「虎……!?」
「違うよー? たまはライガー……じゃない、ちょっとでかい猫だよー?」
《ちょっとでかい猫》。
そう形容された褐色の獣は猫はおろか虎の大きさすら軽やかに越えている。
「ライガー……ッて確かライオンと虎の合いの子「だーかーらー、猫だってー。ちゃんと首に鈴着けてるでしょ?」
「何ソレ強引」
「ドラ〇もんだって鈴がなけりゃただの耳なし青だぬきだろ? つまりはそういった記号こそが……ってそんな哲学的な話してる場合じゃないや。行くよ、たま!」
たまは不満げに喉を鳴らしたが、彼女の主人は慣れた様子でその背に飛び乗る。
(どこが哲学的だって? 相変わらずおかしな男だ)
首をひねりながら白乾児はある情報を思いだし、躍り出そうとする九条を呼び止めた。
「1つ言い忘レてました。これは不確定な情報でスが――
『俺たちのバックには《葵心会(きしんかい)》がついてる』
そう言った売人がいるそうでス」
「へえ……まだ代金も支払ってないのにそんな話するなんてどういうつもりか知らないけど、一応お礼は言っとくよ。」
「だからまだ裏が取れてないんでスよ。
なんせ情報提供者は中学生でスから」
「中学生……?」
ある名前が頭をよぎるが、確かめようと振り向くとすでに情報屋は巻き添えを避けるべくどこかへ消えていた。
「なーんか面白い通り越して面倒臭くなってきたかなあ?」
まあいいや、とその話はそれきり脳の隅に追いやって、少年は獣を渦中へ向けて走らせた。