土曜日、午後十一時。 バイトを終えて、電車に乗っていた。 バイト先から家までは一駅だけなので、たった三分のために、待ち合わせだなんだと中々発進しない各駅停車を待つのはいつも損な気がする。 油ばかり使うところにいたからか、髪も肌もなんとなく油っぽい気がした。 匂いもついていると思う。 早く帰って、さっさとシャワーを浴びたかった。 ゆっくりと電車が進み、三分で駅に着いた。 「あ、おかえり、赤也」 「ただいま…」 玄関を開けて部屋に入った瞬間、俺は鼻を啜った。 「なんか良い匂いがするんですけど…」 「パウンドケーキを焼いてみたんだ」 「パウンドケーキ…」 「バナナとナッツの」 「バナナとナッツ…」 俺は馬鹿みたいに柳さんの言葉を繰り返した。 香ばしい匂いが肺を満たして、じわじわと体に充満していく気がした。 「食べるか?」 「食べます!」 さっきまで、帰ったら即行で風呂場に行ってやろうと思っていたのに、俺のベクトルは完全にパウンドケーキに向いてしまった。 べたついてようと油臭かろうと、柳さんのパウンドケーキが何よりも早く食べたかった。 甘くてふわふわのパウンドケーキが舌に乗るところを想像して、俺はごくんと喉を鳴らした。 日曜日、深夜一時。 「箱根、伊豆、鬼怒川…うーん、どこが良いですかね」 「場所というより、旅館で選んだらどうだ?源泉掛け流し、蟹食べ放題、個室露天風呂なんてのもあるぞ」 個室露天風呂…なんかえろい。 俺は、頭の中が一瞬でやらしい方向にシフトしそうになるのを、ぶんぶんと頭を振って堪えた。 ベッドにうつ伏せで寝転びながら、旅行会社のパンフレットを眺めていた。 夏休みに二人で旅行に行こうというのは、冬休みから決めていたことだ。 もうすぐ予約をしないとな、ということで、大まかにだが決めようということになったのだ。 とりあえず、目的は温泉で決まっている。 「俺、その個室露天風呂?っていうのが良いっス」 「そうか?なら、こことか、あとはこことかどうだ?」 「あ、ここ良いじゃないですか。お湯が乳白色で」 「乳白色が良いのか…?まあ良いが。なら、明日またネットで調べて、ここの他にもいくつか候補をあげようか」 「そうしましょー」 柳さんが、他に何か希望はあるか?と聞いてきたけど、特にないと答えた。 なぜなら、俺の頭の中は、個室露天風呂につかる色っぽい柳さんの妄想でいっぱいだからだ。 ついでにその柳さんに色々しようと目論みつつ、パンフレットをぱたんと閉じ、大きく伸びをする。 「もう寝なきゃですね。柳さん、月曜日起きれないしぃ」 「それは…うん、そうだな。しかし、月曜以外はほとんど俺がお前を起こしているぞ?」 「それは…はい、そうですね」 俺が、本当のことなので何も言い返せないでいると、柳さんは「まあもう寝るか」と言って、微笑んだ。 はーい、と返事をして、リモコンで電気を消した。 真っ暗になった部屋で、俺は柳さんをぎゅっと抱きしめる。 柳さんは大人しく抱きしめられている。 いつもなら、「俺は抱き枕じゃないぞ」ぐらいは言われるので、おや?と思っていると、その代わりにすうすうという寝息が聞こえてきた。 思わず笑みが零れる。 柳さんの穏やかな寝息を聞きながら、俺もゆっくりと瞼を閉じた。 「おやすみなさい」 --------- 同棲、良いですよね〜。私も大好きです。 しかしなぜこんなにも食べ物ばかりなのか。 読み返してから、お風呂とか寝起きにいちゃいちゃとか、もっとおいしいのいっぱいあるじゃない…!と思いました。 いつかリベンジさせてください(笑) また、お待たせしてしまって本当にすみません。 これからもよろしくお願いします…! それでは、リクエストしていただきありがとうございました! 嬉しかったです! 2011/5/22 管理人:きほう |