「蓮沼先輩からですか」
不穏な空気を感じ取ったのか、少し心配そうに逢坂さんが囁いた。
「はい、なんか榊木さんが怒って手がつけられないから来てくれって。でも急に電話が切れて」
「それは、場合によっては少しまずいかもしれませんね……。可能性は色々と考えられますが、行って確かめた方が早いでしょう」
言い様に彼女は立ち上がり歩き出す。
「あっ、ちょっと待って下さいよ! ……悪い葛城、オレ早退したって先生に言っといて」
「ああ、さぼって逢坂さんとデートだなんて言わないから安心してくれ!」
「……お前それ言ったら絶交な……?」
「分かってるよ。さすがに先生にバレたら恥ずかしいもんな」
「違う! 落ち着けお前根本的に間違ってるから!! どこをどう見たらそんな……って逢坂さん何してんですか!?」
彼女は目を離した隙に身長の倍は高さのあるフェンスによじ登り、身を乗り出していた。
「階段を使っていては時間がかかりすぎます。さあ、行きますよ」
―― 一応言っておこう。
この校舎は広々とした天井が開放的な5階建てとなっている。
「行きますよって、こんなとこから飛び降りたら確実に西区の前に天国に着いちゃいますけど!?」
「上手く着地すれば何ら問題ありません」
「オレそんな忍者みたいなこと出来ませんってば!!」
榊木さんの身を案じているんだろうが、焦りすぎ……というか目が怖い。
「……仕方ありません。暴れないで下さいね」
逢坂さんが
とん、
と軽い音を立てて降りてきて、
こちらに来たかと思った次の瞬間。
オレの体はふわりと浮き上がった。
「お、おおおお逢坂さん!?」
彼女はオレを事もなげに抱えて、もう一度するするとフェンスを昇る。
「口を閉じていないと舌を噛みますよ。……では葛城君、失礼します」
そして折り目正しい一礼のあと、命綱も無しに
オレもろとも飛び降りた。