翌日、朝起きてすぐにパソコンのメールを確認して、私は顔をしかめた。 それは毎朝欠かさず送られてくる仕事内容を記したものだった。 場所はどこか、何人で行くか、誰と行くか。 やることは全て一緒なので、それは記載されない。 私は、誰と、のところに、仁王くんの名前を見つけたから顔をしかめたのだった。 「おはようございます!」 と朝から元気の良い声がして、どこからだろうと探せば、入ろうとしていたレストランの奥で切原くんが手を振っているのを見つけた。 ウェイターに断って、そちらに向かう。 「おはようございます。ご一緒してもよろしいですか?」 「もちろんッス」 彼の前の席に腰掛ける。 手を上げるとすぐにやって来たウェイターに、モーニングセットを注文した。 「絶好の仕事日和ッスねえ!」 と切原くんは嬉しそうに言った。 昨日の初仕事の成功で、自信をつけたんだろう。 「今日はどちらに?」 と私は訊ねた。 どちら、というよりも、聞きたかったのは、誰と、の方だった。 柳くんは今日、閉じに行くのだろうか。 それが気になった。 「どちらにって…一緒に行くじゃないスか」 「え…ああ、そうでしたね」 すみません、と謝る。 今日も切原くんと一緒だったとは。 仁王くんにばかり気を取られて、横の切原赤也の文字を見落としていたようだ。 「楽しみですねー」 はしゃぐように言う切原くんに、私は「そうですね」と曖昧に返事をした。 仕事は思ったよりも早く終わってしまった。 今日は三か所を回り、四匹の魔の者を閉じたが、三人もいるのはやはり多かった。 予定より早く終わったことを、仁王くんも切原くんも喜んでいるようだった。 「順調でしたね!順調でしたよね!」 ビルへ戻る車中で、運転席の切原くんは言った。 私は助手席、仁王くんは後ろの席に座っていた。 「三か所でしたから、もう少しかかると思いましたが、意外と早く終わりましたね」 「ですよねー。こう、骨の無いやつよりも、もっと強いやつとやりたいッスよ!」 切原くんははりきっている。 「俺は嫌じゃあ。力溜め込んどるやつは、それだけ匂うて、ケモノ臭いぜよ」 仁王くんが言った。 「匂うって、何がッスか?」 「ケモノの匂いじゃって」 「え、そんなんしますか?」 くんくん、と切原くんが自身の匂いを嗅ぐ。 「仁王くんは特別鼻が効くんですよ」 と切原くんに言うが、仁王くんがよくしているその話を、私は嘘に違いないと思っていた。 ビルのエントランスで、警備室に用事がありますので、と言って二人と別れた。 警備室に行き、保管庫の鍵を返した。 やはり誰からの問い合わせも無かったようで、警備員は嫌な顔一つせずに、事務的に用紙の記入を進め、それが終わると「どうも」と素っ気なく言った。 エレベーターに乗り、十八階のボタンを押す。 報告書は三人で分担だったので、一枚だけだ。 部屋で一休みしてからでも間に合うだろう、と思ったのだ。 十八階の廊下で、先に戻っていた仁王くんとばったり出くわした。 これからどこかに出掛けるのかも知れない。 「あの、仁王くん」 と私は思わず声をかけていた。 仁王くんが、ん?と気だるげに立ち止まる。 「あの…」 「なんじゃ」 私は何を言うべきなのか迷った。 そもそも、何を言おうと彼を呼び止めたのか。 あなたは柳くんとどういう関係なのですか、と? 夜中の会議室で猥らな行為におよぶという趣味がおありですか?と、そう聞こうと思ったのか? 聞いてどうするのだ。 第一、私はそれが事実であっても、知りたくなかった。 柳くんのこと、実は私も好きだったんですよ。とても残念です、とそう言うのか? なんて意味のない。 「…柳生、なんじゃ?」 訝しげに、仁王くんは繰り返した。 「いえ…報告書を出し忘れないようにと、言おうと思いまして…」 「ふうん」 仁王くんは納得していないように私のことをじっと見つめていたが、やがては肩をすくめて頷いた。 「あっそ。心配せんでも、ちゃんとやるきに」 「それは失礼しました」 私は頭を下げ、仁王くんのことを見ないようにして、廊下を自分の部屋へ歩いた。 [←前へ] | [次へ→] |