ひねもす | ナノ

04



倒れ込んできた謙也の勢いに押され、俺の脚がたたらを踏む。
背中から倒れ込みこそしなかったものの、そのまま、謙也の身体ごと道路にしゃがみ込んでしまった。
「……っおま、おれ、サンダル……っ!」
俺の息は滑稽なほど乱れていた。
サンダルのままの全力疾走はつらい。
ましてや呑み過ぎた次の日では。
ましてやスピードスターの謙也の鬼役では。
なにより俺は十五歳ではない。
「……ごめん」
小さく呟いて。
謙也が俺の素足に触れた。
ピリ、と痛みが走る。
夢中になって走ったせいで擦り剥いたらしい。
謙也は息一つ乱れていなかった。
やはり手加減してくれたのだ。
じゃなきゃ、サンダルで二日酔い明けで十九歳の俺が、彼に追いつけるはずがなかった。

謙也に視線を戻すと、彼も同じように顔を上げた。
不安なのか、かわいそうなくらい潤んだ瞳。
それも嘘?
分からない。
俺が何をどう言おうか考えているうちに、謙也の方が口を開いた。
「……ごめん」
「……何が?」
「……逃げて、それと……。俺、嘘ついてた」
謙也は唇を噛み締める。
そんなにしたら切れないかと心配になる。場違いに。
なんだか現実味が無かった。
アパートの廊下で「ここは空き部屋です」と言われた時よりも。
果たして俺は、嘘をつかれていたことに腹を立てているんだろうか。
だったらどうして謙也が話すのを、何かを怖れるように、耐えるような気持ちで聞いているんだろう。

「……ちゃんと話すから。全部。本当のこと話すから。ついてきてもらってええ……?」
遠慮がちな謙也の声に、俺は頷いた。
「うん」
謙也は立ち上がり、手を貸してくれた。
離したらまたどこかに行ってしまいそうに思えて、俺は咄嗟にその手を握り締めてしまう。
謙也は驚いたようにこっちを見たけど、結局は何も言わずにそのままにしてくれた。
先を行く謙也に引かれるような形で道路を歩く。
住宅地のど真ん中で、人が見たらどう思うんだろう。
しかし謙也が足を止めるまで、他の誰にも会うことはなかった。


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