恋は実らない | ナノ



恋は実らない



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チサトちゃんはよく笑う子で、ふとしたときにキスしたいな、と思えた女の子だった。だけどその欲求は要求したらあっさり断られて、そもそも付き合ってないでしょ、なんて言葉を突きつけられてしまった。頭が真っ白になって、十四年ちょっとの人生の中で何度目かの絶望だった。

失恋を理由に一週間ぐらい学校を休んでやろうと思っていたのだけど、一週間も休んだら逆にチサトちゃんのことしか考えられなくなっちゃうんじゃないかと不安になった。だから、なにごともなかったように学校にいって、チサトちゃんとおはようって挨拶して、ちょっとのスキンシップもして、ふらふらと曖昧に歩いていく。

帰りのホームルームが終わるチャイムで、チサトちゃんのことから目を覚ました。一日があっという間で、義務のように教室から退散する。下駄箱を目指す人混みにまじって廊下をふらふら歩いていると偶然、昇降口付近で南に遭遇した。南はこちらの顔を見るなり怪訝な顔つきで「来週は他校との練習試控えてんだから、ちゃんと真面目に部活来いよ」すこし強い口調だった。練習試合か。ああ、そう言えばそうだっけ?チサトちゃんのことですっかり忘れていた現実がひょっこり顔を出した。「メンゴメンゴ、ちゃんと行くよ」俺があんまりもあっさり頷いたからなのか、南はぎょっと目を見開いた。

「高橋とデートに行くから無理だーとか言わなくていいのか?」

不意打ちだった。何気ない一言でまたチサトちゃんがひょっこり顔を出す。崖っぷちに立っていた俺を谷底へ突き落とすなんて、南め…。

「南くん、ひとは移ろうものだよ」
「なんだフラれたのか」
「ぐさっ!もう本当にその言い方には傷ついたよぅ。南ってば容赦ないなぁ」

今日1日、チサトちゃんのために落ち込んでいたことがどうでもよくなってしまった。こんなこと、俺の心の内にしまい込む必要もないよね。

「チサトちゃんは、俺のこと好きなわけじゃなかったみたいだから」
「なんだそれ」
「なんだろうね」

俺だってなんなのか聞きたいよ。

「女の子は好きだけど、」

好きだよって言って、好きだよって返ってきて、ラブじゃなければなんだったんだろう。チサトちゃんは悪戯な笑みを振りまいて、そこにはライクの応酬ばかりだった。

「嘘を吐かない子がいいな」

チサトちゃんからすれば俺のことなんて、大したことでもなかったのだろうけど。でも俺、チサトちゃんのこと、すごい好きだったんだ。遅れてくるショックを隠しきれなくて、うまく笑えなかった。はじめからチサトちゃんは俺とお付き合いするつもりなんてなかったんだろう。嘘っていうか、前提の誤差というか。

「お前、…荒んでるよなぁ」
「ほっといてよ〜。いいよ、しばらくはテニスが恋人ってことで!…真面目に部活行くからさ」
「…ふうん、」

うわ、どうでもよさそう。

「ま。真面目に部活出てくれるなら、テニスでもなんでも恋人にしてくれ」

南が地味に部長みたいなことを言って、俺との会話を諦めた。ひらひらと振った手のひらがおしまいの合図だった。俺がスニーカーを手に取るころにはもう南はいなくて、慌てて後を追いかけた。


千南というか、千→南というか千+南
南の包容力に夢見てました






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