短編2 | ナノ


▼ 人気者×平凡

「実は俺な、本物の魔法使いなんだ。だから忍(しのぶ)の願い、1つだけ叶えてやるよ」
「はぁ?とうとう頭でもいかれた?」
学校行事のハロウィンパーティーで、魔女の格好した友人…もとい鈴木(すずき)の言葉に『馬鹿かこいつは…』と俺は呆れた。

「ミイラ男の忍くんは叶えて欲しい願い事があるんじゃないの?俺にお願いしてみなよ」
ニヤニヤと笑う鈴木に引きつつ、『ああそうだった…こいつは楽しい事が大好きな奴だったんだ』と思い出し、こいつの遊びに少しだけ付き合ってやるかとため息をついた。

「はいはい。じゃあ魔法使いさん、俺の願い事を叶えてくださいな。」
「ヨカロー、言ってみなさい」
「んー…あっ!先輩…四ノ宮要(しのみやかなめ)さんと今日1日だけでいいので恋人になりたいです。」
「はぁ?1日?たったそれだけかよ?もっと贅沢言えよ!!!!!」
「…なんでキレてんだよ」
「はぁ…まぁいいや。行くぞ!
ラララーラルラル…ラーッ!!!!
…よし、これであと数時間、四ノ宮先輩と忍は恋人同士になってっから、今から確かめて来いよ」
「なに言って…!?」
そう言って鈴木に背中を押されたが、四ノ宮さんと俺はそもそも全く接点ないし、俺なんかが四ノ宮さんに近付くなんておこがましいんだよ!

けれどたくさんの人が集まっている輪へとグイグイと鈴木に背中を押される。

考えなくてもわかる…こんなたくさんの人に囲まれる人なんて四ノ宮さんしかいない。
だけど俺があの輪へ行ってどうすんだよ。
何も喋ることが無いし、喋ったとしても『初めましてー…』とかそういうことだけで終わっちゃうだろ。

そう思いながらも後ろから鈴木にグイグイとさらに押され、とうとう輪の近くまで来てしまった。
中心に居たのはやっぱり四ノ宮さんで、ちょうどこちらを見た四ノ宮さんとバチリと目があってしまった。

四ノ宮さんはどうやらドラキュラの仮装らしく、『さすが四ノ宮さんだ…何着てもカッコいいな』と見惚れていたが、直ぐにハッとする。
やばい…俺今、四ノ宮さんと目があってる…!!!
四ノ宮さんはニコッと笑い、周りの人に何か言ったあと何故か徐々にこちらへと近付いてきた。

「や、やばい。四ノ宮さんと目が合っちゃったし、なんかこっちに来てる!!!!」
「俺の魔法のおかげだよっと!!」
勢い良く鈴木に背中を押され、『転ぶ!!!』と目を瞑ったが、ポスリと誰かに抱き締められ、転ばずにすんだ。

「大丈夫?忍?」
「あぁ、ありが……え?」
俺の名を呼ぶ声に知り合いかと思い、お礼を言いつつ体制を立て直しながら見上げると、何故か四ノ宮さんがいた。

「ずっと忍の事探してたら、見つける前に皆に捕まっちゃってたんだよね。…忍はミイラ男の仮装なんだ。すごく似合ってて可愛いよ」
「四ノ宮…さん?」
「どうしたの忍?いつも通り、『要くん』って呼んでよ」
「要くん?!?!」
「ん?なぁに?忍」
ニコニコと笑う四ノ宮さんに戸惑っていると、ふと目の端に友人が見えた。
親指だけをグッと上げたポーズに、『これがさっきの魔法の力なのか?!マジで?!』と驚く。
だけど本当にそうなら、このチャンス逃す訳には行かない…



「あの…要くんと2人きりになれる所行きたいなぁーって思うんだけど…」
チラッと四ノ宮さんを伺うと『僕も忍と2人きりになりたいなって思っていたんだ』と言って、隣に立ち、賑やかな会場から出て、二人で静かな庭へと向かった。

少し寒い程度の外に、過ごしやすいなと思いながらも、俺の心の内ではバクバクと心臓が高鳴り、隣にいる四ノ宮さんに聞こえてしまったらどうしようかと慌てる。

ふと視線を四ノ宮さんへと向けると、至近距離でバチっと目があった。

「か、要くん?どうしたの?」
「んー、忍の包帯ってどこまであるのかなって」
「一応上半身だけ…」
首元から巻いている包帯は腰まであり、腕や指先までしっかりと巻いてある。

「へー…自分で巻いたの?難しそうだね」
「いや…鈴木に…」
そう言った瞬間四ノ宮さんの笑顔が固まった。

「それって、僕以外の男に肌を見せたってこと?」
「え?あっ…いや…」
「恋人の僕がいるのに、なんで僕を頼ってくれないの…」
落ち込んだ顔をする四ノ宮さんに、どうしようと慌てる。

