1‐7
 ――西区 繁華街

 その日、オレは労働の喜びを噛み締めながら人混みを歩いていた。ようやく出たバイト代で買ったCDをたすき掛けの鞄にしまい込んで足早に寮を目指す。

(西区のこの雰囲気、いまだに慣れないな)

 毎日が祭りのようなこのにぎわいに、根が田舎者の自分はいつも圧倒される。

(ほら、なんかそこにしゃがんでるお兄さんもなんか睨んでるし……!)

「そこのボク、ちょーっといいかなあ?」
「……えっ、オレ、ですか?」

 つい声が上ずった。できるだけ平静を装ったつもりだが内心

(うわあぁああ! カツアゲだ、都会名物カツアゲだよぉおぉお!!)

 こんな感じで大騒ぎだった。本当に怖かったのだ。笑わないでほしい。

「おっ、オレ金持ってません! 手持ちはみんな桜川ありすのCDに使い果たしましたからっ!」

 とっさに本当のことを言ってしまった。騒がしい街の中だというのに二人の間だけやけに静かに感じる。補足しておくと桜川ありすとは今局地的に話題沸騰中のネットアイドルである。話すと長くなるのでここでは彼女の詳細は割愛しておこう。

「……はあ?」


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bkm
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