02 隣の部屋のインターホンを押す。 部屋の中からは、ピンポーンという音が聞こえてきたけど、謙也が出てくる気配は無い。 念のため、もう一度押した。 やはり出てこない。 日曜日だから大学はないはずだ。 だとしたらバイトだろうか。 あるいは他のどこかに出かけているのか。 意外と近くにいて、すぐに戻って来るかも知れない。 俺が、ここでこのままもう少し待ってみるか、それとも「彩菜堂」まで行ってみるかで迷っていると、管理人のおじさんが廊下の向こうからやって来た。 手に箒とチリトリを持っている。 「こんにちは、白石さん。お出掛けですか?」 おじさんがしたのに合わせて、軽く会釈する。 「あ、いや、この部屋の人に会おう思ってたんですけど、留守みたいで」 と俺は謙也の部屋のドアを指差した。 すると管理人のおじさんの顔から、人の良さそうな笑みが消えた。 不思議なものでも見るような目つきで、俺の顔をまじまじと見てくる。 「そこって、202号室のことですか?」 「はあ、そうですけど」 「202号室には誰も住んでいませんよ」 「え?」 「随分前からそこは空き部屋ですよ」 管理人のおじさんは、はっきりとした口調でそう言った。 「……は?え、でも、謙也は……ここに……」 頭が混乱した。どういうことだ。 混乱で目眩がして、ふらふらとその場に倒れそうになった。 「あの……空き部屋って、いつからですか……?」 それでもなんとか踏みとどまって、おじさんに訊ねた。 「去年の秋頃からですけど」 「……そうですか」 「ええ」 では掃除がありますので、と言い残して、おじさんは行ってしまった。 俺のことを変なやつだと思ったかも知れない。 けれどそんなことはどうでも良かった。 [←] | [→] |