短編2 | ナノ


▼ ブレザー男子高校生×学ラン男子高校生

電車の揺れに身体が傾くのと同時に左肩に重さを感じる。
8時10分。学校へ行くための電車の中。
数十分だけの短い時間なのに、僕はこの時間が楽しみでもあり、1日で1番ドキドキする時間でもあった。

チラッと左を見ると、開けたら大きな目を今は閉じ、腕を組んで眠っている男子高校生がいる。
ブレザーの制服に、僕の降りる1個先の駅の近くにある高校の生徒だなと、一目でわかる。

長い睫毛で隠れている目は、この電車に乗り込んで来た時だけしか見ることができない。
きっと彼は僕よりは年上なんだろう。
彼は一体どんな顔で笑うんだろう。
彼は一体どんな声をしているんだろう。

毎日隣に座ってくる彼について僕が知っていることは、正直全くと言っていい程ない。
唯一僕が知っている彼のことといえば、彼の頭の重さとほんの少しの温かさだけ…
だから僕は、彼についてもっと知りたいことがたくさんある。
僕は彼の事が気になって仕方ない。




「いっつもニヤニヤしながら登校して、お前気持ち悪いぞ。不審者かよ」
「うるさい!!」
電車から降りて数分か歩いていると、後ろからヒョコッと出てきて、僕の顔をジーッと見つめる浜口に、声をかけられた。

「また『彼』だろ?毎日毎日、気になってんなら、1度声かれてみればいいじゃねぇか」
「…でも」
「お前がホモだってことは十分承知してっから今更気にすんなよ。そんな事より、いっつもニヤニヤしてる方が気持ち悪いし」と言われ、僕はムッとする。

「ホモじゃない!」
「はいはい」
投げやりな浜口の返事に、さらに僕はむくれた。
だけどこんな僕を見放さない所を考えれば、浜口はいい奴だよなと思う。
けれど如何せん、口と性格が悪いので、正直に感謝の言葉を口にするのは癪に障る。


「あっ、そういえば…」
何か思い出したのか、そう声を上げた浜口を見やると『ホイッ』と言って、重い紙袋を渡された。

「何これ?」
「漫画。…お前これ見たいって言ってたろ?
俺も気になってた漫画だったし、この前全巻買った」
「え?あれって結構巻数あったよね?」
驚いて声をあげると「欲しかったし、買ってよかったと思うぐらいには面白かったからいいんだよ。
…返すのはいつでも良いけど、汚しはすんなよ」と言う浜口に、僕は目を輝かせながら「ありがとう」と返した。




学校からの帰り道は始終ソワソワし、家に帰ったと同時にさっそく浜口から借りた漫画を読み始めた。
思っていた以上に面白い内容に、僕はすっかり話にのめり込み、晩御飯や風呂の僅かな時間でも、時間が勿体無いと感じた。


「ふぅ…面白かった…」
最初は『1.2巻ずつ毎日読んでいこう』と軽い気持ちで読み始めたが、思っていた以上に面白い内容に僕は読むのを止めることが出来ず、
『あと1巻だけ』『あと1時間だけ』と読み進めているうちに、僕は結局全巻読みきってしまった。
気付けば深夜を通り過ぎ、早朝と言ってもいい時間になっていた。
今更寝てもなと思いながらも、一応寝転がって目を瞑ると、僕はいつの間にか眠っていた。

あんな時間に寝たのに、毎日の習慣で、いつも通りの時間に僕は目が覚めた。
けれどいつもと違うのは、ものすっごく眠くて瞼が重いということだけ。

眠い目を擦り、駅までの道のりで何度欠伸をしたかも、多すぎて途中で数えるのをやめた。
プシューッと開かれた扉から電車に乗り込み、いつもの席に座って数分、心地よい揺れに、僕の瞼は段々と下へ下がっていった。







目の前の光景に、先ほどから苛立ちが収まらない。

家の時計がいつの間にかズレており、いつもより少し遅い時間に家を出た。
俺はあの時間のあの電車に乗らなきゃいけないんだと必死に早歩きで行ったおかげで、なんとかいつもの電車には乗ることができたが、いつもの席には座ることが出来ず、俺の定位置はハゲたサラリーマンに奪われた。

それだけならまだいい。
あの子の目の前に立てれば、それはそれで気になってくれるかもしれない。
だけどあの子は今日に限って眠り、本当は俺がいただろうその席に座る、ハゲサラリーマンの肩にさっきから頭がもたれ掛かりそうになっている。
それを俺は目の前で見ていることしかできない。
『俺の家の時計がズレてさえいなければ、今頃俺があの子に寄り掛かってもらえたのに…』
そう思うと、俺の苛立ちは収まることをしらなかった。

俺が何のために早い電車に乗ってきてると思ってんだよ…
あの子の隣の席に座って、眠ったふりしてあの子に触れるためなのに…
ああ悔しい。
いつも目を瞑っているから、あの子の体温や匂いを感じることしか出来なかったが、今日だったら眠っているあの子をジッと見つめ、触れ合うことも出来たのに。

こうやってあの子の眠っている姿を目の前で見れるのは、立って目の前にいるからこそだが、違うんだ。
俺はあの子の隣じゃなきゃダメなんだ。

学ラン姿の、いつも読書をしている男子高校生。
始めて見た時から俺は、あの子に惚れているんだから。


とうとうハゲサラリーマンの肩に、ずっとふらふらし続けていたあの子の頭が乗せられた。
それに俺は我慢出来なくなり、
「すいません。こいつ寝ちゃってて」と言い。
ハゲサラリーマンの肩に乗せられていたあの子の頭を自分の方へ寄せた。
動かされてもぐっすり眠るあの子に、『このまま連れて帰ってもいいかな』と悪い自分が出てくる。







補足

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