九条は手の甲の真新しい傷をさすりながら邪気の無さそうな笑顔で首を傾げる。
「単刀直入に言うね。今この島の中で薬をばらまいてる連中がいるでしょ? そいつらがどこの差し金で動いてるのか知ってる事を教えて欲しいんだけど」
「その程度のことなら、オレに聞くまでも無いんじゃないでスか? その傷……どうせ拷問でもして抵抗されたんでシょう?」
「拷問なんて人聞きが悪いなぁ。僕はただ喋る気になるまで遊んであげてただけだよ? それにひどいんだ。やっと喋ったと思ったらあいつらみんな自分の雇い主のことも知らないんだって!」
白々しい台詞に情報屋は大きくため息をついた。
「そうでシょうね。奴らの中にはオレも知ってるヤツが何人かいましタが……どれも精々チンピラ止まりの小物でス。上に組織があるとすれば彼らは底辺も底辺、捨て駒として雇われてるんでシょう」
「ふぅん。そこまで慎重に足がつかないようにしてるなら、本当の黒幕は島の中にはいないか。まあ、退屈しのぎにさえなってくれれば僕としてはいいんだけど♪」
「……旦那、」
白乾児が何か言おうとしたその時、外の喧騒と窓際のどよめきがボリュームを増して二人の会話を遮った。
「旦那、あれアナタの後輩じゃないんでスか?」
店の外で派手に喧嘩をしているのは、不良であることを全身で主張しているかのような10人ほどのグループと、学園の制服を着た男女2人組。
勝負の行方はあまりに一方的だった。
「あーあ、何やってんだか」
九条は口の端を楽しげに歪めた。