同棲赤柳1 | ナノ





月曜日、午前七時。

月曜日は、日本全国誰だって憂鬱だ。
でも、柳さんは特別月曜日に弱い。
一週間のうちこの日だけ、彼は目覚ましが鳴っても起き上がらないし、俺が起こしに行っても、最初の二回は絶対起きない。
起きてもしばらくはぼうっとしている。
朝ご飯もろくに食べずに、ゆらゆらと頭を揺らしながら大学へ行く。
一体どうして月曜日だけそんな風になってしまうのかは分からないが、もう柳さんの身体はそういうサイクルになっているので仕方ない。

目覚ましとともに俺は無理矢理に起き上がって、隣で熟睡中の柳さんの肩を揺する。
「朝ですよ、起きてください」
うー、と威嚇する犬みたいに唸って、柳さんはもぞもぞと俺に背を向けてしまう。
二回目は五分後、と決めているので、俺はベッドから抜け出して、顔を洗うために洗面所に行く。

二年生のときは、月曜日に一コマも授業を入れないで休みにしていたのに、三年生ではどうしても取らなければいけない授業があったそうだ。
しかも一限。
柳さんが単位を落とさないように、俺は毎週月曜日だけ、きっかり七時に目を覚ます。
他の曜日はてんでだめだけど。

あ、五分経った。
「やなぎさーん!遅刻しちゃいますよー!」


火曜日、正午。

なんだか空が灰色だなあ、と思っていたら、急に大きく風が吹いた。
その途端、ザアッと音を伴って、一気に雨が降ってきた。
「ゲリラ豪雨だ!」と誰かが叫びながら、大学内のコンビニに駆け込んだのを見て、俺も同じように駆け込む。
降ってきてすぐに屋根のあるところに入ったというのに、信じられないくらいびしょ濡れになった。

コンビニ内では、用事があるのか、それともただ早く帰りたいだけなのか、学生たちによるビニール傘の争奪戦が行われていた。
レジには傘を持った人たちの列ができ、店員が慌てた様子で裏から大量のビニール傘を表に出してきた。

俺も買って帰ろうかな、と思っていると、ガラスの向こうにあの人の姿を見つけた。
「あ」
俺が呟くと同時に、彼もこちらに気付いたのか、にっこり笑って小さく手を振っている。
傘に群がる学生を掻き分けて、自動ドアを通って駆け寄った。
「柳さん!どうしたんスか?俺の大学まで来て」
「だって赤也、お前傘を持って出なかったじゃないか」
と言って、柳さんは自分の差している傘を俺に傾けながら、別に手に持っていた傘を差し出した。
「そ、それだけのためにここまで来たんスか…?」
「時間ぴったり、ナイスタイミングだっただろう?」
と柳さんは自慢げに笑う。
雨はザーザーというよりドサドサと降っていたので、俺は「さすが柳さん!ありがとうございます!」と言って、空色の傘を上に向けて勢い良く開いた。


水曜日、午後三時。

「あー、やっぱり柳さんの大学の方がメシ美味いっスね」
俺が上機嫌でそう言うと、柳さんは嬉しそうに微笑んだ。
水曜日は、授業が二限までだ。
柳さんも同じく二限までだから、俺はたまに柳さんの大学に遊びに行って、一緒にご飯を食べる。
大学同士がそれなりに近いし、柳さんの大学のカフェテリアは、メニューが豊富で美味しいから。

俺のお気に入りは唐揚げ丼だ。
どんぶりいっぱいの白米にのった唐揚げの上には、半熟の目玉焼き、そこに甘辛のタレがかかっている。
このタレがかなり美味い。
一度、柳さんと家で研究と開発(と柳さんは言っていた)を試みたことがあるけど、残念ながら味の再現は出来なかった。

柳さんは大体麺類を頼む。
前に冗談で「この勢いだと麺類メニュー全部制覇しちゃうんじゃないっスか?」と言ったら、「とっくだ」という答えが返ってきた。
麺類が好きだというのに、俺と一緒になって理想のタレ作りに奮闘してくれる。
そういうとき、俺はこの人が好きだなあ、と思う。
なんだかしみじみと、思う。

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