晴れたらいいね | ナノ

06



仁王4


暇な休日に、まだ慣れない。
夏までは部活があった。
土曜日も日曜日もテニスをしていた。
夏休みに入ってからも毎日だった。
それが急に無くなっても、何をしたら良いのか分からない。
真田や幸村はたまに部活に顔を出しているらしいが、テニス部を続けない仁王にはそれもできない。
他の連中は何してんじゃろ、と思って、真っ先に思い浮かんだのは柳だった。
昨日あんなことを話したせいか。
柳に「テニスをやめるのか」と訊かれるのは、叔母に訊かれるよりずっとこたえた。
思い出して息が詰まった。
苦しい。思い出すんじゃなかった。

枕元に置いていた携帯電話を開く。
デジタル時計の表示は昼を過ぎている。
目を擦りながら部屋を出て、リビングのドアを開ける。
叔母はいない。
壁のホワイトボードの叔母の欄に「仕事。朝はテーブルに、お昼は適当に」と書いてある。
普段は土日休みだから、今日は保護者面談の日の振り替えだろう。
テーブルを見ると、ベーコンとほうれん草を炒めたものとロールパンが皿に載っていた。

文字の下には、マグネットで千円札が押さえられていた。
叔母は毎月のこづかいと食費は別と考えているようだ。
毎朝弁当を作らない代わりに、こうしてお金をホワイトボードに貼っていく。
そのお金が彼女のポケットマネーなのか、両親のものなのかは分からない。
そもそも、両親から叔母へのお金の流れがどうなっているのかを知らない。
訊いたところで叔母は教えてくれないのだ。
それが大人なんだろう。
仁王も三年間で知らないフリを覚えていた。


仕事がある日の叔母の朝は仁王より早く、夜は遅い。
朝ごはんは彼女が、簡単なものだけど作ってくれる。
夜ごはんは仁王が作っている。
同じく簡単なものだけど、三年間でレシピもずいぶん増えた。
元々凝る性格なのだ。
叔母が買ってきた料理本から選んで作ることもある。
自分で買ってきたくせに、叔母は一度もその本を開いていない。
叔母が休みの日は、二人とも朝食はとらなかった。

家事は生活しているうちに勝手に分担されていった。
叔母と暮らすのは楽しい。
今の生活が嫌いではない。
けれど仁王は、この場所が自分の居場所だとも思えなかった。


上だけ着替えて、顔を洗って、朝食を食べて、歯をみがいて。
ホワイトボードの千円札を外し、ポケットにつっこんだ。
自分の欄に「でかける」と書く。
外に出ると、鬱陶しいぐらいに暑い。
どこに行く予定もない。
とりあえず歩くか。
ふと何かを忘れているような気がした。
しばらく頭を捻ってみるけれど、思い出せそうにない。
きっとたいして大事なことじゃないと決めつけて、気にしないことにした。





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