「鈴木くんとは友達だとわかってても忍の身体を見たなんて、僕…嫉妬しちゃう…」
「その。ごめん、なさい…」
四ノ宮さんは首を振り『違う。謝ってほしいんじゃないんだ。ただ僕が勝手に嫉妬してるだけだし。…でも、忍が少しでも悪かったなぁって思ってるなら、いつものして?』と言う。
いつもの?と俺の頭の中にクエッションマークを浮かべた。

「仲直りのちゅーだよ。忍からして?」
「っ!!!ちゅー!?」
「忍からしてくれなきゃ意味ないよ?」
唇をこちらに寄せてくる四ノ宮さんに、今日だけしか出来ないんだ!!!と思い、目を瞑り、軽く触れるだけのキスをした。

や、柔らかい…ほわほわする。
ゆっくりと目を開けると、同じく目を開けた四ノ宮さんと目が合い、嬉しそうにニコリと笑った。

「今回はこれで許してあげるけど、もう僕以外の人に肌見せちゃダメだからね」
『今回は』か…
今日しかない奇跡に、今度も何も無い…
だから今日だけは大胆に行ってもいいのかな?
そう思い、自分に気合いをいれる。

「要くんも!!…そんなカッコ良くてセクシーなドラキュラ姿を皆に見せたなんて、俺も…すっごい、その…し、嫉妬した…」
突然の俺の発言に驚いたのか四ノ宮さんは目を丸くする。

「だから要くんからも、その……して?」
意味を理解した四ノ宮さんは甘い笑顔を浮かべ、『そうだね。うん、ごめん』と言って、今度は四ノ宮さんの方から軽くちゅっと触れるだけのキスをした。

そして少しずつ深くして行き、俺は幸せに浸る。
一時だとわかっているからこそ大胆に行けるが、どんどん過ぎて行く時間に気持ちが焦る。
ずっとこうだったらよかったのに。

あの時鈴木の言葉を信じず『1日だけ』と言ったのを今更ながら後悔するなんて…
きっと明日を迎えてしまったら何もかも終わってしまう。
その前に四ノ宮さんとしたいことは、まだまだたくさんあるのに…


「…っん、…要くん、好きぃ」
「僕も好きだよ、忍」






結局あれ以上の事は何もしないまま俺達はさよならをした。
本当はしたかったが、よくよく考えれば鈴木の魔法とやらで四ノ宮さんは俺を恋人だと勘違いしていた。
だから好きでもない、しかも平凡な俺とキスどころか、それ以上のことをするなんて、四ノ宮さんにとってとても可哀想なこと。
だから四ノ宮さんの為にもしなくてよかったんだと自分に言い聞かせ、昨日のハロウィンパーティーの記憶を忘れないよう、しっかりと胸に刻み込む。


「おはよー、忍。」
「はよー、鈴木。昨日は魔法ありがとな。最初はお前の事、魔法使いじゃないって疑ってごめんな」
「…は?」
「お前のおかげで俺の願いは十分叶ったし、一生分の幸せをもらった気分だったよ」
本当にありがとうと声を掛けると何故か鈴木はポカンとした顔をしていた。

「どうしたんだよ鈴木?」
「魔法なんて使える訳ねぇだろうが…少し考えればわかんだろ。…忍って意外とバカだったんだな」
「え?」
ポカンとするのは今度は俺の番だった。

「どういうこと?だって昨日、四ノ宮さんと…」
「おはよう、忍。鈴木くんとじゃなくて僕と一緒に行こうよ」
後ろを振り返ると、キラキラと爽やかな笑顔を見せる四ノ宮さんがいた。
え…?昨日で魔法は切れたはずなのに、なんで…

「俺はお前等の恋を手伝ってやっただけだから。じゃあな、また教室で」
『待って』という俺の制止の声も聞かず、トコトコと行ってしまった鈴木に俺は慌てる。
まだ聞きたいことはたくさんあるし、それになんで既に魔法が解けたはずの四ノ宮さんに俺は話し掛けられて…!?

「そういえば、まだ連絡先交換してなかったよね?貸して」
「あっ…はい。……あの、四ノ宮さん」
携帯を四ノ宮さんに渡し、おずおずと声を掛けると、四ノ宮さんは作業を一旦やめ、ムッとした顔をした。

「そんな他人行儀な言い方じゃなくて、昨日みたいに『要くん』って呼んでよ」
「いや…あの……え?魔法は解けたんじゃ?」
「んー?何のことー?昨日忍、僕のこと『好きだ』って言ってくれたじゃん。
あれは嘘だったの?僕は遊びだった?」
「いや、そんな訳ないです!!!!大好きです」
「そっか、ならよかった。僕も好きだよ、忍。」
『あっ、携帯ありがとう』と言って返された携帯を受け取り、わけがわからないまま、俺は四ノ宮さんと一緒に学校へと向かった。







補足

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