泣けない話
!千→南前提の千←室
「室町くんは彼女いるの?」
歩くついでに小石を蹴った。そいつは機嫌よく飛んでいき、オレンジ色に照らされた道を俺より先に飛んでいった。何度かバウンドして、うずうずと蹴られるのを待っている。石を追って少し先を歩いた。
「いないです」
言葉に合わせてくるっと回転。
「じゃあ、できる予定は?」
「そんな、ないですよ」
舗装されていない河川敷の道を二人並んで歩いていた。石を蹴っていたことを忘れてまた室町くんの隣に並んだ。
「ホントに?でもさ、彼女ほしーっとか、キスしたーいとか、エッチなことしたいっ!とかさ、あるじゃん。やっぱ」
「はぁ…。色欲まみれの千石さんらしい発言ですね、感心しました。ホント」
「そんな、照れるなぁ」
室町君はわかりやすく引きつった顔をした。
「いや…褒めてないです」
「わかってるよう。つれないな、室町くんは」
「好きなひとは、いますよ」
室町くんは夕日の中で置き去りにされたみたいな顔をしていた。うつむき加減のキミがどうにも寂しそうだったから、つい口を滑らせた。いじわるしたのが申し訳なくなったのもあるのだけど。
「ねぇ、それってさ…俺?」
「……。っな、」
室町くんの顔が青くなって、しばらくして赤くなった。あまりの狼狽ぶりに、俺も同じぐらい慌てた。俺に背を向けて走り出そうとしたから反射で腕を掴んだ。「離してください」サングラス越しの視線はなんだか涙ぐんでるような気がする。
「不毛な恋だね」
「…っ、アンタが言うな…!」
「もう、俺のこと諦めて。忘れて、いい思い出にしてよ」
「できるなら、とっくに」
ごちゃごちゃした感情は全部ゴミ箱に捨てちゃえばいい、なんて恋も愛も知らない神様の科白なんだ。
「この恋を一生にするには、まだ早いと思うんだけどなぁ」
「アンタこそ」
引き止めた手と繋がれた手は、どっちも同じぐらいの痛みを感じていて、結局今解くタイミングを失ってしまった。
千石は妥協で終わると室町くんとくっつく
とかそういうイメージ。