お兄さんは怪訝そうにオレを見下ろす。
「ああ、キミ……アイドルオタク?」
「違います! ただのファンであってオタクじゃありません!」
オレはこれでもかと言うほど力強く訴えた。オタクを悪く言うつもりはないが純粋なファンと一緒にしないでほしい。これだから一般ピープルは。
そんなオレの憤慨をよそに一般ピープルは派手な上着のポケットを探っている。
「ふぅん……まあいいや。これあげる」
「へ?」
手に握されたのはキラキラしたセロハンに包まれた飴3つと少しシワになったメモだった。
「うちの会社の新製品。なんか疲れてるみたいだったから。これ食ったら元気になるよ。気に入ったらここに電話して? じゃあ」
「えっ、あ、ありがとうございます!」
現金なもので、優しくされると急に怯えたり怒ったりしたのが申し訳なくなってくる。
(なんだ、怖い人じゃなかった)
バイトを週にいくつか始めたばかりだったオレは、見知らぬ他人の気遣いがなんだかすごく嬉しくて、それらをポケットにそっとしまった。