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ドラマチックアイロニー






佐伯さんが最低です





フロントにキーを返してホテルを出る。

「じゃあね」
「…うん」

俺は女の子にキスを一つ落として手を振った。照れた表情を俯いて隠して、控えめに手を振り返してくれた。またね、を言わないお利口な子は嫌いじゃないよ。背を向けた相手と同じ方向に歩くはずもなく、カバンの中にある携帯電話を取り出した。


「ねえ、樹っちゃん?俺だけど――」





天秤の上に俺への愛と俺の行為に対する嫌悪を載せてる。俺とセックスするためにわざわざ体を綺麗にして待ってた樹っちゃんは、伏せた目を上げようともしない。女の子の香りをそのまま纏って“会いたい”って電話した俺に、なんにも言わずにキスをする。献身的な愛に惚れ惚れして、樹っちゃんの口内を侵食していく。

酸素と唾液を混ぜ合わせ、どちらのものでもなくなったそれは口の端を伝って落ちる。口を離して引いた銀糸も、見つめ合う間も保たずに千切れてしまった。樹っちゃんの唇に触れるだけのキスをして、噛み殺した退屈を誤魔化した。

「舐めてよ」
「ん、」

俺が服を脱がすのが面倒だと言えば、さっき抱いていた女の子の方が可愛いかったよと囁いたら?

差し出されたまま、俺の指を舐る樹っちゃん。かわいいなぁ。髪を梳きながらその顔をじっと見つめた。

お互いの愛を量る天秤の上。手も繋がないでワルツを踊る俺と樹っちゃんは、いつかバランスを崩して倒れていくのかな。いつかのロミオとジュリエットより、不純なぐらいが丁度いい。だから、これも幸せだよね?

ローションでぐちゃぐちゃになったそこにあてがうと、樹っちゃんの体温が直に触った。何度この行為を繰り返しても、樹っちゃんは初めての女の子みたいに泣きじゃくる。息を詰める樹っちゃんを知らん顔して杭を打ち込んだ。ああ、今日はうんと甘やかしてあげるよ。キスを繰り返して、それからそれから、何がいい?


樹っちゃんが腕で顔を覆ってしまったから、俺は腰を揺さぶることだけ考えた。顔、見たいよ。囁いても頑なに首を横に振る。くぐもる声は女の子よりも泣き虫で、だからこんなにいとしいのだ。



だって運命ってやつは捻くれ者で綺麗なものを壊したがるから、おれは汚れたものが欲しいんだよ。きみを失いたくないんだ。だからね、わかって樹っちゃん。俺の不純を、全部ぜんぶ飲み込んで?



普通にラブラブなサエ樹も書いてみたい
って思ってますよ?
















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