晴れたらいいね | ナノ

01



仁王1

中学一年の春、仁王は日本の左側を出て、右側の神奈川県にやって来た。
実家を離れて叔母と共に住むためだった。
坂の途中に斜めに建てられたマンションに、リュック一つで引っ越した。

昔から家が嫌いだった。
始まりは小さな嫉妬だ。
両親が優秀な姉ばかりを気にかけるから、幼心に嫉妬が芽生えた。
自分だって注目されたい。大事にされたい。
そんな思いでいっぱいだった。
自分のことをまるで見ない両親。
それでも、いつかは自分を認めてくれると、ずっと信じていた。

姉がいなければ良かった。
この家のたった一人の子どもだったら良かった。
何度もそう思って、同じくらい自己嫌悪に陥った。
そして、しばらくして、それが現実になってしまった。

仁王が小学五年、姉が高校一年の春、彼女は本当にいなくなってしまった。
雨が降り、風が吹き、雷が鳴る嵐の日に、姉は家を出て行った。
後から思えば、両親の姉への期待と執着は異常だった。
まだ子どもだった姉が、それに堪え切れなくなったのだと、今なら簡単に分かる。
なぜなら姉がいなくなった瞬間から、それは仁王へと降りかかってきたのだ。
当事者になって初めて、その異常さに気がついた。

しばらくして、テニスの強豪校に行きたいから、という名目の元、仁王も家を出ることにした。
両親は、息子の才能が伸びるなら、と意外なほどすんなりと送り出してくれた。
たぶん自分の扱いづらさから、もう一人の子どもに期待を移しはじめていたんだろう。
だから仁王は残していく弟だけが心配だった。
そのくせ、二度と実家には戻らないんだろうな、と思っていた。

中学生での一人暮らしはさすがに許されなかったので、神奈川県に住む叔母の元に預けられることになった。
母親の妹である彼女は、優しくて気さくな人だ。
自分のことをお姉さんと呼べと言う。一回も呼んでいないけど。
冗談も通じるし、一緒に暮らすのはきっと苦痛じゃない。
でも決して心を開くことはないんだろう。
一緒に暮らすだけだ。
家族にはなれない。

小学五年の春、姉が出て行った日から、仁王は孤独だった。
ずっとあの嵐の中に、一人ぼっちで取り残されている。



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