短編2 | ナノ


▼ ストーカー会長×平凡

"普通"
それが俺を表す最も最適な言葉

中学3年の時に父親が起業に成功し、一般庶民から成金へと俺達は成長した。
そして調子に乗った父親は、受験を控える俺に『どうせなら良い所の学校へ行け』と言って、お金持ちだけが入れるという全寮制男子校へと進学をすすめた。
元々庶民の俺にとってそこは未知の世界で、最初は驚くことばかりだったが、2年以上も生活をしていれば、慣れたくなくても慣れてしまった。
けれどお金持ち学校の生活に慣れたとしても、俺自身はあまり変わることもなく、見た目普通、学力普通、運動神経普通の普通だらけのただの一般庶民。

けれど何故か俺は……

「キャーー!?会長様?!!」
「え?本当だ!?なんでこんな所に?」
「シッ…静かにしろ。直江(なおえ)にバレるだろ」
「す、すいません…」
「いや、いい。気にするな」
「…あの会長!その…仕事頑張ってください」
「ああ…、ありがとう」
多分親衛隊であろうキャピキャピとした可愛めの男の子達に返事をする、この学園の生徒会会長であり、この学園のNo.1である東雲響(しののめひびき)。
何故か俺は彼にストーカーされている。




3年になって初めて会長と同じクラスにはなったが、特に接触もなく、気付いた時には俺は会長にストーカーされるようになっていた。

会長自身は上手く隠れているつもりなのだろうが、会長は嫌でもとても目立つ。
そのせいで騒がれるたびに『ああ…会長か』と俺は会長の存在に気付いてはいるが、あえて気付かないふりをしている。
最初は何回か『俺に何か用?』と声を掛けてみたが、そのたびに目を大きく見開かせ、足早にその場を立ち去ってしまった。
それからは会長の存在に気付いても
『俺は会長の存在に全く気付いてないですよー』という振りをして、会長のストーカー行為を黙認している。


何故会長は俺みたいな一般庶民にストーカーを…とは思うが。
今はそんな事よりも、何故会長は此処にいるのか…の方が俺には気になって仕方がない。
これからの時期、新入生歓迎会、中間テスト、体育祭、期末テストと行事にテストと目白押しで、とても忙しい。
生徒の代表である生徒会が中心となって行事を運営する故、生徒会には毎年優秀な人材が選ばれる。
けれどそんな優秀な人達でも仕事がなかなか終わらず、行事が行われる数ヶ月前からいつも忙しそうで、なかなか授業を受けることもできず、生徒会室に缶詰になって通常業務と行事の企画を同時に進めている。
そんな忙しいはずの会長が俺みたいな一般庶民をわざわざストーカーしに来ているなんて、仕事をサボっているのかと最初は疑念を抱いていたが、そういう訳ではなく。
始業式の次の日から会長は授業には出てこず、会長を見たという人も、生徒会室か会長が寮へと帰る道すがらに見たという人だけ。
ということは会長は寮への行き帰り以外は、俺をストーカーする時だけしか外には出て来ていないらしい。

そして会長にバレないようにさりげなくチラッと見た会長の目の下には、真っ黒いデカい隈を飼いならしていた。
身体も日に日にやせ細り、げっそりとしていってる気がする。

そもそも俺なんかをストーカーする時間があるなら、その時間を食事や睡眠に回して欲しい。
俺以外の奴等もそう思っているらしく、ストーカーしている会長に
『食事を取った方が…』『眠って下さい』と話し掛ける人が居るが
それに対して会長は『いや、気にしないでくれ』と全く聞く耳を持たない。
そんな会長が俺は心配でたまらない。




やっと大きな仕事の1つだった新入生歓迎会がもうすぐ終わりを迎える。
最初は新入生歓迎会が立食パーティー形式だなんて『なんだそれ!?』と驚いたが、3回目にもなれば
『今回はどんな美味しい物が食べられるのかな』と滅多に食べられない美味しいものに俺は胸を躍らせた。

美味しい食べ物に腹と心が満たされ、ふと会場を見渡すと、会長が直ぐに目に入った。
さすがに今日はストーカーしてこないらしく、少し離れた所で生徒サービスや先生サービスとして楽しそうに談笑していた。
舞台上では部活や同好会の人達が、持ち時間5分の中で、あの手この手で部員を獲得しようと奮起している。
3年である俺には特にもう関係ない話で、飲み物を飲みながら会場全体を見回してみると、無駄に豪華な装飾品に思わず渇いた笑いが出た。
それに豪華なのは装飾品だけじゃなく、1流品の食事や著名人もそうだ。
予算、そして部活紹介などの企画、今日1日のためだけにたくさんの手間がかかっている。
他の生徒会役員達を見てみると何処か疲れた様子が手に取るようにわかるが、会長には全く疲れが見えない。
むしろあんなに酷かった隈が一切今は見あたらない…きっとあれは化粧で隠しているに違いない。
2日前に見た時はとても酷い状態で、ほんの数日でそれが無くなるわけがない。

はぁ……会長……
さらに俺のため息は深くなっていく。




新入生歓迎会という名の立食パーティーが終わってすぐ、俺はスーパーへと足を伸ばし、ある材料を買った。
混ぜて捏ねて焼いて、そんな簡単な作業で完成してしまったそれを箱に詰め、俺はある場所へと向かうために部屋から出た。

「おっ、直江じゃん」
「あれ?委員長…こんな所で何してんの?」
「んー…これから生徒会室に書類出し行くところ。直江は?」
我がクラスでは大雑把だと有名なあの委員長が、わざわざ生徒会室に書類を出しに行くなんて…
今までの委員長を知ってる分、思わず『やれば出来るじゃないか』と少し見直す。

「俺も丁度生徒会室に行こうかなっと…」
「マジか。じゃあこの書類もついでによろしく!
いやぁ新歓前に出さなきゃいけない書類出すの忘れててさー、どうしようかと思ってたけど、直江に出してもらえば多分怒られない」
本当に良かったーと言って帰っていく委員長の背中を見て、大きなため息をつきたくなる。
委員長を少しでも見直した俺がバカだった…やっぱり委員長の大雑把さは筋金入り。
新歓前に出す書類を今更出しても意味あるのか疑問な所だが、頼まれてしまったものは仕方ないと、書類を手に生徒会室へと向かった。

生徒会室の前に立ち、ふぅと息を吐いてからトントンと扉を叩くが、返事が返ってこない。
誰もいないのか?とゆっくりと扉を開けてみると、1番奥の席に誰かが机にうつ伏せになっていた。
近付いてみるとそれは会長で、起こさないように軽く会長の目元を摩ってみると指には粉が付き、『やっぱりな』と呆れる。

無理してまで俺をストーカーしないで、仕事以外の時間は食事や睡眠に回してくれればいいのに。
委員長に渡された書類を適当な場所へ置き、自分の持ってきた手作りのクッキーを会長の目の前に置いてから、脱いであった会長の上着を寝ている会長の身体にかける。

「お疲れ様です。ストーカーさん」
グッスリと会長が眠っているのを確認してから、俺はゆっくりと会長を起こさないように生徒会室から退室した。






補足

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