知らぬ存ぜぬ | ナノ





知らず屋の恋



「な、キスせえへん?」
「ここに笑かす人はおれへんやろ。ネタはせんでええ、ユウ君」
「ネタやないから、しよ言うた」

人気のない図書室に非生産的な台詞の羅列が響いた。隣に座る相方は頬を染めていじいじしていると思ったらこれである。呆れた。あーホンマ。このツラにナニして、なにが楽しい言うたのコイツ。アホらし。

読みかけの本を閉じて、目を細めた。「どないしたん?」不機嫌に歪めた顔を前にしてもユウ君はあんまりにもいつも通りやったから。きりきりと軋んだ胃を抑えつけて言葉を突きつけた。

「ユウ君、それは傲慢やわ」
「何がや」
「コッチの意見はまるまる無視、なんでそうも…。よぉ他人に自分の意見押しつけられるなぁ、堪忍してや」

そばにおんのにアンタの一人芝居か。笑えへん冗談はやめや。そっぽ向いて本を読み直す。隣人はしばらく黙りこんでいたがやはりまた口を動かし出した。

「なあ、小春。いっつもなんやかんやゆうてるけど、ホンマにアカンのか。小春好きなの、そんなアカンか?」
「…当たり前や。じゃあ、なんでええの」
「小春おるだけで幸せなんは、悪いことちゃうやんけ。それに、なんで小春泣きそうなん」

泣いとらへんわ。アホ。

「ホンマもう、一氏しね全力でしね」
「なに言うてんねん、俺は小春のとなり、意地でも離れへんで。小春が死なへんなら、俺かて死なへん」
「いちいち重いんじゃ、アホ氏」
「俺と小春足したらええ塩梅やんけ」

そんなん、満ち足りた顔をしているユウ君が勝手に幸せを押しつけてきただけや。アンタなんか、一生このままでいられへんの、知らんだけやろ。はやく未来に気付いて幻滅してしまえばいいのに。なのに。口を開けば「大丈夫や」。ホンマなんにも知らんくせに。そんなユウ君と同じところにおってもなんにも満たされんし、ユウ君の気持ちなんかこれっぽっちもわからへん。このままどこに行ったって、ひとりぼっちのままやのに。

懲りずにキスがしたいと迫ってくるユウ君の額にチョップをかました。もう知らん。知ってなんかやらへん。もう本なんか読めへんかったけど、ユウ君とは視線を合わせない。合わせられない。そっぽを向いて、それでも肩に触れる手は振り払えなかった。





なんだかんだ言ってもやっぱり
ユウ君のこと好きな小春ちゃんかわいい。







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