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解はまだ知らない




今日提出になっている化学のワークシートでわからないところがあるから、ちょっと教えてほしいとせがまれた。謙也は化学反応式好きなイメージあったから、まさか講師役をせがまれるとは思わなくて、文章から無駄を省けばめっちゃ嬉しい。向かい合わせに座った席、距離が近くて嬉しかった。解き方をいくつか提示すれば、すぐ理解を示して艶のあるワークシートへ謙也のシャーペンが音を立てて走っていく。流石はスピードスター、なりふり構わんだけあって軌跡はミミズと文字の間を行ったり来たりしている。先生に叱られへんやろか。

ふとその手が止まって、謙也がこちらに視線を向けてくる。

「どないした?なんかわからんかった?」
「いや。そういうんやないんやけど。聞きたいことあってな」
「何?」

何か後ろめたいことでも聞きたいのだろうか?いつもはこちらの目をまっすぐ見て離さない瞳が挙動不審に揺れている。しばらくして覚悟が決まったのかこっちの目をまっすぐ射抜いて謙也は口を開いた。

「白石好きな子おるんか」

あんな時間かけて言うの、そんなことかいな!
あまりのしょうもなさに眩暈がしたので、四天宝寺の血に従って机に突っ伏した。

「――おらんわアホ」
「嘘や嘘。おる言うとったで、小春が」
「……言うても無駄やから言わへん」
「なんやそれ」
「なんやそれ言われてもなぁ」

それ以上の言葉は出さなかった。
それは謙也には知られてはいけないことだから。
だって。

(お前、って言うたら放送事故扱いやないか。)

「もう聞かへんから堪忍してや」
「別に怒ってへんからええよ」
「大したことやないねんけど。この前、財前に言われてな。俺、ずっと彼女ほしい言うとったけど、誰と付き合いたいかっちゅーのは考えたことなくて。で、考えてみたんやけど」

一拍。

「俺、白石みたいなコと付き合いたい」

顔をくしゃくしゃにして笑う謙也の顔を焼き付けて、耳は声をスルー、できなかった。右耳から左耳へと反射で流そうとした音を引き留めてしまった。言った。白石みたいなコと付き合いたい言うた。それは当然謙也の口から。

「……っちゅー話やったんやけど」

あまりの衝撃にどう対処すべきなのかわからなくなってしまった。その代わり感情の動きだけは鋭く、心をかき乱していくのだ。ぐちゃぐちゃにミックスされた感情がじわじわ蓄積されていく。今ならオサムちゃんにめっちゃ優しできる気がするのに、あのバラ柄のチューリップ帽を叩き落としてやりたくなるような。ああ、なんやねんホンマ。
居たたまれない気持ちを慰める代わりに「ちょ、」シャーペンの頭で「なにす、」謙也の頬を何度も小突いてやった。猛攻に晒された謙也の声が途切れ途切れ抗議してくる。

「白石て!」

弾ける音量に感情の箍が外れかける。少し上擦って吐き出そうとした声を咳込んで誤魔化した。言ってどうすんねんて。そういうの、無駄やろ。

「そんなな、俺みたいなんがポンポン都合よくおるわけないやろ、アホ。ほら謙也そこ答え違っとる」
「げ、ホンマか?」

心臓の形をした奇妙な消しゴムが、猛スピードで擦られていく。どこがアカンかった?と聞いてくる謙也。同じぐらいの目線、同じぐらいの身長で、俺より低い声やけど、可愛いと思うその気持ちは変わらない。ただ心に生えた奇妙な突起が呼吸を困難に、視界を曖昧にする。こんなに色を湛えているのに、そのくせ真っ白で。ミミズの跡が残る真っ白な解答欄を前にぽつんと一言だけ。途中式は合っとったのになぁ。




こんな片想い蔵→謙書いてました。
一応カップルになる予定です。







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