08 柳4 部屋での勉強を中断して一階のリビングに下りた。 母が台所から顔を出す。 「ちょうど良かった。もうお昼できるわよ」 ソファには姉が寝転んでいた。 ぼんやりとした顔でテレビのチャンネルを変えまくっている。 「なぁんもやってない」 「いつもブランチを見ていなかったか」 訊くと、嫌いなお笑い芸人が買い物をしているから嫌なのだという。 「何も見ないのなら貸してくれ」 「いいけど」 リモコンが放られる。 「あんた達お昼だって言ってんだから手伝いなさいよ」 「はーい」 と姉が立ち上がった。 柳はテレビの天気予報のページを開く。 明後日からの台風に注意。今日の夕方から雨模様。 「蓮二ー、ごはん」 母が呼ぶ。 ページを閉じて姉の隣の席につく。 テーブルには冷やし中華が並んでいた。 麺だけが目の前のお皿に盛ってある。 いただきます、と声を揃える。 トマト、きゅうり、錦糸卵、ハム、それぞれを盛り付けていく。 「なに、蓮二どっかでかけんの」 口が開けないから無言で頷く。飲み込む。 「天気どうだった?」 「夕方から雨が降るかも知れない」 「げ、傘持ってかなきゃ。あー、置いてあったかな」 「あんた今日バイト?」 「十時までね」 「ごはんは?」 「いらない」 「もっと早く言ってよね」 「急に入ったのー、聞いてよ、入るはずだった子がさあ……」 姉と母の会話が右から左へ抜けていく。 柳はただ漠然と、何も考えたくないな、と思っていた。 折りたたみの傘を持って出掛けた。 どこに行こうという目的も無かった。 [←] | [→] |