次の日目が覚めると、私は自室のベッドにいた。 朝日の眩しさに目を細める。 昨日のことは夢だったのか。 そう思ったが、鏡を見ると、首筋に鬱血痕のようなものがあるのに気づいた。 赤く小さなそれは、まさに昨日柳くんに生気を吸われたという証ではないか。 私は不思議な高揚を感じた。 やはり昨日のあれは、夢では無かったのだ。 準備を整えてから、仕事のメールをチェックする。 今日は桑原くんとコンビになるようだ。 彼とのコンビは半年ぶりだった。 彼はいつもは丸井くんと一緒に仕事をしているからだ。 仁王くんと一緒じゃなかったことにホッとしつつ、私は部屋を出た。 エレベーターを待っていると、後ろから大きなあくびが聞こえてきた。 「ふあ、おはようさん…」 仁王くんだった。 「おはようございます」 私もいつも通りに挨拶を返す。 エレベーターがやって来たので、二人で乗り込む。 「十階でよろしいですか?」 「ああ」 「珍しいですね。朝食をお食べになるのは」 「んー、今日丸井と一緒なんじゃけど、久々じゃし色々と確認しときたいことがあっての。十階行けば絶対会えるじゃろ」 と仁王くんは苦笑いぎみに答えた。 「仁王くんが丸井くんとでしたか。私は今日桑原くんとなんです」 「ほう」 と仁王くんは気の無い返事をした。 エレベーターが十階に到着した。 私が開くのボタンを押し、仁王くんが先に降りた。 と思ったら、降りる直前で仁王くんは振り返り、扉を押さえながらこう言った。 「魔の者に入れ込むとロクなことが無いぜよ」 「それは忠告ですか」 「経験談じゃ」 仁王くんは愉快げにそう言うと、私に背を向けて歩き出した。 「それでも良いのです」 もうだいぶ先に行ってしまった仁王くんには聞こえないと知りながらも、私は答えた。 例えこの身が朽ち果てようとも、柳くんの血となるなら本望だ。 それがケモノの血であろうと。 彼が魔の神になろうと。 やがて扉は勝手に閉まり、私はたった一人取り残された。 -END- [←前へ] | [→] |