連絡手段のスマートフォンは先ほど壊れてしまった。木端微塵となった液晶はどんな機械音痴が見ても「再起不能」と判断するだろう。
「僕携帯持ってなーい」
「ああそうだろうよ持っててもお前にゃ頼まねえ!」
ようやく収まった怒りが再燃しかけた蓮沼に、ガラテアがウエストバッグから取り出した携帯を差し出す。
「使うですか?」
少年は一瞬何か言いたげな表情を見せたが、先程の悪夢のような「活躍」を思い出したのか素直にそのやや旧式になった機械を受け取った。
「ああ、悪い。…………。チッ、電源切ってやがるみたいだ」
それを聞いて九条が訝しげに反論する。
「支援頼まれて向かってる最中に電源切るかなあ? 無駄に几帳面な小鳥遊君に限って充電してないなんてのも考えにくいし」
「つってもこの島どこにいても電波は入るだろうが」
「…………そうだね」
「有り得ない」と九条の脳内で却下されかけた嫌な予感を、ガラテアが口にした。
「あるじゃないですか、電波の入らない場所。普通なら学生は入るどころか、あることすら知らないはずですけど――《地下街》に迷い込んだのかも」
「この島、地下なんてあったのかよ」
「あるよ、何層かね。最下層には誰も入ったことないらしいから正確な数は分からないけど。」
自称ロボットは人間が記憶を引き出そうとする時のように口元に指を当て目線を宙に向ける。
「《地下街》は上から2〜3階層くらいですから、割と浅いのですよ」
「でもあぶないの?」
「女の子と頼りないメガネだけじゃちょっと心配かな。それに、もう立ち話してる暇無いみたいだね」
向こうから揃いの白い制服に身を包み、特殊警棒で武装した集団がバイクで走ってくる。
《管理局 治安維持課》だ。
「ガッちゃん、一番近い入り口は?」
「こっちです!」
ガラテアに続いて、後の3人も駆け出した。