カラカラ、と背を預けていた窓が、静かに開けられた。 急に背もたれが動いたので驚いて振り返ると、柳が眉間にシワを寄せて、窓に手をかけていた。 肩にかかった毛布はずり落ちそうだ。 「起きたんか」 「起こされたんだ。精市の笑い声で」 不機嫌そうな声は、まだふわふわとして柔らかそうな響きをしていた。 目を擦りながら、窓を閉め、右隣に座ってくる。 「狭い。詰めろ」 「じゃって、幸村」 「はいはい」 男三人にこのベランダは、身を寄せ合っても狭かった。 柳が毛布を半分よこしてくれたので、ありがたくくるまった。 ついでに毛布に隠れるようにして、手に手を絡めておいた。 柳はわずかに驚いたような顔をしてこっちに顔を向けたが、それも一瞬で、すぐになんでもないような顔をして前に向き直った。 そっと握り返された手の平が、ひどく嬉しい。 左隣の幸村と目が合えば、彼はやはり片眉をぴくりと上げて、笑みを浮かべた。 俺達はそうして、しばらく黙って寒いベランダにいた。 やがて寒さと眠さに耐えられなくなり、誰からともなく「戻ろう」と声が上がったので、静かに窓を開け部屋に入った。 幸村のマグカップもすっかり冷えていそうだった。 「カーテン」と後ろから呟く声が、思い出の渦から俺を引きずり戻した。 柳が不思議そうな顔をして立っている。 十五歳の頃より、頬の肉が少し落ちた。 俺に気付ける変化はその程度だった。 そのくらい柳とはずっと一緒にいるし、そもそも彼はあの時点でほとんど完成していた。 「閉めないのか?」 「おう、閉める」 言いながら、カーテンを閉める。 外は暗く、あの時よりも、時間は早いけれどずっと寒いに違いなかった。 柳の向こうに見えるテーブルには、すでに鍋の準備が整っていた。 席につき、揃って手を合わせた。 俺の皿には大根もそれ以外の野菜もたくさん放り込まれていた。 にんじんは星型じゃない。 食事をしながら、俺はさっき思い出したことを柳に話した。 ああ、と柳も思い出したようで口元を緩めた。 「懐かしいな」 と嬉しそうに。 それなのに、「ベランダで手え繋いだじゃろ」とあの時の俺にとっては最も重要だったことを言えば、「そんなことあったか?」と本気でとぼけたような顔をされた。 でも俺にはそれが、照れているのを紛らわすためだと分かっている。 おそらく幸村がこの場にいたら、片眉を上げ、こっちに目線を送ってくるはずだ。 「見せつけてくれるねえ」と、からかうように。 鍋を食べ終わったら、二人でベランダに出てみるか、と俺は勝手に決めている。 柳はきっと寒がるだろうから、毛布をかぶって、熱いコーヒーを注いだマグカップを持って。 十年が経った。 今の俺達の一年には、大会も体育祭も文化祭も受験もない。 たくさんのことが変わってしまった。 当たり前だし、どうしようもないことだと分かってはいるけど、やはり少し寂しい。 俺と柳の関係もあの時とは違う。 隠れてそっと手を握るだけでは、もう満足できないし、それだけであの時のような気恥ずかしさと、きらめくような幸福を感じることもない。 だけど今も俺の隣には柳がいる。 それで良い。 それさえあれば良い、とも思う。 ------- 幸村の邪魔立てにも負けない健気な仁王くん、の方で書かせていただきました。 邪魔してるかどうか微妙ですみません。更に健気かも微妙で…。更に更に、とっても遅くなってしまいすみません。 私も姑のように二人を見守る(?)幸村くん、とういう図が大好きなので、リクエストすごく嬉しかったです! 幸村くんは仁王くんも柳さんも好きで好きでしょうがないんだろうな〜と思います! この度はリクエストありがとうございました!嬉しかったです〜 2012/03/05 管理人:きほう |