9つ目のエンゲージ
「グッとくるプロポーズのコトバ聞けたらアタシ、ユウ君と結婚するわ」
目の前に差し出されたのは、1000円で8つ入った玩具の指輪だった。値札も取らずに出されたそれは、安いプラスチックの飾りがアホみたいに輝いていた。おもちゃ屋でよぉ見るしょおもないモンを、小春が買うてきたっちゅうだけで、かわええ思う。
1つ目の指輪をそっと箱から取り出す。ピカピカの銅の色をした輪っかに真珠もどきがくっついている。真っ白なビーズを花に見立てて、葉っぱ色したプラスチックがくっついた。安いのはいただけんかったけど、控えめでしとやかで、小春みたいな指輪やった。
「あら、ええの?そんなチャンス早々に使ってもうて」
「毎日プロポーズしたって足らんぐらい好きやから」
小春の手を取って、薬指にそっと差し込んだ。からっぽの円に小春の指が入り込む。丸い爪がつやつやで、薄ピンクに色づいている。可愛ええなぁ。小春のことやから爪にマニキュアでも塗っとるんやろか…。
「ねぇ。もし、ユウ君がどないなプロポーズしても、OK出す気がないって言うたら…どうする?」
指輪に視線を落とした小春は、口をちいさく動かして問いかける。小春は俺に自分のこと尋ねるたび、寂しそうな顔をする。俺ずっと一緒におるのに、なんでそんな寂しそうな顔するん?
「俺が小春のこと諦める訳ないやろ?大体、小春が8つ指輪もろたところで、キュンと来たわーって都合よく振り向いてくれるとは思ってへんし」
「はあ…、せやね。そないやったら指輪いらへんかったかしら」
「ええやん、やろ」
指輪は8つ全部、渡すわ。そのうちに俺のこと、好きになって。金稼げるようになったら、小春のこと思って9つ目の指輪、やるから。そんときは心から、俺のこと愛してる言うてや。祈りを込めて、指輪を嵌めた小春の薬指にそっとくちづけた。
学生時代のユウ君は何もかも夢見がち
という話であります。