんと一緒に過ごしてしまった。
2人きりの時間が全くない事にようやく俺は気付き、少しずつ2人からフェードアウトして行ったが、それから数ヶ月後、姉ちゃんと湊くんは別れてしまった。
それを知った俺は、『姉ちゃんの恋人じゃなくても、また、絶対遊びに来て…』と湊くんに泣いてすがった。
湊くんがどんな表情をしていたか、その時の俺は涙で目の前が霞んで見えていなかったが、それでも『わかった。暇な時は行かせてもらうね』と了承の返事をもらえた。

それから5年。
今も週に2回ペースで俺は湊くんと遊んでいる。
俺と湊くんの2人きりという時もあれば、俺と湊くんと姉ちゃんの3人でショッピングや映画、ゲームと色んな所へ行く時もある。
湊くんは俺にとって頼りになるお兄ちゃんで、姉ちゃんの次に湊くんを好きだとも思っていた。
親身に相談に乗ってくれるし、勉強も教えてくれる。
1個の年の差だけで、こうも違うものかといつも驚かされた。

そして今日もいつも通り、湊くんから『遊びに行くね』というメールをもらい、新しく買ったゲームとお菓子を準備して、湊くんが来るのを今か今かと待った。
メールが来てから数分で湊くんは我が家へ訪れ、それから数時間、お互い夢中でゲームをプレイしている時、突然湊くんは『好きだ』と呟いた。

食べかけのお菓子を口の中に放り込み、『何が?』と返すと
その瞬間驚いた顔をして、湊くんは慌てて両手で口元を押さえた。
『俺、口に出してた?』『聞こえてた?』と言う湊くんにハテナを頭にたくさん浮かべていると、伏し目がちにポツリと喋り始めた。

『ずっと前から、悠人の事が、好き…でした』
その言葉を言った瞬間湊くんは勢いよくバッと立ち上がり、『今日は帰るね…ごめん』と言って帰ってしまった。
唖然としたまま数分が経ち、ようやく少しずつだが思考が纏まってきたが、さっきの様子からして、湊くんの告白は、友達や家族に対するような『好き』ではなく、恋愛としての『好き』なんだろう。

うーん。と悩む。
男同士ということや、なんで元カノの弟の俺を?などと思う所はたくさんあったがただ1つ、俺は湊くんには告白されて、嫌ではなかった。
むしろ嬉しいなとも思った。
これからは湊くんと一緒に居れる、しっかりとした理由が出来るかもしれない。と…

だけどなーと、悩んでる時に姉ちゃんの帰ってくる気配を感じ、玄関まで俺は走っていった。






「湊くんって、俺の事…好きだったみたい…」
「あら…、やっと告白出来たの?あのヘタレは」
姉ちゃんの言葉にえ?と思い、姉ちゃんを見ると、ニコニコと綺麗に笑っていた。

「じゃあね、やっと湊が告白出来た記念に、お姉ちゃんがネタバラシしてあげる。」
そう言って何処か楽しそうに笑う姉ちゃんに、これからどうしようと考えていたモヤモヤが一気に消え、俺もニコリと笑った。



中学2年の夏頃に『あなたの弟君が好きです。あの…付き合ってください』って湊に告白されたの。
今考えても笑っちゃうわ。
なんで私に告白するのさってね。
でもほら、悠人と私って学校では有名じゃない?だから私と居れば悠人と近付けると思って告白してきたみたい。
それから私と湊と悠人の3人で居たけど、悠人が私達に気を遣って冬の終わり頃に離れて行った時
あれで湊、『もう悠人とは居れない』ってスゴイ落ち込んじゃって、私とも『今まで迷惑かけてごめん』『形だけだったけど別れよう』って言って別れたの。
だけど私達が別れたって知って、悠人号泣して湊に『これからも遊びに来てね』って言ったじゃない?
あれが相当嬉しかったらしく、今までの落ち込みようは何だったのよって、不思議に思うほどずっと湊ってばニヤニヤしっぱなしだったのよ?

一緒に湯船に入りながら語る姉ちゃんに俺は開いた口が閉じれない。

「本当にヘタレでしょ?悠人に5年も片想いしてて、やっと告白したのも、ポロリと本音が口に出ちゃった勢いで告白なんて」
その言葉に我慢が出来ず、ぷっと俺は吹き出して笑い始めた。
つられるように姉ちゃんも笑い、風呂の中では笑い声が響いた。

「湊くんって、ヘタレだったんだ。もっと大人なのかと思ってた」
「あれは悠人にカッコいい所見せようと、必死に取り繕ってるだけ。中身はヘタレまくり。
…まぁ、湊の気持ちを知ってる私は湊を応援したくなる訳よ、今彼女居ないんでしょ?なら悠人が嫌じゃなかったら、付き合ってあげれば?」
「…うん、そうする。姉ちゃん、ありがとう」
姉ちゃんに相談してよかったなと思う。
ザバーッと俺は浴槽から立ち上がり、急いで身体を拭いて、部屋に置いてある携帯を俺は取りに行った。







補足

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