図書室の保管庫の鍵を持ったままだと気がついたのは、寝る直前になってからだった。 ここの図書室は蔵書の割に狭いため、あまり読まれない本は、奥の保管庫に山積みになっていた。 保管庫の鍵は図書室ではなく、一階の警備室で借りなければならないため、六階の図書室を出て、なんやかんやと用事を済ませているうちに、返すのを忘れてしまっていたようだ。 それが昨日今日のことなら、明日にでも返せば良いか、と思うところだが、私が保管庫の鍵を借りたのは一周間前だ。 鍵を借りるには、警備室で名前の記入が必須となっていたので、今日まで問い合わせが来なかったのが不思議なくらいだ。 誰も保管庫の鍵を必要としなかったのか。 確かに、あそこにある本はほとんど読まれないということか。 警備室には二十四時間体制で警備員が詰めているはずなので、私は保管庫の鍵を返しに行くことにした。 エレベーターは十九階から下りてきたところだった。 私のいるのは十八階だったので、急いでボタンを押すより早く、そのまま下の階へ行ってしまった。 そして、七階で止まった。 おや?と私は思った。 十九階はもちろん、ビルに住む人間の部屋だ。 そこから誰かが、七階に下りたということだ。 こんな夜中に、一体どこへ? 七階にあるのは殺風景は会議室だけだ。 どこへ、というよりも、誰が、そんなところに用があるんだろう。 このことは、私の好奇心を強く刺激した。 エレベーターがやって来た。 中へ乗り込むと、私は迷わず七階のボタンを押した。 七階の廊下の電気は当然点いていなかったが、カーテンが引かれていないおかげで外からの光が入り、それほど暗くも無かった。 窓際の光を頼りに歩いていたので、私は必然的に窓に貼りつくような形になった。 冷静に考えるととても不格好だが、その時の私は興奮とはやる気持ちでいっぱいだったので、気にもならなかった。 歩いて半周ほど、エレベーターのちょうど真後ろに位置する会議室に人の気配があるのを感じ取った。 私が感じ取ったのだから、向こうもそうだろうと思い、特に隠れることもせずに近づいた。 近づくにつれ、中の様子が分かってきた。 会議室には二人の人物がいた。 誰かまではまだ確認出来ない。 私は更に近づいた。 電気も点けずに、一体何をしているのだろうか。 秘密めいた何かに違いないと思って、私はわくわくしていた。 それなのに、そのわくわくはすぐに萎んでしまった。 会議室にいたのは、柳くんと仁王くんだったのだ。 二人がなぜここに? そう思い、私は息を潜めて、ドアのすぐ傍まで寄った。 二人は私には気づいていないようだった。 夢中になっている様子だったからだ。 何に? お互いにだ。 仁王くんは椅子に座っていた。 柳くんはその下で、跪くような姿勢を取っていた。 その頭が、仁王くんの下腹部の辺りに沈んでいる。 仁王くんの表情までは見えなかったが、私にはそれが、満足げに笑っているように見えてしょうがなかった。 やがて柳くんが顔を上げ、仁王くんと見つめ合う。 仁王くんの手が伸び、褒めるように柳くんの髪を撫でた。 二人の間に漂うのは、秘密めいた何か、であり、恋人同士のそれに非常に良く似ていた。 いや、きっとそうだった。 [←前へ] | [次へ→] |